師走16
食事が終わると、祢子は三人分の後片付けを済ませて、また二階に上がった。
「冬休みの友」の社会にとりかかる。
途中、おじいちゃんと健太が家を出る物音がした。
おじいちゃんが一緒ならだいじょうぶだろう。
三時半くらいに、母さんの自転車のブレーキ音が聞こえた。
社会があと少しだったので、祢子は出迎えもしなかった。
階段を上る足音がして、帰ったばかりの身なりで、母さんが祢子の部屋をのぞいた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「健太は?」
「おじいちゃんと、マー君と、川に釣りに行ったよ」
母さんはびっくりした。
「そう。おじいちゃんが。まあ」
「おじいちゃんが、ついていこうって言ったの」
「まあまあ」
母さんが、机の上に目を留めた。
視線の先に、祢子が放置していた二冊の本があった。
「祢子」「なあに?」
母さんはややためらって、
「今年のサンタさんは、おじいちゃんだったんだよ」
「えっ?」
祢子はちょっと意味がわからなかった。
「おじいちゃんが、『これでクリスマスプレゼントを買ってやりなさい』って、お金をくれたの。
祢子はもうすぐ中学生だから、知っておいた方がいいと思うから、言っておくね」
「へえー」
道理で。
おじいちゃんのニコニコ顔の理由がわかった。
でも母さんはなぜ、それをわざわざ祢子に教えたのだろう。
祢子はちょっと考えた。
「おじいちゃんにお礼を言った方がいい?」
「そうね。祢子は言った方がいいかもね。
健太はまだ子どもだし、あんなに喜んでいるから、それでいいかもね」
祢子はあまり嬉しがっていないことを、母さんはわかっていたのだ。
それで、おじいちゃんに対して申し訳なく思ったのだろう。
「わかった。おじいちゃんにお礼を言うよ」
母さんは、うなずいて、
「じゃあ、おやつを食べる?」
「うん」
母さんと一緒に洗濯物をたたんでから、一緒におやつを食べていると、おじいちゃんと健太がにぎやかに帰って来た。
「お帰り。なにか釣れた?」
「何にも。岩に釣り針が引っかかって取れなくなったから帰って来た」
その割には、健太は元気だ。寒さで頬が真っ赤になっている。
「オレもおやつ食べる!」
母さんは、寒かったでしょう、すみません、とおじいちゃんに謝っている。
「だいじょうぶだいじょうぶ。これくらい寒いうちに入らんよ」
おじいちゃんは、引っ越してきて初めて見るような楽し気な顔をしていた。
おじいちゃんにお礼を言うなら、読んでからお礼を言った方がいいような気がする。
祢子はおやつの後、自分の部屋で『大草原の小さな家』を読み始めた。
「祢子、ご飯よ~」
母さんの声に、はーい、と答えた。
母さんが、部屋まで来て、祢子の肩をたたいた。
「祢子、何回呼んだら来るの? いい加減にしなさい!」
祢子はしぶしぶ本を置いた。
「おもしろい?」
怒っていた母さんは、からかうような顔になっている。
「すごい。こんなにおもしろいなんて。本当に、おじいちゃんありがとうだよ」
「とにかく、先にご飯を食べなさい」
ローラ。メアリー。キャリー。父さんと母さん。
アメリカ西部の開拓者一家の物語。
犬一匹を連れて、馬車で旅を続けて、大草原で家を作り、畑を作り、狩りをして生きていく。
楽しいことばかりではない。
ケガをしたり、病気にもなったり。インディアンとの摩擦もある。
無人島の冒険みたいなものだ。毎日が新しい発見。
「おじいちゃん、あの本、本当に本当におもしろい! ありがとう!」
祢子は風呂上りに、書斎まで行って、おじいちゃんにお礼を言った。
おじいちゃんは、そうかあ、と言って嬉しそうにほほ笑んだ。