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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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師走14

 いつ、プレゼントを持ってきてくれるのだろう。

 わくわくし過ぎて、なかなか眠れない。



 どうやったら無人島に行けるだろうか。

 近くに、無人島があればいいのに。……





 祢子は夜中に何度も、寝ぼけながら枕もとに手をやった。

 そのたびに、虚しく手を布団に引っ込めた。





「姉ちゃん姉ちゃん、プレゼント来た?!」

 いきなり、健太が部屋に乱入してきた。祢子は飛び起きた。



「オレは、ほら、じゃじゃーん! つりざおでーす! 欲しかったやつ!」

 健太は、釣り竿セットを振り回している。


「当たる! 危ないから引っ込めてよ!」

 たたき起こされた不快感のままに、祢子は怒鳴った。



 時計を見ると、六時。

 冬至が過ぎたばかりで、まだ外は真っ暗だ。



 腹立ちはおさまらないが、祢子は電灯のひもを引っ張って明かりをつけた。

 枕もとを見たが、何も無い。


 おかしい。

 健太はもらっているのに。



「姉ちゃん、こっちに何かあるよ!」

 健太が、祢子の布団の足元を指さした。


 四角い紙包みが、掛布団からのぞいていた。


 あ、と言ったが早いか、祢子はそれに飛びついた。

 健太が熱く見守る中、セロハンテープをはがす暇も惜しくて、包み紙をびりびり破いた。



『大草原の小さな家』と、『風に乗ってきたメアリー・ポピンズ』。



 祢子は何度もひっくり返してみた挙句、二冊とも机の隅にぽいと置いた。



 これ以上ないほどがっかりしていた。

 いかにも、女の子が読みそうな、優しい絵の表紙。作者はどちらも女の人だ。


 違う。わたしは、無人島で冒険がしたいのに。少年のように。



「姉ちゃん、本だね。よかったじゃん。

姉ちゃん、本が好きだもんね」

 無邪気に祝福する健太に、うんまあね、と祢子は気のない返事をした。



 本だったらなんでもいいわけじゃない。健太にはわからないだろうけど。


 健太は、望み通りの物をもらったからいいよね。

 わたしは、欲しくもない本なのに。





 健太は、釣り竿セットを抱えて、父さん母さんの寝室のドアの前にすっくと立った。


「サンタさんが来たよ! プレゼントくれたよ! かっこいい釣り竿だったよ!」

 ドア越しに、大声で報告している。



 ガウンを羽織った母さんが、ドアを開けて出てきた。

「わかった、わかった。

お父さんはまだ寝ているから、下で聞くから、下りなさい」


 健太は小声になって、母さんに釣り竿を見せている。

 母さんが、祢子にも気づいた。



 母さんの目は期待している。

 祢子はやっとのことで、

「本をくれてありがとう、ってサンタさんに言っといて」と言った。


「どんな本が入っていたの?」

「うーん。まだ読んでないからわからないけど」


 母さんは、健太に絡みつかれながら階段を下りて行った。





 健太のプレゼントの自慢話を聞きながら、母さんは石油ストーブに火をつけて、洗面所のすみっこで着替えた。


 それから二槽式洗濯機の洗濯槽の中に、洗濯かごの洗濯物を入れる。

 たらいで風呂の残り湯を汲んでは洗濯槽に入れて、「あらい」のタイマーを回してから、顔を洗って歯磨きをする。

 そのあと、台所に行って炊事を始めた。



 母さんは手早い。あっという間に弁当のおかずができていく。

 今日は、牛肉とごぼうを甘辛く煮たのと、ちくわの穴にチーズときゅうり入れたのと、卵焼きと、りんごだ。

 炊飯器がピーと鳴ったら、ふたを開けて、濡らしたしゃもじでご飯をほぐす。



 その合い間に、洗濯機の水を出したり止めたり、洗濯物を洗濯槽から脱水槽に移したり、脱水槽から洗濯槽に移したりする。

 脱水槽ががたがたし始めると、母さんは飛んで行って、脱水槽の洗濯物を詰め直す。



 母さんは、二つの弁当箱にご飯を詰めて、ご飯の残りはおにぎりにした。

 皿を三枚出して、おにぎりをそれぞれに置くと、弁当箱とお皿におかずを分けて置いていく。


 いつの間にか鍋の中で煮干しの出汁ができている。

 煮干しを取り除くと、母さんは豆腐とえのきだけを切って入れて、みそ汁にする。


 みそ汁の鍋にふたをして、母さんは、フライパンを温める。

 油を垂らして人数分の卵を割り入れて、ふたをした。




 母さんがこまねずみのように働いている間に、祢子は寒さに震えながら顔を洗って、ストーブの前で温まりながらゆっくり着替えた。

 健太はといえば、釣り竿セットを真剣に見つめているだけだった。



「おじいちゃんとお父さんを呼んできて。おじいちゃんは、もう起きているはずだから、声をかけるだけでいいから」


 母さんに言いつけられて、祢子は健太にも仕事を振った。

「健太はおじいちゃん呼んで。わたしは父さんを起こしてくる」

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