師走13
二学期ももう終わりだ。
祢子の通知表は、数字は変わらなかったが、各教科の「意欲」の欄についていた丸が消えた。
父さんや母さんがなんて言うだろう。
怒られても仕方ないけど。その時はその時だ。
決死の覚悟で母さんに通知表を渡したが、「よくがんばったね」と微笑んで言われただけだった。
父さんも何も言わなかった。
珍しくおじいちゃんも見たがった。
祢子が持って行って見せたら、「ほう。大したもんだ」と、目じりのしわを深くしながら言ってくれた。
祢子は少しだけ、おじいちゃんに親しみを感じた。
健太はおじいちゃんには絶対に見せなかった。
その夜はクリスマスイブで、夕食後に、母さんが買ってきたクリスマスケーキを切った。
母さんがナイフを入れたが、どうひいき目に見ても、五等分とは言い難かった。
「オレ、ここがいい!」
健太が、砂糖でできたサンタさんが載っている、一番大きいところを指さして、そのままずぶっと、クリームに指を突っ込んだ。
「健太!」
祢子が怒って健太をたたこうとしたら、おじいちゃんが、
「まあまあ、年が小さい順に取っていってもいいんじゃないかね?」
と言った。
小さい順。なら、仕方がない。
健太は、小さい子どもだから、このくらいの事なら笑って流してやるのが年上らしい振る舞いというものだ。
次は祢子の番だし。
祢子が手を引っ込めると、母さんがくすくす笑いながら、健太にサンタさんの載った部分を取り分けてやった。
切り口から、中にクリームといちごがはさんであるのがわかった。
祢子は、クリームが一番盛り上がったところにした。
あとは母さんが残りを適当におとなに配った。
父さんは、実は甘いものが大好きなのだ。
いつも深い渓谷みたいな眉間が、ケーキを食べている時は広々としたのどかな草原になる。
ふとおじいちゃんに目を向けると、おじいちゃんの目元も和やかになっている。
おじいちゃんも甘いものが好きなんだ。
「さあ、早く寝ないとサンタさんが来ないよ」
母さんがせき立てる。
健太も祢子も、すぐに風呂を済ませて、布団に潜り込んだ。
祢子は、サンタさんの正体を知っている。
何年も前に、嬉しくてなかなか眠れなかったとき、ドアが開いて、誰かが入って来た。
布団につまずきながら、がさっと枕もとに紙包みを置いて行った後ろ姿は、父さんだった。
でも、健太はまだサンタさんだと思っているので、祢子も信じているふりをしている。
それなのに、母さんは親戚のおばさんたちに、祢子はまだサンタさんを信じているのよ、と面白そうに話すのだ。
祢子は心外だった。
でも、健太のために、何も弁解しないでいる。
何がもらえるかな。
「サンタさんに何をお願いする?」と母さんに聞かれた時に、「『神秘の島』がいい」と、言ったのだけど。
ホームズやルパンや二十面相も欲しかったが、たくさんあるシリーズものなので、一冊では満足できそうにない。
『神秘の島』は二冊だから、今回は上巻だけだったとしても、誕生日に下巻を頼んだらいい。
知り合いの人から母さんがもらってきた、『ロビンソン・クルーソー』も、『スイスのロビンソン』も、『十五少年漂流記』も、何度も読んだ。
違う漂流ものを読んでみたい。
船が難破して、無人島に流れ着いた時に、一番役に立つものは、ナイフだ。
ナイフさえあれば、簡単な道具を作ったり、流れ着いた缶詰を開けたり、貝をこじ開けたりできる。
獣から身を守ることもできる。
だから祢子はいつも、筆箱の中に「肥後守」を入れている。
鉛筆を削るためでもあるが、いつ漂流しても、これさえあれば当面は困らないだろう。