表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
83/125

師走9

 全体の集合時間になったが、人数が足りない。

 先生たちは疲れた顔をして待っている。


 一番若い宇佐先生が、「わたしが行きます」と言って、店内に入っていった。


 二人、三人と男子生徒が出てきては、照れ笑いを浮かべ、集団の中に潜り込んだ。


 最後に、かいのくんが出てきた。


「インベーダーゲームの機械があったらしいよ」

 だれか男子の声。

 うそー、いいなあー、という声も聞こえる。


 何のことか、祢子にはさっぱりわからなかった。





 バスに乗り込むと、みんな一斉に吊り棚からバッグを下ろした。

 ファスナーの開閉の音がやかましい。土産が入ったバッグが次々に吊り棚に戻された。


 買い物の話などで、車内はしばらく賑やかだったが、だんだん静かになった。

 バスガイドさんは苦笑して席に座った。


 祢子も大あくびして、目を閉じた。




 しばらくして、バスガイドさんの声に目を覚ました。


「……ここが西海橋(さいかいばし)です。

昭和三十年に、佐世保市と西彼杵(そのぎ)半島をつなぐ橋として架けられました。

全長三百十六メートル、海面からの高さは四十三メートルの、東洋一のアーチ橋です。

この橋を架けるときには、両岸から橋を伸ばしていき、最後に真ん中でつなぎ合わせる工法を使いました。

これは世界初の試みでした」



 外に目をやると、まさに今通っているのだろう。赤い欄干しか見えない。

「……通り過ぎたら、バスを下りて集合写真を撮りますよ」



 公園のようなところでバスを下りた。

 日が傾きかけて、潮風が冷たい。


 祢子は、ジャンパーのチャックを閉めて、橋を見上げた。

 優美で広やかなアーチと、その上のすっきりした幾何学的な構造が、赤い欄干に挟まれた道路を支えている。


 華奢なようで、しなやかな強靭さも感じられる。


 このように役に立って、しかも美しいものを、人間は作れるのだ。


 


 また集合写真だ。


 カメラマンのおじさんは、一組のバスに乗っていたようだ。一組の生徒たちと仲良くしている。


 一組の写真を撮り終わって、同じ場所に二組が並ぶ。

 箱型のカメラのレンズを見ながら、祢子はその向こうのおじさんのことを考える。



 このおじさんは、こうやって集合写真を撮るのを仕事にしているのかな。

 いろんな学校の修学旅行について、大きい荷物を抱えてあちこち行くのかな。

 それなら、家を留守にしてばかりじゃないかな。



 こんなことを考えていたのは、たぶん祢子一人だったろう。


 それぞれ、てんでに違ったことを考えているのに、行儀よく一枚の写真に収まる、先生と生徒たち。





「あーあ、バイオパークに行きたかったなあ」

 バスに戻りながら、だれか女子が言った。


「バイオパークって?」

 祢子は、こずえちゃんにこっそり聞いた。

「最近できたらしいよ。動物と触れ合ったりできるんだって」


「ふうん。いいなあ」

「できたばっかりで人が多いみたいよ」

「そうなんだ」



 こずえちゃんや他の女子が知っているようなことを、自分は何にも知らないのだ。


 祢子は不意にそう悟った。

 だから、みんなと話が合わないのだ。



 でも、だからといって、みんなに合わせて、興味も無いことに時間を割くつもりはない。



 わたしは、わたしが知りたいことを知るために動く。

 それしかできないのだから、しかたがない。


 それでも祢子ちゃんがいい、と言う人としか、友だちにならなくてもいい。



 そう言ってくれた人が、確かにいたから。


 どこか他にも、そういう人は、きっといる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ