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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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師走8

 でも、あのカップルのように、八坂くんと手をつないだら、楽しいんじゃないだろうか。

 少女漫画のように、どきどきして、言葉なんていらないかもしれない。



 本当にそうなのかな。

 たぶん、そうなのだろう。そういうものらしいから。

 そうなってみないと、わからないけど。



 祢子は八坂くんの姿を探したが、見つからなかった。

 





 お昼は、大きい中華料理店に入って、長崎名物の皿うどんを食べた。

 パリパリした揚げ麺に、野菜と肉を炒めてとろみをつけたあんがかかっていて、初めての食感に祢子は感動した。

 あんの下のパリパリ麺がふやけて、しなっとなっているのもおいしい。


 まりちゃんは苦手そうだったが、まりちゃんの分まで食べてあげたいくらいだった。


 でも、バスに乗る時に、欲張らなくてよかったと思った。





 昼過ぎに、土産物の大きな店に入った。


 一時間後には全員が集合しなければならない。

 班ごとの集合場所と時間を決めて、それぞれお目当てのところに散った。




 三千円を握りしめて、祢子はどうするか考えていた。


 父さんと母さんとおじいちゃんと健太。それに、自分のも欲しい。

 自分に千円使って、あとは五百円ずつにしよう。


 ひとまずそう決めて、店内を歩いていたら、ガラス細工のコーナーがあった。




 そこら一帯がキラキラ輝いていた。


 透明で、繊細で、まばゆくて、壊れやすいものだとわかっていても、欲しくてたまらなくなった。



 大きくて豪華なものは、とても買えない。

 でも、小さいものなら買えそうだ。



 動物や魚、楽器、ドレスを着た女性、果物。

 こんなに小さいのに、カラフルで、細かい細工で、かわいくて、どうやって作るのかと不思議になる。


 金魚にしようか猫にしようかと悩んでいると、目の端に、忙しく動く、色とりどりの何かが映った。



 円錐形の基部にたたえられた、赤や紫や緑の液体が、らせん状の管を駆け上がり、一番上の宝珠型のふくらみに溜まって、またするすると下りてくる。


 温めることによって液体が動くらしい。

 祢子が気を付けながら自分の手に取って下部のふくらみを温めると、液体はしゅるしゅると駆け上がり、落ちてくる。


 祢子の手に、かすかに振動が伝わってくる。

 細くて俊敏な生き物が、外に出たくてくねくねと暴れているようだ。



 祢子はどうしようもなく、そのガラスのおもちゃに魅せられた。


 値段を見る。千五百円。



 ほしい。


 ここで買わなかったら、わたしはもうこれに出会うことはないだろう。

 そして、あの時買っておけば、と一生後悔するだろう。



 祢子は、紫の液体のを、かごに入れた。




 あと千五百円で、四人分だ。


 健太には、キーホルダーにする。かっこよさそうな、小さい刀がついたのにした。

 おとなたちには、みんなでカステラ一本。


 よし。なんとか予算内に収まった。



 自分に半分使ってしまったことに後ろめたさを感じたが、わたしの旅行だから、と自分に言い聞かせる。

 わたしの思い出が欲しいもん。




 班のみんなが集まって来た。

 それぞれに袋を抱えている。


 ぬいぐるみを買っちゃった、と大きい袋を抱えたゆかこちゃんが、得意げに言った。


「家族へのお土産は?」

 ふみこちゃんが聞いている。

「よりより」

 ゆかこちゃんは笑っている。


 三千円でよく足りたなあ、と祢子は感心した。



 こずえちゃんが、祢子を脇に引っ張って、「こっそり余分にお小遣いを持ってくる人がいたみたいね」とささやいてきた。



 そんなものなのか。そうしてもよかったのか。


 祢子は衝撃を受けた。


 おじいちゃんの顔が浮かんだ。

 受け取ってもよかったのかな。

 受け取った方が、おじいちゃんは喜んだだろう。わたしも、もっといいお土産が買えただろう。



 でも、父さんは絶対許さない。それは確かだ。

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