師走6
食事中、楽しそうに盛り上がっているところもあるが、祢子たちの班は静かだ。
祢子は沈黙に耐えかねて、こずえちゃんに、「これ、なんだろう?」と料理の一品を指さした。
白くて、レースのようにひらひらしている。
「くじらじゃない?」
「くじらなの? くじらのどこ?」
「さあ……」
こずえちゃんは、自信なさそうに首をかしげて黙った。
気がつけば、近くの女子たちが聞き耳を立てていた。
なんだかきまり悪くなって、祢子も黙った。
こずえちゃんに悪かったなあ。
目立たせてしまった。
そう思ってから、本当にそれは悪いことなのだろうか、と疑問に思った。
ただ料理について聞いただけなのに?
よくわからなくなって、祢子は黙々と箸と口を動かした。
食事が終わる頃、田貫先生が立ち上がって、声を張り上げた。
「明日は、朝食は七時半に、ここです。間に合うように、七時前には起きて、顔を洗って着替えてから、ここに来ること」
祢子は長湯があまり好きではないし、部屋のカギを持っているので、みんなより先に部屋に戻らねばならない。
さっさと入浴を終えると、先に部屋に戻るね、とこずえちゃんに声をかけた。
女湯ののれんを出てから、さて、どっちに行けばよかったんだっけ、とあちこち見回していると、一組の女子が二人出てきて先を歩いて行った。
助かった。エレベーターに乗りさえすれば、あとは分かる。
部屋のカギを開けて中に入ると、布団が六組敷いてある中に、ぽつんとみちこちゃんが座っていてびっくりした。
「あれっ、みちこちゃん、お風呂は?」
みちこちゃんはもじもじして、小さい声で、「もう入ったの」と言った。
「だって、わたしが一番先にお風呂から戻ったんだよ?」
迷ってもいないのに、どうやって、祢子より早く戻って来れたのだろう。
「部屋のお風呂に入ったの」
みちこちゃんが、部屋についている狭いお風呂を指さした。
「大浴場の方が広くて気持ちいいよ」
何気なくそう言ってから、祢子は、みちこちゃんが顔色を変えたのに気づいた。
なんでだろうと不思議に思いながら、着替えなどをバッグにしまっているうちに、祢子ははたと思い当たった。
そうか。みちこちゃんは、大浴場に入れない日だったんだ。
しまった、とあせっているうちにみんなが戻って来た。
みちこちゃんの沈んだ様子に、ふみこちゃんが寄り添って、どうしたのと聞いている。
みちこちゃんからやっと何か聞き出せたようで、ふみこちゃんもまりちゃんもゆかこちゃんも、非難する目で祢子を見た。
こずえちゃんは、あっちとこっちをおろおろしながら見比べている。
「ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったの」
とりあえず謝ったが、祢子はまた混乱していた。
みちこちゃんが悲しい思いをしたなら、それは祢子の失言のせいだ。
みちこちゃんに謝るのは当然だけど、なぜ他の子たちにも謝らねばならないのだろうか。
みちこちゃんは、なぜ自分で言い返さないのだろうか。
そもそも、これは、そんなに責められるほどのことなのだろうか。
ふみこちゃんたちは、ふんっと鼻息を荒くして、四人で固まって、寝る準備を始めた。
祢子は入り口に一番近い、はしっこの布団の枕もとにバッグを置いた。
こずえちゃんがおずおずと、祢子と頭を突き合わせる位置の布団に荷物を置いた。
祢子はさっさと先に歯を磨いて、布団に潜り込み、みんなに背を向けた。
ひそひそと話す声がするので、頭から布団をかぶった。
祢子の悪口かもしれない。
でもそうじゃなくて、ただのおしゃべりかもしれない。
どっちにしろ、聞きたくもない。
女の子って、なんでこんなに面倒くさいのだろう。
はっきり言えばいいのに。
うじうじして。
人前ではおとなしいくせに、陰口は得意で。