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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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師走5

 その後原爆資料館に移動した。


 歪んだ時計、ぼろぼろになった衣服、被ばくによる熱傷やケロイド。全てが吹き飛ばされた跡。

 たくさんの人が一瞬で亡くなったり、大けがをしたりした。

 見えるけがだけでなく、放射能による障害に苦しんでいる人もいっぱいいる。


 祢子たちは、それらを資料として見ながら、静かに通り過ぎる。



 浦上天主堂は、中に入るまで並んで、やっと入ったと思ったら、狭いので急き立てられながらすぐに通り過ぎた。

 ステンドグラスが素敵だったが、ゆっくり見られなかった。




 どこも坂ばかりだ。祢子はだんだん疲れてきて鈍感になってきた。


 どこに行っても、集合と点呼、報告、注意。


 時計係のふみこちゃんは、集合時間ばかり気にしている。

 祢子がぼんやりしているものだから、副班長のこずえちゃんが、班がばらばらにならないように目を光らせている。





 ホテルに着くと、先生たちから、他のお客さんもいるから騒がないように、と注意されてから各部屋に移る。


 部屋は和室だ。部屋の隅にみんなのバッグを置いた。


 祢子のは、持ち手のつけ根に、水色の糸でイニシャルが刺繍してある。

 小花のついた優雅なアルファベットだ。


 みんなに引けを取らないどころか、こんなバッグは世界に一つしか無い。祢子は心の中でばんざいした。



 みんな珍しげに窓から外を見たり、寝そべってみたり、あちこちの引き出しや茶器の入った入れ物のふたを開けてみたりしている。


 ゆっくりする暇もなく、二組代表のはなさんが、「班長と食事係は、しおりを持って一階ロビーに集合」と言いに来た。

 祢子とゆかこちゃんがのそりと立ち上がった。



 部屋を出たものの、祢子はどっちに行ったものかわからない。

 ゆかこちゃんがさっさと歩き始めたので、その後をついていく。


「こっちがエレベーター」

「よくわかるね、ゆかこちゃん」


「なんでわからないのかなあ」

 ゆかこちゃんは、小ばかにした口ぶりだが、祢子は気が付かない。

「なんでかな」

 ゆかこちゃんにはわかるんだ。なぜだろう。


「そういうの、方向音痴、って言うんだよ」

 祢子は感心した。ぴったりの言葉だ。


「そうなんだ。わたしは、方向音痴なんだね」

 ゆかこちゃんは、呆れたように祢子を見た。


「直した方がいいよ」

「治るものなの?」

 ゆかこちゃんは、肩をすくめた。



 一階について、ロビーに行くと、先生たちが待っていた。

 班長は今田先生の方へ。食事係は田貫先生。


 男子六人、女子六人の班長の中に、ゆきちゃんやそりかわくんもいる。

 八坂くんは、班長ではないみたいだ。全体の代表だからか。



 食事の後に入浴があるので、班長はその注意事項を確認するらしい。


 体を洗ってから浴槽に入ること。体を洗うタオルを浴槽の中に漬けないこと。

 大浴場で走ったり泳いだりしないこと。体を拭いてから大浴場を出ること。


「浴槽の中にタオルを漬けると、お湯が汚れて、他の人が入れなくなってしまいます。

それから、洗い場から出る前に軽く体を拭いておかないと、足ふきだけでなくその周りまでべちょべちょになって、ホテルの人が大変になるから、気をつけること。

班のみんなにもよく伝えてください」



 今田先生の説明に、祢子ははっとした。

 おじいちゃんは、タオルを湯に漬けているのではないだろうか。





 部屋に戻って、ゆかこちゃんを先頭に、班のみんなで大宴会場に移動した。


 お盆や正月に母さん方の本家でするように、広い和室に細長いテーブルを二列しつらえてあった。

 その両脇に、班ごとに座っていく。


 まず男子が上座から座っていき、女子はその続きに座る。



 それぞれの前に、ハンバーグや天ぷらや、果物など、紙のマットの上にきれいに盛り付けて並べてある。

 緑のエプロンをつけたおばさんたちが、大きなおひつを運んできて、ご飯をよそい始めた。

 その間に、先生が前に立って話をする。



 まず教頭先生が話し始めた。今日行ったところの感想を脈絡もなく話して、なかなか終わらない。

 ごちそうを前に、子どもたちはいらいらし始めた。


 やっと終わった。

 今田先生がごく短くホテルの人たちにお礼を言って、食事係に食前のあいさつをうながした。



 食事係のひとりが、おばさんたちに感謝の言葉を言ってから、「いただきます」と唱えた。

 みんなで「いただきます」と復唱してから、やっと箸を取った。

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