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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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師走4

 観光バスのにおいは、どうしても好きになれない。


 革のにおいだろうか。ビニールのにおいだろうか。

 普通のバスとは違う変なにおいがする。


 座席は豪華で座り心地はよいのだけど、このにおいで台無しだ。

 酔い止めは飲んだけど、バスに乗り込むたびにおえっとなる。




 朝の七時に学校集合。


 祢子はよこいくんちの車に、便乗させてもらった。

 よこいくんのお父さんが運転してくれるのだ。


 よこいくんは、祢子と同じ地区の集団登校の班長どうしだ。一組なので、地区の話し合いがある時に、ちょっと話したことがあるくらい。

 よこいくんのお母さんは元気で話好きで、祢子の母さんともよくおしゃべりしている。


 よこいくんのお父さんも、よこいくんも無口だ。

 よこいくんのお父さんはブレーキのかけ方が荒くて、祢子はすぐに気分が悪くなってきた。

 だけど乗せてもらっているので、文句は言えない。

 ひたすら我慢して、なんとか耐え切って、ありがとうございますと言って車を下りた。



 校庭で人数確認をしている間に気分がよくなったが、今度は観光バスだ。

 組ごとに、二台止まっている。

 班の人数がそろった順に、あらかじめ決められた席に乗り込んでいく。



 祢子は顔をしかめながら乗り込んだ。


 祢子の隣の席はこずえちゃんだ。

 こずえちゃんは乗り物が平気なので、窓際を譲ってくれた。

 祢子の顔を見るたびに「大丈夫? 顔が青いよ?」と心配してくる。


 心配させたくないので、祢子はできるだけ窓の方を向くようにする。

 近くを見たら余計に気分が悪くなるので、できるだけ遠くを見る。


 青々としているのはスギやヒノキや松。冬枯れの寒々しい野原が車窓を流れていく。



 バスガイドさんは、前に立って後ろを向いて、今から行く所や通り過ぎる所の説明をしたり、みんなが退屈しないようにクイズを出したりしている。


 気分が悪くならないだけでもすごいのに、よくあんなにたくさんのことを、覚えてしゃべれるものだ。


 トイレ休憩ではできるだけバスを下りた。昼食は、食欲が無くて、あまり食べられなかった。




 平和公園には昼過ぎに着いた。


 バスを下りて、集合。

 各班長が班の人数を確認して、組の代表に報告して、組の代表が先生に報告する。


 それからやっと移動。


 記念祈念像の前でまた人数を確認、報告。


 ガイドさんが平和祈念像について説明。

 児童会会長の八坂くんが、代表で千羽鶴を捧げた。




 なんて大きな像だろう。

 青緑の巨大な男の人が、台座の上で片足をあぐらのように曲げ、片足は立てて座っている。

 手は真横と上にゆったりと伸ばしている。


 平和を祈っている像というのはわかるが、そのような説明がなくても、この像にはなんだか心を揺さぶられる。

 巨大な像が、このポーズでもっと大きく見える。

 祢子は首が痛くなるまで、しばらく見上げていた。


 なにか人間性というものについて、子どもながらにそろりそろりと思索の触手を伸ばそうとしかけると、記念撮影をするので集合、と先生たちの声が響いた。




 修学旅行には、今田先生と田貫先生だけでなく、教頭先生と養護の宇佐先生も参加している。

 どこからか、カメラマンのおじさんが来て、各クラスに先生たちを二人ずつ入れて並ばせ、写真を撮った。



 一組の写真を撮るところを、祢子はカメラマンの後ろの方から眺めていた。

 八坂君は一番後ろの列のはしっこに立っていた。

 かーこが、八坂君の斜め前にいた。


 いいなあ。かーこは。

 でも、かーこは従兄のお兄ちゃんが好きなんだった。じゃあ、いいか。



 

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