師走1
十二月の八日から十日まで、二泊三日で長崎に修学旅行に行く。
観光バスで、平和公園や浦上天主堂、グラバー邸などまわるのだ。
十一月、学習発表会の後から、そのための準備をいろいろとしてきた。
まず、保護者も参加の修学旅行説明会があった。
それから、各クラスで活動班を決めて係を割り振り、部屋割り、バスの席順なども決めた。
社会の授業では行先について調べた。
平和公園に持って行く千羽鶴をみんなで折ることにもなった。
二組の活動班は、七班から九班までは男子、十班から十二班までは女子の班だ。
祢子は十二班になった。
女子の他の二つの班が、仲良し同士でぱっと決まって、残りを合わせたような班だった。
十二班のメンバーは、こずえちゃん、まりちゃん、ふみこちゃん、みちこちゃん、ゆかこちゃん。
祢子を入れて六人だ。
こずえちゃんとは仲がいいが、他の四人はおとなしくて目立たない人ばかりだ。
どんな人なのか、祢子にはよくわからない。
でも、いい。だれと一緒の班でも、似たり寄ったりだろうから。
このメンバーだと、たぶん自分が班長になるだろう。でも、他の班よりはまとめやすそうだ。
そう思っていたら、やっぱり祢子が班長になった。
班の中で、副班長、時計係、保健係、食事係、美化係を決めなければならない。
みんなもじもじして自分からすると言わない。
しかたなく、祢子が、副班長はこずえちゃんに頼んで、あとはじゃんけんで決めてもらった。
今度は、先生から、班でのめあてを決めなさいと言われたが、みんなかわいく首をかしげているだけで、何も出てこない。
祢子が「原爆についてよく学ぶこと、でいい?」と言うと、何の反論も出ず、むしろほっとした空気が漂った。
だれもはっきりと言わないから、自分がどんどん進めているが、これでいいのだろうか。
まるで祢子が独断で決めているみたいに見えないだろうか。
他の班は、言い合いが始まったり、笑い声が聞こえたりしているのに、祢子の班といえば、お通夜の席のように静かでしめやかなのだった。
だが、鶴を折るなど、なにか決まったことには、五人ともとても協力的だった。
だから、別に祢子に対して悪い感情をもっているわけではなさそうだ。
まりちゃんなどは、他の班の分まで引き受けて、百枚以上も、家に持ち帰って折ってくれた。
感謝すると、「おばあちゃんと一緒に折ったから」とはにかんだ。
平和公園やグラバー邸などの行先について下調べした時は、ふみこちゃんやみちこちゃんが、いろんな色を使ってノートに上手にまとめてくれた。
字もきれいで、祢子は感心した。
修学旅行の五日前になった。
明後日には、学校で旅行の持ち物チェックがある。
「修学旅行のしおり」を見ながら、祢子は衣類や洗面用具などを出してきて、座敷にまとめて置いた。
大体出そろったところで、さてこれを何に入れようか、とはたと気づいた。
「母さん、旅行用のカバン、ある?」
台所の母さんに向かって声を張り上げると、母さんが手を拭きながらやって来た。
「旅行用カバン? ……お父さんの旅行カバンがあったけど……」
母さんは脚立を持ってきて、廊下の押し入れの天袋を探ってくれた。
「あったあった」
大きな黄土色の革製のカバンが引っ張り出された。
祢子は、見るなりがっかりした。
別に、おしゃれなバッグを期待していたわけじゃない。
でも、これは、小学生の女の子には全く似合わない気がする。
皮だからごつくて固くて重くて、色も全然好きじゃない。
でも、修学旅行の三日間だけしか使わないのに、新しいのが欲しいというのはわがままだ。
「……ちょっと、重いかな?」
母さんが自信なさそうにつぶやいた。
祢子は、母さんが気の毒になってきた。
ただでさえ、おじいちゃんがいるから、今までより生活費がかかっているだろう。
その上修学旅行のお金を払ってもらって、お小遣いまで持たせてくれるのだから、これ以上余計なお金は使わせたくない。
うちが、破産してしまうかもしれない。
破産、というのは、祢子が最近気になっている言葉だ。
よくはわからないが、家族が路頭に迷うらしい。
そういう状況は、全力で防がねばならない。