表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
75/125

師走1

 十二月の八日から十日まで、二泊三日で長崎に修学旅行に行く。

 観光バスで、平和公園や浦上天主堂、グラバー邸などまわるのだ。



 十一月、学習発表会の後から、そのための準備をいろいろとしてきた。


 まず、保護者も参加の修学旅行説明会があった。


 それから、各クラスで活動班を決めて係を割り振り、部屋割り、バスの席順なども決めた。


 社会の授業では行先について調べた。

 平和公園に持って行く千羽鶴をみんなで折ることにもなった。




 二組の活動班は、七班から九班までは男子、十班から十二班までは女子の班だ。


 祢子は十二班になった。

 女子の他の二つの班が、仲良し同士でぱっと決まって、残りを合わせたような班だった。


 十二班のメンバーは、こずえちゃん、まりちゃん、ふみこちゃん、みちこちゃん、ゆかこちゃん。 

 祢子を入れて六人だ。

 


 こずえちゃんとは仲がいいが、他の四人はおとなしくて目立たない人ばかりだ。

 どんな人なのか、祢子にはよくわからない。 

 

 でも、いい。だれと一緒の班でも、似たり寄ったりだろうから。


 このメンバーだと、たぶん自分が班長になるだろう。でも、他の班よりはまとめやすそうだ。

 そう思っていたら、やっぱり祢子が班長になった。



 班の中で、副班長、時計係、保健係、食事係、美化係を決めなければならない。

 みんなもじもじして自分からすると言わない。

 しかたなく、祢子が、副班長はこずえちゃんに頼んで、あとはじゃんけんで決めてもらった。



 今度は、先生から、班でのめあてを決めなさいと言われたが、みんなかわいく首をかしげているだけで、何も出てこない。

 祢子が「原爆についてよく学ぶこと、でいい?」と言うと、何の反論も出ず、むしろほっとした空気が漂った。



 だれもはっきりと言わないから、自分がどんどん進めているが、これでいいのだろうか。

 まるで祢子が独断で決めているみたいに見えないだろうか。


 他の班は、言い合いが始まったり、笑い声が聞こえたりしているのに、祢子の班といえば、お通夜の席のように静かでしめやかなのだった。



 だが、鶴を折るなど、なにか決まったことには、五人ともとても協力的だった。

 だから、別に祢子に対して悪い感情をもっているわけではなさそうだ。


 まりちゃんなどは、他の班の分まで引き受けて、百枚以上も、家に持ち帰って折ってくれた。

 感謝すると、「おばあちゃんと一緒に折ったから」とはにかんだ。


 平和公園やグラバー邸などの行先について下調べした時は、ふみこちゃんやみちこちゃんが、いろんな色を使ってノートに上手にまとめてくれた。

 字もきれいで、祢子は感心した。




 

 修学旅行の五日前になった。

 明後日には、学校で旅行の持ち物チェックがある。



 「修学旅行のしおり」を見ながら、祢子は衣類や洗面用具などを出してきて、座敷にまとめて置いた。

 大体出そろったところで、さてこれを何に入れようか、とはたと気づいた。


「母さん、旅行用のカバン、ある?」

 台所の母さんに向かって声を張り上げると、母さんが手を拭きながらやって来た。


「旅行用カバン? ……お父さんの旅行カバンがあったけど……」


 母さんは脚立を持ってきて、廊下の押し入れの天袋を探ってくれた。


「あったあった」

 大きな黄土色の革製のカバンが引っ張り出された。



 祢子は、見るなりがっかりした。


 別に、おしゃれなバッグを期待していたわけじゃない。

 でも、これは、小学生の女の子には全く似合わない気がする。

 皮だからごつくて固くて重くて、色も全然好きじゃない。



 でも、修学旅行の三日間だけしか使わないのに、新しいのが欲しいというのはわがままだ。



「……ちょっと、重いかな?」

 母さんが自信なさそうにつぶやいた。


 祢子は、母さんが気の毒になってきた。


 ただでさえ、おじいちゃんがいるから、今までより生活費がかかっているだろう。

 その上修学旅行のお金を払ってもらって、お小遣いまで持たせてくれるのだから、これ以上余計なお金は使わせたくない。

 うちが、破産してしまうかもしれない。



 破産、というのは、祢子が最近気になっている言葉だ。

 よくはわからないが、家族が路頭に迷うらしい。

 そういう状況は、全力で防がねばならない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ