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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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霜月4

 笑ったり話したりしながら、小学校に着いた。


 健太はトビ兄ちゃんの手を放して、校庭に駆け込んだ。


「ほら、見てて!」

 向こうの遊具があるところまで駆けて行って、雲梯に取り付き、ぶら下がった。



「健太、あんまりはしゃぐな」

 トビ兄ちゃんが大声で健太に呼びかけた。

 早足で校庭を横切っていく。


「もう、すぐにお調子に乗るんだから」

 祢子はため息をついて、後に続いた。



 健太が雲梯の上に四つん這いになっている。

 手を放して、ふらふらと立ち上がりかけた。



 トビ兄ちゃんは本気で走り始めた。

 祢子も走る。


 トビ兄ちゃんは速い。ぐんぐん先を行く。

 祢子は叫んだ。

「健太、危ないから、立ち上がっちゃだめっ!」



 健太がぐらりとかしいだ。

 そこに、トビ兄ちゃんの手が伸びて、支えた。


「ほら、ゆっくりしゃがんで。……よしよし、大丈夫だから。手をついて。

……ここから足を下ろして。そうそう、ゆっくり。

おれが抱き留めるから、落ちてきていいよ」


 トビ兄ちゃんが、雲梯の隙間から落ちる健太を受け止めた。



 こっちはこんなに慌てたのに、健太は照れた顔をしている。


「だめでしょ、危ないことしちゃ! お調子者なんだから! 落っこちたら首の骨折ったりするよ!」


 祢子が怒ると、トビ兄ちゃんが屈んで健太の頭を撫でた。

「もう反省したな、健太。怖かっただろう?」


「……ごめんなさい……」

 健太はいつになく素直に謝った。

 祢子が怒るよりも、トビ兄ちゃんが優しくいたわる方が、健太には効くらしい。



 全然納得できないのだが、その後健太は危ないことはしなくなった。



 祢子は、鉄棒で「こうもり」や「地獄回り」をしてみせた。

 ズボンをはいていて、よかった。


「すごいなあ、祢子。目が回らない?」

「大丈夫。だるま回りはまだできないんだ。

練習しているんだけど、やっぱり前に回るのは、こわくって」


「無理しないでいいよ」

 トビ兄ちゃんはくくくと笑いながら言う。



「トビ兄ちゃんは、何かできる?」


 トビ兄ちゃんは、うーん、とうなった。

「そうだなあ、懸垂くらいなら少しできるかなあ。でも、ここの鉄棒じゃ低くて無理だな」


 一番高い鉄棒でも、トビ兄ちゃんの頭くらいの高さなのだった。


「おれにはとても、地獄回りはできそうにないなあ」

 なにがおかしいのだろう。トビ兄ちゃんの声は、まだ笑っている。


「女子で、だるま回りも地獄回りもできる人がいるよ。男子は、大車輪をする人が一人いる」

 かいのくんのことだ。


「すごいなあ。でも、ケガしないようにな」

「うん」




 もう帰ろう、と言っても、健太はもうちょっともうちょっと、と遊んでいる。

 

 健太を目で追いながら、トビ兄ちゃんがタイヤの上に座った。

 祢子も、一つ飛ばしたタイヤの上に座った。




「祢子は、学校楽しいか?」

「うん、まあ。トビ兄ちゃんは、大学楽しい?」

「楽しいよ」


「何の勉強しているの?」

「経済学部だから、まあ、それに関係することを勉強しているかなあ。

でも、大学の勉強よりも、それ以外で学ぶことがたくさんある。そっちの方が楽しいな」


「ふうん。どんなこと?」

「まあ、社会勉強だなあ」




 トビ兄ちゃんが本当のお兄ちゃんだったらいいのに。

 そうしたら、毎日こうやって一緒にいられるのに。

 

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