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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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霜月2

 母さんは、買い物に出かけたらしい。



 トビ兄ちゃんは、おじいちゃんに話しかけながら、積んである段ボールを一つずつ下ろし、開け始めた。

 おじいちゃんは中の物を取り出して、棚や押し入れに入れていく。


 もう手伝うことがなくなったらしい。父さんが、居間の方に戻ってきた。



 健太が、父さんの脇をするっと抜けて、書斎に駆けて行った。


 祢子も後に続こうとして、父さんに怒られた。

「あっちは忙しいから、行っちゃいかん!」


「だって、健太は?」

「健太も呼び戻しなさい!」

「はあい」



 とりあえず、行く口実ができた。


 書斎の戸口から、中をのぞいてみる。


 おじいちゃんとトビ兄ちゃんは、健太を使うことにしたらしい。

 おじいちゃんに指示された物を、トビ兄ちゃんが取り出して、健太に渡す。健太はおじいちゃんに渡す。


「健太、落とすなよ」とトビ兄ちゃん。

「だいじょうぶだって」

 健太は誇らしげな顔をして行ったり来たりしている。


 しばらくその様子を見ていたが、三人の中に入りづらかったので、祢子は居間に戻った。



 

 いいなあ、健太は男の子で。

 トビ兄ちゃんにくっついていても、何にも言われなくて。



 棟上げ式の餅まきの時だって、健太は棟木の上に上がらせてもらったのに、祢子はダメだと言われた。

 神社やお寺でも、祢子は健太の後ろにいなさいと言われる。


 健太は泥んこになって帰って来ても、けんかしても、廊下に立たされても、笑い話になる。

 祢子が同じことをしたら、女の子なのに、と呆れられたり心配されたりする。


 なぜ女の子は男の子の後についていかないといけないのか。

 男の子がすることを、なぜ女の子はしてはいけないのか。

 まるでわからない。




 祢子が生まれた時に、おじいちゃんから来たという手紙を、母さんに見せてもらったことがある。


 女の子の名前の候補が三つ書いてあった。

 祢子という名前は、その中の一つだ。

 自分の名前をおじいちゃんが一所懸命に考えてくれたということは嬉しかった。


 その嬉しさを帳消しにしたのは、手紙の中のある一言だった。

「女の子()()ご出産おめでとうございます。」


 「でも」を、二本線で消してあった。


 そこを祢子がじっと見ていたら、

「ちょうど同じころに、お父さんの妹が男の子を生んだからだろうね」

 母さんが言った。


「でもすぐ後に健太が生まれたからよかった」

と、母さんは続けた。



 母さんはよかっただろう。次に男の子を生めたから。


 でも、わたしは何なの?

 男の子じゃなかったから、がっがりさせただけだったの?


 おじいちゃんもおばあちゃんも?


 父さんも? 


 母さんも? 



「祢子が男の子だったらねえ」

「祢子が男だったらなあ」

 父さんも母さんもよく言う。


 そのたびに、祢子はどうしたらいいかわからなくなる。


 男の子はもう健太がいるのに。

 女の子の祢子は、必要ないのだろうか。




 祢子には、どうにもできないことなのに。

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