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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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神無月1

 運動会当日になった。


 前日の予報では曇り時々雨で心配したが、朝からきれいに晴れた。




 祢子は朝から道具係の腕章をつけて、そりかわくんや、田西くんたちと一緒に走り回っていた。

 先生たちも忙しく動き回っている。




 グラウンドの周りには、地区ごとに大きなテントが張られている。

 テントの中には、朝早くから、いろんな色や絵柄の敷物が隙間なく敷き詰められている。

 その上で、所在無げに座っている大人もいる。


 父さんと母さんも、お弁当を持ってそのうち来るだろう。





 そりかわくんは、拍子抜けするくらい、いつもと変わらない。


 この前のことは、お互い忘れたかのようにふるまっていた。

 そりかわくんが学校で誰かに話していても仕方が無い。その時はその時だと思っていたが、黙っていてくれたのだろう。

 祢子は内心感謝していた。


 

 弟がいるせいなのか、祢子は、女の子よりも、男の子と一緒に行動する方が気が楽だ。


 ちょっとした仕草や声掛けですぐに察して、手を貸してくれる。

 愛想は悪いし口も悪いが、そりかわくんは気が利く、いい相棒だ。



 秘密を仲立ちとしてできる友だち、というのもあるのではないか。

 そりかわくんと、そんな風になれるかも。

 祢子はちょっとわくわくしている。






 開始時間が近くなると、校門からは、帽子をかぶったり、首にタオルを巻いたりした老若男女がぞろぞろ入ってくる。

 皆、弁当や水筒の入った大きな荷物を抱えている。


 テントの中やグラウンドの周りは人でいっぱいになった。

 予行演習とはまるで違う、子どもや大人の華やいだざわめきが満ちている。


 赤白帽子と体操服を着てはだしになった全校生徒たちは、緊張した面持ちで入場門に整列する。



 ぱぱんと花火が上がり、大音量で行進曲が鳴り響く。入場行進が始まった。




 プログラムはどんどん進む。

 徒競走、玉入れ、綱引き、ダンス、障害物競走、リレー、二人三脚、ムカデ競争……。



 放送係の声や、運動会用の、せわしい音楽が競技をもりあげる。

 


 応援の歓声が上がる。

 大人たちが、子どもの最高の瞬間を逃すまいと、正面にひしめき合う。

 あちこちから、カメラのシャッター音がする。


 

 祢子たちは、裏方として、各競技の道具を出したり片付けたりする。



 役割を果たすために忙しく働いていると、余計なことを考えずにいられる。

 自分はここにいてもいいのだ、目立ってしまっても、仕事なんだからと安心できる。




 午前中の部が終わり、昼食の時間になった。



 祢子は母さんとの約束通り、白組の生徒席に健太を迎えに行って、一緒に自分の地区のテントに向かった。



「今のところ、白組が勝ってるよ」

 得意そうに鼻をうごめかせながら、健太が言った。

 なぜいつも、こんなに腹が立つことばかりしか言わないのだろう。



「あ、あそこのテントの前。母さんが手を振ってる」

 目のいい健太が見つけた。

 手を振り返しておいて、運動場の水道で手を洗う。健太にも洗わせた。足も洗って、靴下と靴を履く。



 テントに入ると、奥の方に、母さんと父さんが見えた。

 近所の人の大きな敷物の隅に座らせてもらっているらしい。


 テントの前で靴を脱ぎ、お弁当を広げて座っている人たちの間をやっとのことですり抜けて、そこまで行く。


「祢子ちゃんとケンちゃん、こっちこっち」

 敷物の持ち主のおばさんが声を掛けてくれた。


 こんにちは、ありがとうございますと挨拶して、父さんと母さんの前に座る。



「手は洗ってきたか?」

「うん」

 二人は、父さんに手のひらを見せる。

 母さんが、おしぼりを出したので、もう一度手を拭いた。



 母さんが風呂敷を広げる。


 二段の重箱に、一段は海苔を巻いたおにぎりがぎっしり、もう一段はおかずがぎっしりだ。


 卵焼きにたこウインナー、エビフライに鳥の照り焼き、たくあん。

 それから、タッパー容器にリンゴと、缶詰の真っ赤なサクランボや黄桃。



 お腹がペコペコなので、とにかく食べる。

 健太が真っ先にサクランボを食べようとしたので、「それは後」と母さんがけん制した。




 あちこちで、かけっこや綱引きや玉入れの首尾を話す声がする。

 祢子たちは、ほとんど話さないで黙々と食べる。



 日を遮って薄暗いテントの中に、たくさんの車座がぎゅうぎゅうに詰まっている。

 ざわめきながら弁当をほおばる、楽し気な人たち。


 テントの外は、埃っぽくまばゆい。

 

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