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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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長月2

 カーテンが全部開けられて、教室が明るくなった。


 授業の終わりのチャイムが鳴った。

 起立礼をした後、女生徒たちはゆっくりと、移動を始めた。


 言葉少なな女子が多い中、ひそひそ笑い合っている女子もいる。


 誰かがおかしそうに言った。

「今のって、肝腎(かんじん)なことを言ってないよね~」

「田貫先生にはわからないんじゃない? 『イカズゴケ』だし」




「イカズゴケ」? 

 苔の一種だろうか。田貫先生が?

 

 それに、肝腎なことって、何だろう。




 生理が始まった同級生がたくさんいたこと、衝撃的な言葉が次々に出てきたことにうろたえていたが、それどころではないのでは。


 他の女子は当たり前に知っていることを、祢子は知らないらしい。

 学校の勉強では、だれにも負けないと思っていたのに。




「肝腎なことって、なあに?」

 祢子は思い切って、当の女子たちに聞いてみた。


 女子たちは顔を見合わせて、含み笑いをした。

「さあね」


「教えてよ」

 なおも食い下がると、

「やあね、かまととぶって」


 また知らない言葉だ。

「かまととって、なあに?」


 みんなあきれた顔をして行ってしまった。






 二組の教室に戻ると、男子たちが、「何だった?」とか「何を教えてもらった?」とかと、女子にしつこく聞いている。


 上手にはぐらかす子もいるが、真っ赤になって黙り込む子もいた。

 そういう子に、男子はことさらしつこくなる。







 あれは、三年生か、四年生の頃だったっけ。

 


 水泳授業の前、着替えをする教室を男女別に分けるようになったのは五年生からだ。

 それまでは一緒の教室で着替えていた。



 男子は、パンツと同じ感覚で、家から水泳パンツをはいてくる。だから、着替えが早い。

 女子も水泳の授業が一時間目からあれば、家から水着を着てくることができるが、二時間目以降の時は、そうはいかない。トイレの時に困るからだ。



 女子は、バスタオルを腰の周りに巻いてから着替える。

 着替えた生徒からさっさと教室を出ていく。



 いつも決まって、着替えにもたついている女子がいた。

 いつからか、そういう子の周りを、数人の男子が取り囲むようになっていた。

 その子が必死で押さえているバスタオルの中をのぞき込もうとしたり、手でバスタオルをめくろうとしたりする。

 嫌がって泣いているのに、お構いなしだ。



 祢子は、自分が餌食にならないように着替えを急ぐことに必死で、その子を助けようなどと考えたことはなかった。




 ところがある日、時間ぎりぎりまで用事を言いつけられて、祢子は最後に着替える羽目になってしまった。


 いつもの男子たちが、こっちに近づいてくる。

 祢子はやっと、下着を脱いだところだ。



 来るな、と言っても、ハゲタカのようなやつらは、だんだん輪を縮めてくる。


 いつも取り囲まれている女子の気持ちが、嫌と言うほどわかった。

 巻き付けているバスタオルに、いろんな方向から手が伸びてくる。



 祢子は、かあっと頭に血が上った。


「見たければ、見たらいい!」


 大声で言い放って、自分でバスタオルをがばっとまくり上げた。




 意外にも男子たちは、気圧(けお)されたのか、散っていった。

 祢子はそそくさと着替えの続きをして、プールに駆けて行った。




 その話をすると、かーこはあきれて、「早くしないからよ」と言い捨てたっけ。

 母さんはといえば、大笑いした。




 あの男子たちは、なぜそんなに、そこを見たがっていたのだろう。


 集まって来ていたのは、勉強ができるわけでもない、かといって運動が得意なわけでもない、どちらかというと「落ちこぼれ」と目されるような子たちだった。

 つるんでしか行動できない、卑怯なやつら。


 しかし、倫理とか道徳とかに邪魔されず、本能に忠実に行動するやつらでもある。




 男子の興味を引いてやまないもの。

 それが、女子の裸にはあるらしい。


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