表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
4/125

皐月4

 父さんがいなくなると、やっと話ができる。



 健太が、学校で先生に絵をほめられたと話している。


「なんの絵なの?」

 母さんが尋ねる。


「写生大会で、どこでもすきなとこを描いていいって言われたから、おれは学校の裏庭を描いたんだ。

だれも描いていないようなとこ。

大きな木があって、そこの根元に白い花が咲いていたんだ」


 母さんは嬉しそうににこにこしながら、どんな風に描いたのかとか今度見たいねえとか言っている。



 祢子は、ゆきちゃんちでのことをぼんやりと思い返していた。


 母さんに話すつもりはなかった。

 マンガを読むのは禁止されていた。




 皿洗いを手伝おうとすると、母さんが言った。


「もういいから、宿題をしなさい。祢子はまだ宿題してないでしょ」

「はあい」


「おれはもうしたもんね」

「うそばっかり」


 祢子は知っている。健太がいつも宿題を忘れて、学校の廊下に立たされていることを。


 でも、母さんにそのことを言ったことはない。

 学校のことは、健太のことでもあまり言いたくない。



「へへん。今日はしたもん」

「ああ、そう」


 健太とすれ違いざまに、さっきの復讐に腕をつねってやる。


 健太はおおげさに「痛っ」とわめいたが、祢子は二階に駆け上がった。





 したくなくても、しなければならない。

 漢字ノートに漢字の練習。算数ドリルを二ページ。日記帳。


 それから、一番の難題の、「自由学習」。



 自由学習とはいっても、してもしなくても自由なのではない。

 しなければ、田貫(たぬき)先生の冷たい目が待っている。

 「毛野(けの)さんともあろう人が」と言われることもある。


 なにより、教室での席が後ろにずれることになるかもしれない。



 祢子の席は、一番前の真ん中、田貫先生が立つ教卓の真ん前なのだ。


 そこは、クラスの頂点であった。


 クラスで一番できる生徒の席。何かと先生に声を掛けられ、発言を求められる生徒の席。



 祢子は最初の頃からその席で、席替えでも他の席になったことが無い。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ