葉月5
お盆は、母さん方の本家に集まることになっている。
母さんは四人きょうだいの三番目だ。
上から、女、男、女、女。
二番目のおじさんが、本家を継いでいる。
みんな結婚して、子どもが二人ずついる。
総勢十六人で昼に集まり、飲み食いするのだ。
母さんは、子どもたちによそ行きを着せる。
父さんの新しい服をたんすから出して、アイロンをかける。
それから、自分もとっておきのよそ行きを着て、お化粧をし、アクセサリーをつける。
父さんは、面倒くさがって、なかなか着替えようとしない。
父さんがぐずぐずしているので、母さんは機嫌が悪くなる。
「もう、先に出よう」
母さんと子どもたちが道路に自転車を出していると、やっと父さんが外に出てくる。
父さんは「先に行きなさい」と言って、外から家じゅうの戸締りを確認し始める。
母さんは、祢子と健太に「行くよ」と言って、自転車をこぎはじめる。
母さんの後ろに健太、その後に祢子が続く。
田舎道をしばらく行くと、にぎやかな通りに入る。車も増える。
駅に近い、大きいお屋敷が、本家だ。
塀の外からも、大きい松の木が何本も見える。
白壁の土蔵まである。
瓦の載った塀際に自転車を停めて、母さんは通用口をくぐる。
祢子たちも続いて入る。
勝手口の引き戸を開けると、昔使っていたかまどが残っている、広い土間がある。
土間の向こうは、一段高くなっている。
そこの引き戸を開けると、台所がある。
「こんにちは。遅れました」
母さんが声をかけると、一斉ににぎやかな声が上がる。
「ま~あ、志賀ちゃん。久しぶり~」
「ねこちゃんと、けんたくんも、久しぶり~。まああ、大きくなったわねえ~」
志賀ちゃんと呼ばれる母さんは、きょうだいたちに迎えられてうれしそうだ。
母さんの背中が、ちょっと遠くなる。
母さんはすぐに、台所を手伝い始める。
健太は、大きい従兄を探して奥に駆けて行く。
祢子は、邪魔しないように台所の隅に引っ込む。
そのうちに、忙しく働いているおばさんたちが何か手伝いを言いつけてくれる。
透けて見えるほどの薄切りの大根で、魚を巻いて楊枝で止めたり。
酢物を混ぜたり、鳥の手羽元を焼いたのにアルミホイルを巻き付けたりする。
手を動かしているうちに、祢子もやっとその場になじんで、おばさんたちや大きい従姉と話ができるようになる。
料理は大皿にきれいに盛りつけられて、広い座敷に運ばれる。
祢子はお盆に小皿や箸や醤油ビンやコップなどを載せて、座敷と台所を何往復もする。
座敷では、男の人たちが話しながら、宴会が始まるのを待っている。
庭に出て、バーベキューの炭火の準備をしている大きい従兄もいる。
何か焼くのかもしれない。
父さんもいつの間にか、そこにいる。
上座近くに座り込んだおじさんたちに混じって、話をしている。
談笑している父さんを見ると、なぜここに来るのを渋るのかわからない。