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あをノもり  作者: 小野島ごろう
27/125

文月10

 トドさんはゆっくりと歩きだした。

 祢子は少し後ろをついていく。



 いつでも逃げ出せるように。



 このままついていってもいいのだろうか。

 今なら、まだ引き返せる。


 「やっぱり、帰ります。秘密は、死んでも守ります」と言えばいいだけだ。

 優しそうだし、たぶん、帰してくれるだろう。



 でも、せっかくここまで来て、やめるなんて。



 もう少しだけ。

 もう少しだけついていって。

 できれば、どんな本があるのか、見るだけ見て。



 


 食堂を出て、広い廊下をつきあたりまで歩くと、簡素なドアがあった。


 トドさんがポケットからカギを出して、ドアを開けた。

 向こうは暗い物置小屋のようだ。


 トドさんに続いて祢子がドアを通り抜けると、トドさんは物置側からドアにカギをかけた。



 ガチャリとカギをかける音。

 思いがけず退路を断たれて、祢子は驚いたが、同時に覚悟が決まった。


 もう、行くしかない。

 もともとそのつもりだったのだし。





 暗がりに目が慣れてきた。

 座面の詰め物が飛び出した椅子や、錆だらけの鉄の缶、長い塩ビ管、その他の不用品が乱雑に積まれている。


 トドさんは、その間を器用にすり抜けて、奥に進む。

 祢子も、周りの物に触れないように気を付けながら続く。




 最奥の壁に行き当たると、トドさんはそこに屈みこんで、床に敷いた汚い薄板を持ち上げた。


 薄板の下には、頑丈な金属製のハッチがあった。


 トドさんは、ハッチのくぼみに収まっていた取っ手をつかむと、軽々と扉を持ち上げた。




 下には、急な階段が続いている。

 首を伸ばしてのぞきこんでみたが、底は暗くて、何も見えない。





 トドさんは、慣れた様子でどんどん下りていく。


 祢子はおそるおそる足を伸ばした。


 階段には手すりがないし、思ったより段差がある。

 なんとか向きを変えて、階段にしがみつくようにして、一段一段、下りていく。



 固いコンクリートを踏んでふり向くと、意外と明るかった。

 階段の下は、広い廊下になっていて、あちこちに蛍光灯が灯っている。

 

 トドさんが少し離れて、横を向いて待っていた。

 

 実は、下からはパンツが見えるかもと大いに気になっていたのだが、トドさんは見ないように気をつかってくれたらしい。

 祢子はほっとした。





 廊下の両側には、それぞれ大きな鉄の扉があった。



「右側は、ぼくの家。寝室や、台所、浴室なんかがある。

左側は図書室にしている。

どっちを見たい?」


「図書室です」

 祢子は、ためらいなく答えた。


 そのために、がんばってここまで来たのだ。もうずいぶん時間がたってしまった。

 はやく見たい。




 左側の厚い鉄のドアを、トドさんが向こう側に押し開けると同時に、室内に明かりがついた。


「さあ、お入り」





 想像以上だった。


 学校図書館くらいの広い部屋だ。


 統一された規格の、背の高い本棚が、整然と側板を見せて並んでいる。

 奥にも幾つも連結されているようだ。

 本棚の間は、ほどよい幅の通路になっている。


 そして、ああ、本がぎっしりと詰まっていた。




 祢子は部屋を一周してみる。


 中央に広い空間がとってあって、大きい丸いテーブルと丸椅子、それに二人掛けのソファーもいくつか置いてある。

 座り心地がよさそう。




 続いて、本棚の間をざっと見て回った。


 まるまるマンガばかりの本棚が一列ある。

 児童書ばかりの列もある。




 学校の図書館の本棚は背が低いから、こっちの方が、本が多いんじゃない?

 




 祢子は、陶然とした。



 ああ、来てよかった。




 

 まずは、マンガのところに行って、『エースをねらえ』を探した。

 五十音順になっているようで、一番上の棚にあった。


 手を伸ばすが、祢子には届かない。




「これ?」

 トドさんの手が後ろから伸びてきて、指さした。


 祢子がうなずくと、易々と一巻を抜き出してくれた。


「あのう、十巻までお願いします」


 何度もトドさんを呼ぶのは、時間がもったいない。

 今日読めそうな分は、先に出しておいてもらおう。


 トドさんは、はははと笑って、十巻までを腕に抱えると、中央のテーブルに持って行った。


 祢子は小走りに後をついて行き、いそいそと丸椅子に腰かけた。



 トドさんは、マンガを二つの山にして、祢子の前に置いた。


「目が悪くならないように、姿勢よく読むんだよ」

「はい」

「ぼくはそこら辺にいるから。ああ、それから、トイレは廊下の突き当たり。すぐにわかると思うけど」

「はい」



 もう祢子は、一巻のページをめくり始めていた。




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