表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
26/125

文月9

 せめて、靴下を履いてくればよかった。


 頬や耳がかっと熱くなった。


 すぐに赤くなる自分が、祢子は嫌いだ。嫌いだが、どうしようもない。



 きっと、トドさんにも気づかれてしまった。

 祢子がはだしに汚い靴を履いていること。そのことにたった今気づいて、穴があったら入りたい気持ちになっていることを。


 こんなに近くから見ているから。


 頬や首のあたりに強い視線を感じて、ますますいたたまれなくなる。




「麦茶をください」

 この状況から逃げ出したくて、祢子は、がんばった。


「わかった。待ってて」

 トドさんは、くすりと笑って立ち上がり、部屋の隅にある冷蔵庫を開けた。






 トドさんは冷蔵庫の前に屈みこんで、中からいろいろ取り出してお盆に載せた。

 お盆を捧げ持って戻って来ると、テーブルの上に、アイスクリームのカップを一つと、麦茶のグラスを二つ、置いた。



「アイスクリーム、お上がり。謎が解けたごほうび。暑い中、よくがんばったね」

 祢子の斜め前の席に座りながら、トドさんがすすめる。



「いいの?」

「もちろん。早く食べないと、溶けちゃうよ」


「ありがとうございます。いただきます」 

 祢子は、差し出されたアイスクリーム用の木べらに手を伸ばした。




「謎は難しくなかった? すいすい解けたかな?」

 椅子に深く腰掛けたトドさんが優しい声で尋ねる。


 祢子は、固く凍ったアイスクリームに、小さい木のへらを突き刺そうと苦心していた。

「ほとんどは自分でできたんだけど……、でも歩道橋で、紙切れが見つからなくて。

そしたら、偶然弟が見つけたから、なんとか、ここまで来れました」


 


 何の反応もないので顔を上げると、トドさんは黙って背もたれに頭を預け、天井を見ていた。


 祢子も同じように天井を見上げてみた。


 きらきらと、素敵な照明。

 きっとトドさんも見とれているのだろう。


 それから、再びアイスクリームにとりかかった。やっと柔らかくなってきたので、おいしく食べて、麦茶でのどを潤した。




「トドさん?」


 麦茶も飲み終えたので、もう本を読みたくて仕方がない祢子は、トドさんに声をかけた。


 トドさんは頭を起こして、ほほえんだ。

「ああ、ごめんね。なぞなぞをどこに隠したらよかったのか、反省していたんだ」


「だいじょうぶです。もう、ここまでの道は覚えたから。……コップ、どこで洗ったらいいですか?」


「そのままにしておいていいよ」

「でも」


「時間がもったいないだろう? ……それよりも、祢子ちゃん」





 トドさんは、座ったまま身を乗り出してきた。

 ほとんど祢子の目の前に、トドさんの顔が迫った。


 祢子は思わず身を後ろにそらせた。背もたれに頭がぶつかった。




「祢子ちゃんは、秘密は守れるかな?」

 声は優しいが、なんだか怖い。


「はい」


「ここに来たこともだけど、今から案内するところも、誰にも言わない?」




 真剣な目が恐ろしくて、祢子は急いでこくこくうなずいた。

 トドさんの体格の良さが、急に別の意味を帯びてくる。


 ぞわっと鳥肌が立った。


 しかし、もう後戻りはできない。

 誰かに言う、なんて言ったら、帰してもらえないかもしれない。




 だがトドさんはふっと優しく笑った。


「さすが祢子ちゃん。よかった。……誰かに知られたら、ぼくはもうここにいられなくなってしまうから」


「どうしてですか?」

「無いことになっているからさ」


 どういう意味なのだろう。



 じゃあ行こうか、とトドさんは立ち上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ