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あをノもり  作者: 小野島ごろう
24/125

文月7

「あ、あれかも。

あそこに落ちてたよ」


 健太は、自分が歩いてきた方を振り返って、指さした。


 聞くが早いか祢子は、そっちに駆け出した。


 白く光る小さな紙切れが、確かに落ちていた。


 おかしいな。さっき、ここら辺も探したはずなのに。見落としたのかな。



 祢子はそっと摘まみ上げた。


 セロハンテープにペンキのかけらと鉄さびがくっついている。

 小さいトドの絵の上に、茶色い靴跡がついていた。


 歩道橋のどこかに貼りつけてあったのが、さびが剝がれるのと一緒に落ちて、だれかに踏まれたらしい。

 しばらくだれかの靴の底にくっついて移動したのかも。



 でも、車道に落ちていたら、見つけられなかったかもしれない。

 よかった。



 祢子は、靴跡を軽く払ってから、急いで開いた。




「小学校の方向に、柱を十二本」




「それ、なに?」


 健太が追いついて、横からのぞきこんできた。


「あしか? オットセイ?」

「これ? ……あしか」


 祢子は面倒くさそうに答えた。本当のことを教えるつもりはなかった。




「しょうがっこうの……まって、ちゃんと見せてよ」

 健太が読み上げ始めたので、祢子はあわてて紙を握り込み、背中に隠した。



「だあめ。友だちとの、秘密だから」

「ひみつ? ひみつの通信? いいなあ。せっしゃも助太刀いたす」

「すけだち? ああ、手助けのこと?」


 健太は、テレビなんかで覚えた言葉を、すぐに使いたがる。



「いらない。健太は、自分の友だちと遊べばいいじゃん」


 健太は口をとがらせた。

「オレがいなかったら、その紙を見つけられなかったくせに」

「残念でした。もう見つけたもんね」




「ふん、だ。姉ちゃんなんか、ほっとけばよかった」


 祢子は、健太を無視して、歩道を小学校の方に向かって進み始めた。


「へへ~ん。姉ちゃんの、ドブス~」


 むかっとしてふり向くと、健太は鼻に当てた手をひらひらさせながら、反対方向に逃げて行った。


「クソガキ」

 小さく悪態をついて、祢子は先を急いだ。




 思わぬ時間がかかってしまった。

 急がないと、トドさんちにたどり着けないかもしれない。





 「柱」とは、たぶん、電柱のことだろう。他に柱らしいものはないし。


 歩道橋から、電柱を一本、二本……と数えて、十二本目。

 祢子は立ち止まり、辺りを注意深く見回した。



 車道とは反対側に高い生垣が続いていたが、それがわずかに途切れたところに、白いものが挟まっていた。祢子はほっとした。


 近寄ると、生垣の隙間は、奥に続く細い道になっている。


 紙切れは、ちょうど祢子の目の高さに、細いこよりで、生垣の枝に結んであった。

 結び目はゆるかったので、すぐにほどけた。


 トドの絵がついている。




「緑のトンネルを、まっすぐ行け」 

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