文月5
泣きながら食べるご飯は、嫌いだ。
涙のかたまりがつかえて、ご飯が飲み込みにくい。
何を食べているか、味もよくわからない。
父さんも母さんも黙ってテレビの方を見ている。
祢子の斜め前が健太の席だ。
見られたくないので、祢子は顔を伏せているのだが、ちらちらと健太の視線を感じる。
見るなと怒鳴りたいのだが、がまんする。
健太がのん気な声を上げた。
「姉ちゃんは、どうして泣いてるの?」
祢子はむかむかしたが、言い返す気力も無かったので、ふいと顔をそむけた。
誰も答えないので、健太も黙った。
父さんにとってわたしは、出しゃばりで言う事を聞かない、いらいらさせる子どもなんだ。
わたしなんて、いないほうがいいんだ。
母さんだって、健太の方が心配で、健太さえいればいいんだ。
健太は、大事な大事な長男だから。
せっかくひっこみかけた涙がまたあふれそうになった。
健太の心配そうな顔が目に入って、祢子は唇をかみしめた。
健太の前では、絶対泣くもんか。
土曜日。
祢子は、学校から帰ってお昼を食べると、母さんに「友だちの家に遊びに行く」と言って家を出た。
久しぶりに晴れて、傘のいらない日だったが、蒸し蒸しして暑い。
どこからかセミの声が聞こえる。
もう少しで夏休みだ。
祢子は嬉しくなってきた。
橋を渡って、小さい公園に着いた。
祢子は、まっすぐすべり台に向かった。
胸がどきどきしている。
軽くすべり台の周りを一周してみる。
なぞなぞは、どこに、どんな風に書いてあるのだろう。
ふと思いついて、この前トドさんがしゃがんでいたあたりにしゃがんでみた。
見回すと、滑り面の裏側に、ちらっと白い物が見えた。
目を近づけて見ると、折りたたんだ紙切れがセロハンテープで貼り付けてある。
紙切れのすみっこに、かわいいトドの絵が小さく描いてあった。
「これだ」
祢子は、爪でセロハンテープを慎重にはがして、紙切れを取り、開いた。