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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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水無月9

 先生が、教室に戻ったようだ。

 怒る声が廊下まで聞こえてくる。


「何してるんですか! 掃除のときは、だまって掃除に集中すること! 集中っていうのは、勉強にも、仕事にも、スポーツにも、全てに通じることです! 掃除だからって不真面目では、いつまでたっても何もできませんよ!」



 祢子はにやりとした。

 バケツに新しい水を汲んで教室に戻ると、男子は殊勝な顔つきで掃き掃除していた。


 田貫先生は教室の真ん中で仁王立ちして、まだぶつぶつ小言を続けている。

 過去のことも芋づる式で出てくるから、いつまでたっても終わらない。



 そりかわ君が、冷たく光る眼で、一瞬祢子をにらみつけた。



 祢子が先生に言いつけに行ったと勘違いしたのかもしれない。


 どうでもいい。そりかわ君がどう思おうと、関係ない。





 帰り道、雨がしとしと降ってきた。


 傘を持ってきていないかーこに、祢子が傘をさしかけた。



「あたしが持った方が、いいんじゃない?」

 かーこが言った。


 確かに、背の高いかーこにさしかけると、祢子の腕がくたびれてくる。


「ほら、貸して」

 かーこが、傘の持ち手を奪い取った。



 

 

 祢子の肩が濡れ始める。

 傘の位置が高くなったので、頭にも雨が降りかかる。


 傘の中棒は、二人の真ん中よりは、かなりかーこの方に寄っているように見える。



 祢子は、濡れて気持ち悪いのでかーこに寄る。

 かーこは、そのたびに「そんなにくっつかないで」と嫌そうな声を上げ、離れる。

 傘も離れていく。


 祢子は、だんだんものがなしい気分になってきた。

 わたしの傘なのに。





 いきなりかーこが、乱暴に傘を返してきた。

「あたし、走って帰るから」


 何がなんだかわからない。

 足元にしぶきを立てるかーこの後ろ姿が、雨のすだれの向こうに消えていく。



 傘をさし直して前を見ると、傘をさした男の人が、道路わきの小さい公園に立っていた。



 

 かーこは、意地悪しているところを人に見られて、気まずくなったのだろうか。





「こんにちは、祢子ちゃん。よく降るね」


 男の人から声をかけられて、祢子は驚いて立ち止まった。


「トドさん……ですか?」


 祢子は、離れた位置で立ち止まった。




 パジャマじゃなくて、襟のある長袖シャツを着ている。

 下半身は普通の男の人がはくようなズボンだ。


 ひげが無くなっている。

 長い髪は後ろで結んでいるようだ。

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