水無月8
「ええと、まず、目の悪い人」
先生の問いかけに、祢子と、はぶ君が手を挙げる。
「じゃあ、毛野さんと、はぶ君は今のままの席ね」
はぶ君は六年生になってからずっと、祢子の左隣だ。
はぶ君は、メガネをかけている。
勉強がよくできて、祢子も社会と理科は敵わない。
祢子はメガネはかけていないが、後ろの席では黒板の字がぼやけてわからないので、目が悪いのは本当だ。
視力検査のたびに、メガネをかけるようにとお医者さんに言われるが、できるだけかけたくはない。
きっと似合わないし、メガネザルとか、からかわれるのもいやだ。
先生は、他の生徒たちに、さっさとカードを配り始めた。
かいの君、さかした君、そりかわ君たちは、カードをもらわなかった。
今まで通り最後列らしい。横方向でお互いに入れ替わりはしていた。
「あーあ、また一番後ろか」
かいの君が声を上げた。
他の生徒たちは、黙って荷物を持って移動した。
席替えはいつも陰気だ。
席替えなんてしなくてもいいのに、と祢子は思う。
教室の床を雑巾がけしていた祢子に、誰かがぶつかってきた。
そりかわ君だ。
今日の席替えで、縦一列で班を分けたので、同じ三班になった。
一・三班は、教室の掃除だ。
先生は、トイレ掃除を見に行っているので、教室にはいない。
そのせいか、男子がふざけて、ほうきでちゃんばらごっこをしている。
学級委員の古井君までちゃんばらしているので、祢子はがっかりした。
先生が戻って来たら、こってりと絞ってくれるだろう。いい気味だ。
自分だけでもきちんとしようと、黙々と雑巾がけをしていたところだった。
「いたっ」
祢子は声を上げて、憤然と立ち上がった。もう我慢ならない。
「何してるの! ちゃんと掃除してよ!」
そりかわ君は、へらっと笑って、いきなりほうきの柄で祢子の頭をこつんと叩いた。
「何するの!」
「あ、ごっめーん。当たっちゃった。わざとじゃないよ、たまたま、たまきん」
その場にいたみんなが、どっと笑った。
祢子は、かっとなった。
「今は掃除の時間でしょ! まじめに掃除してよ!」
「さすが、ひいきされてる人は、違うなあ」
そりかわ君がのんびりと言った。
からかっている調子は消えて、ひんやりした目をしている。
祢子は黙って背を向けて、バケツに雑巾を投げ入れると、バケツを提げて廊下に出た。
ひいきと掃除と、何の関係も無いじゃない。
掃除も勉強も、やる気を見せたら、先生だって認めてくれるはずだ。
そんなことが、なんでわからないんだろう。
だから、いつまでたっても最後列なんだ。