表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あをノもり  作者: 小野島ごろう
118/125

弥生6

 卒業式が終われば、六年生は春休みだ。


 しかも、宿題が無い。




 一日目。



 祢子は、自然に目が覚めるまで寝ていた。


 起きたら、母さんはすでに仕事に出かけていた。

 外は雨。

 母さんは、かっぱを着て、自転車で行ったのだろう。



 祢子は、朝食を温めて、ゆっくりと食べた。


 おじいちゃんは書斎にいるようだ。


 食器の片づけが済むと、することがないので、こたつに入ってテレビをつけた。

 久しぶりに、小さい子が見るような番組を見た。

 小さい子が見るものと思っていたが、つい引き込まれて、だらだらと見続けた。



 お昼になったので、書斎にこもっているおじいちゃんを呼んで、一緒に昼ご飯を食べた。


 おじいちゃんは、食べ終わるとまた書斎に戻った。



 いつものようにテレビを見ないなんて。

 見たい番組がないのだろうか?


 でも、おじいちゃんがこたつに入らないのは、祢子にはありがたい。

 おじいちゃんと二人でこたつに入るのは、どうしても抵抗がある。



 片づけが終わったら、祢子は書棚から百科事典を一冊引き出して、こたつに入った。



 父さんが小説類を嫌うので、家にある本は、百科事典と生き物図鑑だけだ。


 難しそうな、なんとか理論の本はたくさんあるが、父さんは触らせてもくれない。

 もっとも、父さんが読んでいるところを横から覗いたら、チンプンカンプンだった。


 百科事典は、祢子が生まれた頃に父さんが揃えたそうだが、開いたのはこれが初めてだった。

 ちょっと読んでみたら、面白くないこともなかった。

 が、そう思うのは父さんに負けたような気がして、おもしろくなかった。


 祢子はすぐに、百科事典を閉じて、書棚に戻した。



 今度は、生き物図鑑の『鳥類』を引き出して開いた。

 小さいころから何度も見たので、表紙の角がすり切れている。


 厚い紙面をぱたぱたとめくってみたが、今一つ気が乗らない。


 これが好きだ、あっちの方がいい、こっちの方が強そうだ、あっちの方がきれいだ、と健太と言い合いながら見るほうが、楽しい。

 悔しいけれど。



 そのうち、玄関先でかっぱをばさばさと振るう音がした。

 母さんが帰ってきたようだ。


 祢子は「お帰りなさい」と声を上げながら、こたつから出て、図鑑を戻した。






 二日目も、布団の中が気持ちよくて、二度寝や三度寝をした。

 やっと起き上がった頃には、もう十時過ぎていた。



 外は、今日も雨の音。


 雨の平日に家の中で過ごせるのは、なんというぜい沢だろう。

 他の人々は、働くか学校に行くかなのに。



 すぐに昼になるとは分かっているが、子どもはお腹が空くものだ。

 祢子はだれもいない台所に入り、冷めきった味噌汁を温めて、ひとりのテーブルでもそもそ食べた。


 雨の音が、大きくなる。


 食べ終わった食器を下げて洗いながら、祢子は急につまらなくなってきた。



 多少眠くても、いつもの時間に起きたら、自分一人でご飯を食べずに済んだろう。


 母さんが準備してくれた朝ご飯を、みんなと一緒に食べて。

 まだ春休みに入っていない健太が、うらめしそうに登校するのを見られただろう。


 母さんを手伝って見送っても、昼までに何かする時間がたっぷりあっただろう。



 明日からは、早起きしようと決める。



 午後からは『魚』の図鑑を見た。

 いろんな魚の精緻な絵をいい加減に見ながら、ふと、小説が読みたいなあと思った。


 思い始めたら、矢も楯もたまらなくなった。



 小学校の図書室ではもう借りられない。


 でも、わたしは、図書券を持っている。

 誕生日におじいちゃんがくれたのだ。三千円もある。

 これだけあれば、二冊くらい買えそうだ。



 そうだ。○九の本屋に行ってみよう。

 わたしはもう、中学生なのだから、一人で行けるはずだ。

 母さんと行ったから、道もわかる。


 母さんが仕事に行ってから家を出て、母さんが帰ってくる前に帰ってきたら大丈夫だ。


 おじいちゃんはこのごろ書斎にこもっているから、ちょっと留守をしてもわからないだろうけど。

 騒ぎになってもまずいから、遊びに行くと言って出たらいい。



 

 いろいろ作戦を練っていたら、祢子は、待ち遠しくてたまらなくなった。



 次の日から連休なので、決行は月曜日だ。


 健太も春休みに入ってしまったら、見つかって告げ口されるかもしれない。

 迷っている暇はない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ