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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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弥生1

 三月。



 授業が少なくなって、ほとんど卒業式の練習になった。

 初めから通したり、五年生と合同でしたりすることが多い。


 集団登校の班長や、委員の引き継ぎも行われた。

 次の人に仕事を引き継ぐと、体が軽くなるようだ。


 

 教室に置いてある物も、少しずつ持ち帰る。


 リコーダーや、裁縫道具、体操服。粘土板や粘土。コンパスや三角定規。

 給食用のマスクや三角巾。

 絵や習字や作文をつづり紐で綴じたもの。縄跳びや縄跳びのスタンプカード。


 宿題は、もう無い。

 図書室の本も返した。







 卒業式の日になった。




 健太は、休みなので喜んでいた。

 母さんは、着物を着て後から来るそうだ。


 母さんが出してくれた、お正月に着た服を着て、祢子はいつもより遅く家を出た。

 ランドセルを背負わずに、おしゃれをして学校に行くというのは、とても変な気持ちだ。



 集団登校ではないので、かーこと待ち合わせだ。



 かーこは、おとなっぽい紺色のブレザーとスカートを着ていた。

 祢子をじろじろと見て、「そんな色のでもいいの?」と聞いてきた。


 ベージュやグレー調なのだが、紺や黒でないとだめなのだろうか。


 祢子は少し動揺したが、今さら着替えるわけにもいかないし、母さんがこれでいいと言ったのだからいいのだ、と腹をくくった。



 かーこは、卒業式用に服を買ってもらったことや、卒業式の後おじいちゃんがレストランでごちそうしてくれる、というようなことを得意げに話す。


 今日がたぶん、かーこと一緒に行く最後の日だ。

 かーこに何を言われても、これが最後だ。


 そう思ってにこにこしていたら、かーこは気味悪くなったのか、途中から黙った。



 先を行く一組の女子が見えて、かーこはそっちに走って行ってしまった。


 祢子はそのまま歩く。

 一人で歩く方が気持ちいい。




 教室に入る。


 黒板は、「ご卒業おめでとうございます!」と大書してあり、残りはいろんな色や絵で埋め尽くされていた。

 天井から輪飾りがたくさん下がっている。

 教卓の上の一輪挿しに、スイートピーがさしてある。


 五年生だろう。去年、祢子たちも六年生の教室を飾った。




 最後の朝の会は、出席確認と簡単な連絡や注意で終わった。

 田貫先生も、今日は高そうなスーツを着て、おしゃれしている。


 五年生がやってきて、紙で作った白い花を、胸につけてくれた。


 五年生はそのまま体育館に行く。六年生は、一番あとから入場するのだ。




 六年生は、体育館前の廊下に整列した。


 今田先生を先頭に、一組から体育館の中に入っていく。


 パイプオルガンの重厚な曲と拍手が、しだいに大きくなる。


 田貫先生を先頭に、二組も出席番号順に入っていく。


 正装の保護者が、ずらりと座っている。

 拍手を浴びながら、生徒たちは一列になって真ん中の通路を通っていく。


 あちこちでカメラのシャッター音が聞こえる。



 母さんはどこにいるかな。

 きょろきょろするなと言われているので、祢子は目だけ動かして左右を見たが、メガネを外しているのでよくわからなかった。



 六年生は流れるように席の間に入っていき、一列全員がそろってから座る。





 今日は、ステージの奥に日の丸が飾ってあり、演台の上には立派な松の盆栽が置いてある。

 来賓席には、スーツ姿の男の人が何人も座っている。



 「国家斉唱!」と号令がかかる。体育館の中にいる人が全員立ちあがる。


 ピアノの前に伴奏の先生が座って、前奏を始める。

 「君が代」は音程が下から上まで幅があるし、ひとつひとつの音が長いので、息が続かず歌いにくい。

 終わり方もなんだか中途半端だ、と祢子は思う。



 式辞や祝辞は、とても長い。


 校長先生に、市長の代理の人、教育委員会の代表の人、PTA会長。


 誰かがステージに上がる度にざっと立ち上がって、呼吸を合わせて礼をする。

 「すわってください」と言われたら座ることができるが、かれらが言葉を述べ終わって奉書紙をたたむときに、また立ち上がって礼をしなければならない。


 たぶんいいことを言っているのだと思うけれど、目新しいことや面白いことはなにもなくて、聞いた端から忘れていく。





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