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あをノもり  作者: 小野島ごろう
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睦月11

 このごろは、かーことの帰りにも、中学校の話が多い。

 かーこは、いとこが中学生なので、情報通だ。



「部活、なんにする?」とかーこ。

 部活って、もう決めなくちゃいけないのかな。


 祢子は、少々あせる。


「何があるの?」

「えー、知らないの?」



 かーこはいちいち、知らないのかと聞いてくる。 

 (かん)(さわ)るが、知りたいのが先に立つので、祢子はおとなしくうなずく。

「うん」



「バレーボールとか、卓球とか、テニスとかあるみたいよ」


「かーこは、なんにしたいの?」

「バレー部かな。いとこのお姉ちゃんもバレー部だし」



 バレーボールなんてしたこともないので、祢子にはなんとも言えない。

 でも、かーこがバレー部なら、絶対バレー部には入りたくない。



「運動部しかないの?」


「吹奏楽部とか美術部もあるみたいだけど。ネクラが入るとこじゃん」

「ネクラ、って?」

「それも知らんの? 根が暗い人のことじゃん」



 祢子は黙った。

 かーこは、祢子がなにを言っても馬鹿にしてくる。


 だけど、それもあと少しだ。

 中学生になって、別々の部活に入ったら、かーこと一緒に帰らなくてもよくなる。




「シャーペン、買った?」

 かーこが、自慢げに聞いてくる。

「いいや」


「サンリオショップで、キティちゃん柄のを買ったんだ。とおっても、かわいいんだ。

祢子も、サンリオで買ったらいいんじゃない?」


「サンリオショップって、どこにあるの?」

「Tの街の、デパートの近く。

店の中に入ると、全部がかわいいものだらけで、どれにするか本当に迷うー」



 Tの街は、自転車では行けない、遠い繁華街だ。


 かーこの家は、お父さんが車を運転するから、連れて行ってもらったのだろう。


 祢子には行けないことがわかっていて言っているのだろうか。



 祢子は、絶対にサンリオのシャーペンは買わないと決める。

 シンプルで、絵なんて入っていない、大人っぽいのにする。消しゴムも、筆箱もだ。




「カバンは買ってもらったよ」

 祢子は、ちょっとくらい逆襲したかった。


 とたんに、反撃に遭った。


「こっちだって、カバン、もう買ったし。

ブタカバンには絶対したくないから、そのうち底板をとって、脇を縫うつもり。

一年生がそうしていると、先輩に目をつけられるから、二年生になったらね」



「ブタカバン?」

「知らんの? 物をいっぱい入れて、ブタみたいに膨らんだ、みっともないカバンのことよ」


「でも、教科書とかノートとか、入れられなくなったら困るんじゃない?」

「学校に置いてくればいいじゃん」

「学校に置いたら、宿題とかできなくなるよ」


 かーこは、いよいよ憐れんだような表情をした。

「ま、祢子は真面目だから、ブタカバンにしたら?」




 かーこは、いったい何のために学校に行くのだろうか。


 かーことは合わないようだと、以前からうすうす感じてはいたが、この時祢子は確信した。


 かーこと分かり合うことは、この先も、一生、ないだろう。




 女の子同士だから。同級生だから。一緒に下校しているから。

 だから、仲の良い友だちになれる。


 そんなわけないのだ。

 


 一緒にいて、いやな思いだけするような友だちって、友だちと言えるのだろうか?


 そんな友だちなんて、いらない。


 仲良くなる努力も、したくない。


 

 だって、かーこは祢子のことを馬鹿にしたくてしょうがないし、祢子は馬鹿にされるたびに、悲しいし傷ついている。



 もう、祢子はかーこと一緒にいたくない。

 心の底から。




 さみしいような気がしないこともないが、はっきりそう決めると、祢子はすっきりした。




 かーこはかーこの道を行けばいい。

 わたしは、かーことは違う道を進む。


 そして、いずれかーこのことを、きれいさっぱりと忘れるだろう。

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