睦月10
それから、体操服やジャージも試着した。
結局、全部Mで注文することになった。
体操服は、下が黒いブルマーだ。
小学校では、青い半ズボンだったので、ブルマーはなんだかいやだ。
こんな、足が全部出る、ぴったりしたブルマーは恥ずかしい。
けれど、女子はみんなそうなのだから、仕方がない。
体育館用シューズや上履きも、試供品をはいてみてから注文した。
サブバッグやアルトリコーダーも要る。
母さんは重い重いと自転車を漕ぐ。
「そんなに重くないでしょ」
祢子は、母さんの揺れる背中にくっつきながら、口をとがらせる。
「重いわよ」
歩いて帰る親子の脇を通り過ぎながら、母さんはちょっと会釈した。
「ええと、あと要るのは、白い通学用の靴と白い靴下。通学用カバン。
今度一緒に買いに行こうね」
「うん……」
祢子は、正直ちょっとびびっていた。
中学校に行くのは、こんなにお金がかかるんだ。だいじょうぶかな。
「母さん」
「なあに?」
「たくさんお金がかかっちゃうね。ごめんね」
「何言ってるの」
母さんは、息を切らせながら、朗らかに笑った。
「祢子がちゃんとお勉強がんばってくれたら、それでいいの」
「うん。がんばるね」
日曜日、祢子は母さんと二人で○九に行った。
カバン売り場に行くと、通学カバンがいくつもおいてあった。
革製のとクラリーノ製のがある。色は、紺か黒。
何万円もするので、祢子はびっくりした。
母さん、お金が足りるだろうか。
いつか、レジで十何円か足りなくて、恥ずかしそうに品物を返していた母さんの姿を思い出す。
革製の方が高かった。
クラリーノ製の方が軽くていい、と祢子は母さんに言った。
母さんは、そう? と言って、紺のクラリーノ製のカバンを買ってくれた。
通学靴は、全部白いひも靴でないといけない。そんな運動シューズは一種類しかなかった。
幸い、祢子のサイズがあったので、それを買う。
白いソックスも、何足か買った。
ずり落ちてきそうな、中途半端な長さのものだ。
母さんは、買ったカバンは自転車の前のカゴに立てて入れて、靴などの袋はハンドルにぶら下げた。
帰り道、袋が北風にあおられて、がさがさと暴れた。
祢子は自分の小さい自転車で、母さんの後をついていく。
荷物は何も下げていない。
中学生になったら、自転車も大人用のがほしい。
けれど、こんなにたくさん買い物をさせてしまった後で、とても言い出せない。
まあ、通学は歩いてだから、いらないかも。
帰宅して、家族にカバンを見せる。
「えー、いいなあ、姉ちゃん。姉ちゃんばっかり」
健太がうらやましそうに見る。
さわりたそうだが、さわってもいいよ、とは言わない。
「健太も、中学生になる時は買ってあげるから」と母さん。
「中学生は勉強しないとといけないんだ。テストのたびに、成績の順位が出るんだぞ。
健太もそんなに勉強したいか」
父さんに脅されて、健太は「まだいいや」と引っ込んだ。
祢子は新しいカバンが珍しくて、かぶせのカギの所を何度もカチャカチャいわせたり、ファスナーを開けたり閉めたりした。
この中に、教科書やノートや筆箱を入れるのかな。
ああ、シャーペンも欲しいな。できれば、新しい筆箱も。
次から次に欲しいものばかりが思い浮かんでくる。
こずえちゃんは、欲しいものを全部買ってもらえるんだろうな。
かーこは、どんなカバンにしたかな。
クラリーノ製のだったらいいな。