睦月8
夕食の片付けが済んでから、母さんに促されて、祢子と健太はお年玉の確認をした。
おばさんたちが、別室で入れてくれたお年玉だ。
いろいろな絵柄の、かわいいお年玉袋に入っている。
一袋に、祢子も健太も三千円ずつ。
三袋あるから、九千円だ。
健太は去年まで、一袋に二千円だった。
ということは、四年生以上は、一袋三千円なのだろう。
健太は、大喜びだ。
祢子も嬉しいが、健太と同じというのが少し気にくわない。
母さんが、「いくらあった?」と確認してきた。
二人で声をそろえて、「九千円!」と答える。
「それ、どうする?」
母さんが聞いた。
祢子は、自分で何か買ってみたいとも思った。
だが、自分一人で行って、買い物を楽しめるところがある訳でもない。
自分で持ってて、なくしたら大変だし、とりあえずは母さんに預かってもらおう。
今までも、そうしていたし。
「母さん、貯金しといてくれる?」
お年玉を全部母さんに差し出したら、健太もまねして同じようにした。
結構、たまったんじゃないかな。お金持ちになれるかも。
「母さん、今までのお年玉、どれくらいたまってる?」
祢子は母さんに尋ねてみた。
母さんは小首をかしげた。
「たくさんたまってる?」
「そうねえ」
母さんの様子に、祢子はなんとなく変なものを感じた。
年末年始の休みが終わると、父さんも母さんも仕事が始まる。
母さんはまた朝からフル回転で家事をこなしてから、仕事に行く。
祢子は、もう宿題を終えて、暇になったので、外で遊んだり、読書したりして過ごしている。
ある晴れた日、家の前の細い道路で、祢子は健太をさそって縄跳びを始めた。
三学期になったら、学校で縄跳びが始まる。
「駆け足跳び百回」とか「二重跳び十回」とか、達成できたら丸をつけていく、縄跳びカードが配られるのだ。
練習しておきたい。
祢子は、二重跳びは二十何回かできるのだが、あや二重跳びはあまりできない。
交差二重や片足二重跳びは一回がやっとだ。
健太は二重跳びがやっとできるようになったところだ。
祢子がお手本を示してやる。
ちょっとの間は健太も練習するが、すぐに飽きて、友だちの家に行こうとする。
「もうちょっと練習しなさい!」
「いやだ!」
「だからいつまでたってもできないのよ!」
「できてるじゃん!」
言い合いをしていると、りえこちゃんとマー君が家から出てきた。
りえこちゃんは、マー君のお姉ちゃんで、五年生だ。
三人以上集まると、大繩跳びができる。
祢子と健太の縄を結んで、大繩にして、祢子とりえこちゃんが両端を持って回す。
二人で回す大繩に、健太とマー君が次々に入っては抜けていく。
真ん中の結び目が、かつんかつんとアスファルトに当たって跳ね返るのを、上手にやり過ごしながら跳んでいく。
りえこちゃんが、男の子ばかり跳ぶのはずるい、と言い始めて、他の五年生を呼びに行った。
他に二人の五年生の女の子が加わって、交代で縄を回せるようになった。
大繩が上に上がりかけると、縄を回す手元の近くから、斜めに素早く縄の内側に入る。
縄が下に向かい、結び目がアスファルトを打つときに、ぱっと跳び上がって、縄をやり過ごす。
縄がまた上に上がっている間に、縄の外に斜めに走り出る。
たったこれだけのことなのだが、油断していると縄に引っかかる。
何度も回し手を交代してみんなで跳んだあと、そろそろ他の遊びをしようと、誰ともなしに言い始める。
かくれんぼをしよう、と誰かが言ったが、隠れるところが多すぎて、だれも鬼をやりたがらない。
細い道なので、できる遊びも限られる。
けんけんぱ、をしよう、と誰かが言った。
道路に丸をいくつもつなげて描いていく。
一つの丸には片足しか入れられない。それが、「けん」。
丸が横に二つ並んでいたら、同時に両足をつくことができる。それが、「ぱ」。
途中で踏み外したり、足のつき方を間違えたりしたら、次の人と交代しなければならない。
けんけんぱ、けんぱ、けんぱ、けんけんぱ。
けんけんぱ、けん。交代。
しばらく遊んでいたが、下手くそな健太が、おもしろくないからマー君と抜ける、と言い出した。
「じゃあ、もう帰ろうっと」
「じゃあ、バイバイ」
「バイバイ」
五年生たちも帰っていく。
向こうに、自転車で帰ってくる母さんの姿が見えた。