第四話 整形女子
「おーい、吉乃」
「悪い。今日、コイツと食うから」
昼休み、誘う声に断りを入れてから、吉乃は廉華に近づき気安く肩を組んできた。
「えー……」
「お前なぁ」
廉華が嫌そうな顔をすると、吉乃は呆れた様に溜息を吐いて。
「状況分かってんのか?」
「蓼原さん。食事ってのは何もかもから切り離されてるべきだと思うんすね、俺」
「お前は誰かにメシ食ってんの見られて恥ずいってタマじゃねーだろ。それに任務の事もある」
吉乃の耳打ちに対し、廉華は一言。
「任務は蓼原さんが分かってればいーじゃないですか。俺はボディーガードなんで」
吉乃の手刀が廉華の脳天に振り下ろされる。
「オメーも潜入任務中なんだよ」
叩かれた頭を抑えながら「俺のハイスペ脳が劣化したらどうするんですか」と睨み上げれば「お前の脳味噌に誰も期待してねーから安心しろ」と冷たい言葉が返ってくる。
「……潜入任務に自由時間なんてねーからな?」
「そうですねー」
南和高校への潜入任務。
この学校の制服を着ている生徒が襲撃を行なったと言うのならば、敵の懐に潜り込んだも同然。
「で、怪しい人見ました?」
廊下に出た所で廉華が聞く。
吉乃は首を横に振った。
「まだ見てないな。黒髪ツインとか明らかに目立つだろ」
写真からもだいぶ印象的な見た目である事を確認している。
「教師に聞けば分かるんじゃないすか? 蓼原さんの能力ならスンナリ聞けると思うんですけど」
「……それもそうだな」
もしかすれば不登校。ツインテールはあの時だけ。様々な可能性が吉乃の脳内を過ったがどれもこれも教師にただ質問をすれば確定させられる。
それが吉乃には出来る。
「──あはは、マジで来たじゃん」
声が聞こえた瞬間、廉華は咄嗟に吉乃を突き飛ばす。
「チッ」
「殺気ぷんぷん丸だぞ、お前」
刀は、携帯していない。
携帯していた所で吉乃に止められていた。
「……まあ、殺したくて仕方ないんだけどね」
ツインテールでは無い。
肩まで伸びたセミロングヘアーの金色。印象がだいぶ違う。
「オイオイ、短期間にトンデモ整形か? 一体どんだけ課金したんだよ」
「さあねぇ。ワタシ、タダで整形し放題だからさ」
クスクスと女が笑う。
「これだからブラックカード持ちはよォ」
突き飛ばされた吉乃も立ち上がる。
「師範はバカな奴が居たとか言ってましたけど」
「アレだな。オレらはまんまと釣られちまったって訳だ」
地の利は完全に不利。
だが、能力の上では。
「流石に正面からはやり合うつもりないから」
そう言って彼女は逃げの一手を打つ。
「待て!」
当然、吉乃は追うスタンスを崩さない。正面戦闘の優位を印象付けたいから。ただ、実際は。
「……あざす」
戦闘力となる廉華が武器のない状態で戦うのは心許ない。何より、廉華の能力発動には武器が必要となる。
刀ではなかったとしても、何かしらの刃物が。
「──見失ってないっすよね、蓼原さん?」
吉乃は言葉に詰まってから。
「あー……あんま期待すんな」
と、顔を背けた。
「別に良いっすけど」
廉華はジトっとした目を向けながら。
「多分、本当に正面戦闘向きじゃないですね。殺気はビンビンでしたから」
そのお陰で攻撃を防ぐことが出来た。
「……真面目に整形関係か。人混みに入られたら本気で厄介なタイプだな」
先程の廉華とのやり取りを信じるのであれば。
「どうします?」
全力で見つけ出すか。
ただ、騒ぎは完全に大きな物とはなっていない。
「状況で決める。今回は追わない」
あの。
廉華は改めての疑問を口にする。
「捕獲すか?」
「……ああ」
方針の変更はない。
「殺されないでくださいよ」
「お願いなので、守ってください」
「分かってますよ」
周囲への警戒は怠らずに。




