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第三話 留年(設定)

 蓼原吉乃。

 廉華が彼の死を心配していない理由は、彼の持つ能力に由来する。

 

「編入生の二人を紹介する」

 

 担任教師の声に従い教室に二人が入ったのがつい二〇分ほど前の話だった。

 

「吉乃、お前も分かる?」

「いや、スゲー分かる」

 

 人間関係の構築に於いて高々二〇分。この短い時間で吉乃は良好な関係を築き上げてしまう。廉華には不可能な芸当だ。

 そもそも能力を使用しているのだから、不可能なのは当然なのだ。

 

「許せないよな。ゲームで友達居なきゃ出来ない奴ってさ」

 

 廉華も思わず頷いてしまう。

 近くに居るわけではない。

 遠くから吉乃が話しているのを眺めているだけ。

 

「あれ、宮本さん」

 

 廉華に話しかけたのは線の細い長身の男子。どこか弱そうな、肩を突き飛ばせば簡単に押し倒せそうな。

 草食男子的な見た目をしている。

 

「もしかして話に入りたい感じ?」

 

 廉華の視線が吉乃達の居る方向に向いている事に気がついたのか。

 

「いや、別に。そっちこそ。俺と何か話すよりも蓼原さんと話してる方が楽しいと思うけど」

 

 気にかけてくれているのかは分からないが、廉華には自らと話しても利点は特にないと判断している。

 

「……蓼原さん? 同い年じゃないの?」

「ん?」

 

 そこで廉華は漸く自らのミスに気がつく。話を合わせるのに知らない間に広がっていては吉乃も苦労するだろう。

 

「それに、宮本さん。別に同い年には敬語とか使わないでしょ?」

 

 話している感覚で捉えられた。

 そして、外れていない。

 

「いやー、蓼原さん。実は留年しててさー!」

 

 吉乃にも聞こえる様な声で口にする。

 吉乃からギョッとした目が廉華に向けられたが「俺はその癖でね、ついつい敬語つけるんだよ。一応、尊敬してるから!」とベラベラと言い訳を並べる。

 

「ごめん、ちょっと失礼!」

「お、おう。行ってこいよ、蓼原さん」

「さん付け止めろ!」

 

 席を外し、吉乃は廉華の首根っこを掴み、廊下にまで引き摺る。

 

「……違うんすよ」

 

 開口一番、廉華は言う。

 

「何が、だ」

「ほら、潜入って複数人でやる場合、設定とかちゃんと共有しなきゃじゃないすか」

 

 そこでズレがあった場合に疑われては元も子もない。

 

「おう。そうかもな。で、なんでオレが留年した事になってんだ」

「蓼原さんが年上だったんで」

 

 吉乃は現在二〇歳。

 制服を着ていれば気が付かないが、完全にコスチュームプレイをしている成人男性でしかない。

 高等学校潜入の適正年齢──現役高等学校生の年齢──であるのは廉華である。

 

「お前のミスだろ!」

 

 拳骨が振り下ろされた。

 

「あでっ……!」

 

 頭頂部を抑え、廉華は「殴る事ないじゃないすか」と上目で睨む。

 

「……先に言っといた方良かったな」

 

 吉乃も完全に頭から抜けていたのだ。

 

「過ぎた事は仕方ないっすね、蓼原さん」

「それをッ、お前がっ」

 

 色々と言いたい事もあったのだろうが、授業前の予鈴が鳴り響いた。教室に戻れば「蓼原先輩、ちーっす」という声が聞こえた。

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