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第二話 知った顔

 

「げ」

 

 廉華が声を漏らすと同時に目の前に現れた男も声を上げた。

 

「クソッ……騙された」

「もう一人って蓼原(たではら)さんだったんすね」

 

 金髪を真ん中で分けた剽軽な印象のある青年、蓼原吉乃(よしの)は額に右手を当てながら呟く。

 

「オレァ、可愛い娘と一緒だからってやりたくもない潜入任務受けたっつーのに」

 

 廉華は半目で吉乃を見つめる。

 

「蓼原さんの能力で潜入以外に何できるんすか」

 

 吉乃は嫌そうな顔をしてから「だとしても、オレは潜入が毎回怖くて仕方ねーの」と溜息を吐き出しながら答えた。

 

「はいはい、我慢しましょうねー。俺も我慢するんで」

 

 廉華としてもこの男、蓼原吉乃との共同任務に関しては文句の一つも言いたくなる程だった。

 

「あ、おい廉華」

「何すか?」

 

 仕方がなしに二人で並んで潜入先である南和高校へと向かう道中、吉乃が思い出したように呼びかけ、ポケットから一枚の紙を取り出して見せる。

 

「そいつが例のヤツだ」

 

 写真に写っているのは黒髪ツインテールの目つきの鋭い少女。宗玄の言っていた事は確かだったらしい。

 制服は今、廉華と吉乃が着ているものと同様だ。

 

「へー、この子を」

「ああ、捕獲……」

「暗殺すね?」

「は?」

「ん?」

 

 廉華の言葉を聞いてから「だから嫌なんだよ、お前との仕事」と愚痴を溢す。

 

「でも、俺は師範から暗殺しろって聞きましたけど」

「……お前なぁ。どう考えても情報引き出す方が効率的だろ」

「確かに。まあ、こういうのは初めてなんで蓼原さんの判断に委ねますわ」

「おう、そうしろ」

 

 吉乃は腕を組み悩ましいと言いたげな表情を浮かべる。

 

「どうしました? そのまままっすぐ歩いてっと電柱に……」

 

 廉華の注意虚しくガスン、と吉乃の身体が電柱にぶつかった。

 

「痛った……クソ、何なんだよ」

「だから言ったじゃないすか。うわ、恥ずかし」

 

 吉乃は周囲を見回して廉華に目を向ける。直ぐに廉華から視線を逸らし「……潜入の緊張感が爆上がりしてんだよ、オレは」と。

 

「安心してください。弁えますって、俺は」

 

 メンドイの嫌いなんで。

 廉華はベッと舌を出す。

 

「……それもそれで何の為にお前居んのって話なんだよ」

「能力使いたくないですし。能力使った後、戦いたくないんですよ、基本」

 

 ならば捕獲すると決めたのなら潜入に特化した吉乃に頼ってしまった方が話が早い。廉華が動くとなれば、武力を行使する事が殆どだろう。

 

「変な癖つくかもしんないから……だったか」

 

 吉乃の確認に廉華が首肯する。

 筋力の落ちた状態となれば、筋力の落ちた際に適した振り方をする様になってしまうかもしれない。

 それを理由に廉華は能力使用後暫くの期間の戦闘を避ける様にしている。

 

「でも、お前。結局……」

「はい、蓼原さん。黙りなさい」

 

 吉乃が指摘をしたかったのは廉華の意思の無意味さである。

 

「俺の一八〇オーバー、筋骨隆々のマッソゥボディ……返ってきて」

「ンなモンは最初っから無かったろうが」

 

 吉乃のツッコミを聞き流す。

 

「そういや」

「おう」

「蓼原さんって最近何してたんですか?」

「別に何も」

「……死ね」

「何でだよ!?」

 

 廉華は自身と吉乃を比較してしまったのだ。ダイダラボッチのコア部守護の任務を受けていた自らとは異なり、この男は自堕落なニート生活を貪っていたのだ、

 

「殺されはしないでくださいよ」

「……何だよ、優しいかよ」

「惚れないでくださいね」

 

 廉華が蔑む様な目を向ければ「男には惚れねーから!」と必死の形相で答える。

 

「潜入とか、任務の失敗ってなったら給料面が不安なんで」

「……お前の優しさにちょっと感動したオレの心を返してください」

 

 廉華は吉乃に顔を向けて「ま、俺が守るので。出来る限りは近くにいて下さいよ?」と言う。

 

「死にたくなかったら、ですけど」

「全力で一緒に居るわ」

「……ぶっちゃけ蓼原さんが殺される様な心配はあんまり無いんですけどね」

 

 廉華の言葉を聞いてから「オレもそうである事を祈るわ」と笑った。

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