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❄❄ 11 ❄❄ 古傷とかさぶたのラルランス

「これは、ワタシを助けてくれた『ニンゲン』が付けてくれたものなのだ。正直、彼らの真意までは量りかねるが――いや、そうか。もしやキミ達なら意味が分かるのか?」

「えっ……いやぁその、どうだろう? 私にもちょっと分からない、かなぁ」


 なにその下手な()()()()みたいな口調は、とも思ったがあえては触れない。 

 代わりにさりげなく、補足の助け舟を出しておくことにする。


「……一般的な意味は確かに知っているんだけど、色々な用途があるみたいだから。その人の目的が何だったかまでは、ボクたちにはわからないよ。ごめんね」

「ふむ、そうなのか」


 アオサンは至極残念そうに、ペタンと足を下ろした。――一応、嘘は言っていない。

 ちなみにそこの大根役者(エルシー)が、今度は下手なウインクでボクを誤魔化そうとしてくるが、流石にちょっとイラっとして足首を肉球で強めに叩いておいた。もちろん、彼からは見えないような角度で。


「――あたっ!」

「ん? ……まぁ知らないなら良いんだ。ちなみにワタシはコレを、『名誉(めいよ)ニンゲン』として認める(あかし)ではないかと考えている! 事実、タグ(これ)を付けている他の仲間の所にも、定期的に『ニンゲン』が面会に来るからな。恐らくだが、我々が『名誉ニンゲン』として恥じない生活をしているか、確認しに来ているんだろう! いや、そうに違いない!」

 

 『名誉ニンゲン』なる謎ワードを連呼しながら、自慢げに胸を反り返らせるアオサン。

 まぁ確かに、彼がひときわ()()()()オシドリなのは間違いないだろう。


「うんうん、それで?」

「つまり、私は『名誉ニンゲン』としての責任があるわけだ。さらに重ねて、ワタシは『ニンゲン』たちに命を救われた大恩がある。だから無駄な『渡り』でこの場所を離れたりなどせず、『ニンゲン』のことを積極的に理解し、使命を全うすることこそが生き甲斐なのだよ」

「そっかぁ。生き甲斐、ね」


 ここまで聞いて、ボクとエルシーは顔を見合わせて小さく頷いた。

 昨夜、風呂場ではエルシーの考えや思いを色々聞いた。さらに食後の宿泊部屋では、思わぬ新情報を基にした予想も交えてふたりで話し合っていた。


 何故、彼は飛ばないのか。

 何故、彼は人間ばかりに近づくのか。

 何故、それらを()()()()のような態度でいるのか。

 それでいて何故、少しだけ寂しそうな顔をするのか。

 ――この様子だと、おそらくボクらの予想がアタリだ。


「アオサン、ちょっといい?」

「どうした改まって? もちろん良いとも、エルシー」

「アオサンが飛びたくない理由は分かった。人間を好きになるキッカケも分かったよ。でもね――ワタシが間違ってたらゴメンなんだけど……」


 エルシーが一度言葉を切り、大きく深呼吸をする。

 そして、覚悟を決めるように自分の頬を両手でパチンと叩いた。

 それを見てボクは、一歩彼女に近づいて体をぴたりと寄り添わせた。大丈夫だよ、と言葉に出す代わりに。


「……ふぅ、よしっ。アオサンっ!」

「な、なんだね?」

「あなた、きっと本当は……飛ぶことが好きなんじゃない?」

「いや、そんなことは……」

「たぶんアオサンは、嘘は言ってないんだと思う。でもね、きっと自分を誤魔化している。――きっと、私みたいに」

「……」

「アオサンは好奇心旺盛だし、探究心に溢れているし、とっても賢いし、仲間思いだし、気遣いまで上手。でもね……自分を説得するのも上手になりすぎちゃってる気がするの」


 白く息を吐きながら、エルシーはまだ続ける。


「アオサンが、ニンゲン観察を好きなのは本当だと思うし、独りでも楽しんで生きているのもそうだと思う。でも、ごめんね。アオサン……ちょっとだけ、寂しそうだった。悔しそうだった。その表情も、そっちの気持ちも、きっと嘘じゃないと思うの」


 彼女の顔を見上げる。その(まなこ)は、舞い落ちる雪の結晶が反射して見えそうなほど、くっきり見開かれていた。


「アオサンのことだからきっと、飛ぶのに失敗してカッコ悪いのが嫌だった、とかそんな理由じゃないんだよね? アオサンはたぶん――不安な自分が嫌いなんだよ。また誰かを失望させちゃうんじゃないかって……そう、思って不安になっちゃうんでしょ? それが嫌なんだよね。でもねでもね、私は思うの。誰もアオサンに失望なんてしてないはずだよ!」


 彼女が再び、アオサンの体に両手を当てる。今度はもう少しだけ、力強く。


「……いや、そっか。アオサンは自分自身に一番失望してるんだね。それはきっと、私達が違うって言っても簡単には消えないよね。だから今は、ただ聞いてほしい。そう思ってる友達がいるんだよって、わかっていてほしい」


 まっすぐに語り掛けるエルシーの瞳が、強くまぶしく輝く。

 アオサンもまた、彼女をまっすぐに見返している。


「オシドリの仲間たちも、これまでアオサンと交流してきた人たちも、出逢ったばかりの私達さえも……みんなみんなみーんな、思ってる。絶対そう、間違いない。――アオサンは、今も昔もとっても素敵なオシドリなんだよ!」


 エルシーの声が、穏やかな湖へ響いて消える。

 辺りに、静寂が戻ってくる。

 雪が、深々と降りしきる。 


「…………はは。ははは。そうか」


 しばらくの(のち)。ふいに、アオサンが小さく笑い出す。

 息を一つ吐いたあと、訥々(とつとつ)と話し出した。

  

「……そうか。はは。キミは、すごいな。オシドリ相手に、躊躇なく『仲間』、か。まったく……キミたちと出会ってから、ワタシは驚かされっぱなしだ。そうか、ワタシは自分を誤魔化して見えるのか」

「……うん」

「なるほど。自分では、見えないものだな。……だがしかし、何故そんなにも言い切れる? 確かにこれだけ喋っていれば、お互いの性格も多少は見えるだろう」

「ふふ。そうだね、いっぱいおしゃべりしたね」

「とはいえ、キミが言う様にワタシは一切飛んでいない。誤魔化してるとはいえ、飛びたいと思う瞬間も無かった気がするが……何故、ワタシは飛ぶのが好きなんだと言い切れるのだ?」


 彼からしたら、もっともな疑問だろう。出逢って二日ばかりの行きずりの旅人に、何がわかるのかと。

 だからボクたちは顔を見合わせ、エルシーはたすき掛けにしていた風呂敷包みの中へと手を入れる。

 ほどなくして取り出したのは、一冊の小さなアルバム。


「――これを見て」


 エルシーが、アルバムを開いていく。一ページ一ページ、ゆっくりとめくっていく。アオサンも、それを食い入るように見つめていた。

 そこには――。


「これは……ワタシ、なのか?」


 鮮やかな冠羽を風にたなびかせ、雪模様の白い斑点が浮かぶ翼を大きく広げ、空をのびのびと楽しそうに羽ばたく。

 一羽のオシドリを捉えた写真が、何枚も収められていた。

傷の後、残ったかさぶたを見ると痛みを思い出す。

それでも、治るためには必要なふたなんだ。


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挿絵(By みてみん)

超絶素敵なイラストは「ハレのちハレタ」様より

 └ Pixiv:https://www.pixiv.net/users/1079498

声優・船戸ゆり絵様による朗読動画も、Youtubeにて公開中!

▼Part1▼

https://youtu.be/-ymWI-OtTBE?si=gebAx3Jl4YF_cBvm


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