❄❄ プロローグ ❄❄
いつも通り雪が降っていた、あの日。
『――雪解けを探しなさい』
そんな書置きだけを残して、「魔女」は消えてしまった。
机上のソレを見つけたときの彼女の様子は凄まじかった。
まず、寝ぼけ眼を何度も擦り。
小さな家の隈なくを、パタパタ忙しなく歩き回り。
リビングの机に戻って、もう一度書置きを読んで目を見開き。
大きく息を吸って駆け出し、玄関扉を開けて叫び、やがて膝から崩れ落ち……。
しばらくしてから振り向いた彼女の大きな目には、涙が決壊寸前まで溜まっていた。
一部始終を見ていたボクは震えるほどに苦しくなって、一歩二歩と彼女へゆっくり近づくと――
「……っ!」
彼女もまた震えながら、白くか細い腕を伸ばし、ボクをぎゅっと抱きしめた。
お互いに言葉は無い。
ただ、彼女が外から連れてきた冷たい風の匂いが鼻腔を満たし、背中がぽつりぽつりと暖かく濡れていくのを感じた。
彼女のことだ。きっと頭の中を色んな思いと記憶が、すごい勢いで飛び回っていたに違いない。
雪の積もる音が聞こえそうなほどの静寂を、壁掛け時計の刻む響きがカチコチと叩く。
そうしたまま、どれくらいの時間が経っただろうか。
外がすっかり暗くなってから、彼女は「よし」と小さくつぶやき立ち上がった。
前を向いた彼女の目からは涙が消え去り、代わりに眩いほどの決意の光が灯っていた。
彼女がまず向かったのは、台所。
食糧庫のありったけの野菜や肉類を切って切って切り刻み、おばあちゃん愛用の大鍋へと残らず放り込んだ。
あとは囲炉裏の大火力で雑に炒めて、バター・牛乳・豆類と煮込めば、あっという間に特製のシチュー……のような、ごった煮が完成。
またそんな大量に作って――とボクが言う間もなく、彼女はできたばかりのソレを大きな木製の匙でかきこんでいった。
「……はむ。……んっ」
火傷しちゃうよ? という風に顔を覗き込んでみても無視。
まるで何かを振り切るように、あるいは何かに追い立てられるように。ただひたすら、目を見開いたまま一心不乱で口へと運んでいく。
ガララン。
お玉が鉄の鍋底を鳴らし、同時に彼女が「ふぅ」と息を吐いた。
どうやら、無事に儀式は完了したようだ。
付き合いがそこそこ長いボクは知っている。彼女は何か大きな行動を起こす前に、決まって信じられないほど大量の飯を食らう。そしてそこから、ノンストップで走り出すのだ。
だからボクも、彼女の横にピタリとついた。
決して。決して、置いていかれないように。
キミがそうするなら、ボクの覚悟はこうだ――と、示すように。
「……わかったよ」
言い切った短いその言葉は、誰に向けて漏らしたのだろうか。
たぶん、自らを奮い立たせるためだったんだろうけど――もしかしたらキミは、ボクの健気な意思表明に気付いてくれていたのかもしれないね。
「探さなきゃね」
ボクの頭を軽く撫で、しかしこちらを見ず前を向いたまま歩みだした。
行先は、おばあちゃんの居室。彼女が今まで決して足を踏み入れようとしなかった、秘密の部屋。
うん、正解だろう。
そう。ボクは残念ながら、ほんの少しだけ知っていたのだ。
といっても、大鍋たっぷりの『真実』の内、せいぜいティースプーン一杯程度だとは思うけれど。
ガチャリ。
「なっ、なにこの気持ち悪い色の薬草の山はっ――⁈」
扉を開けてすぐに聞こえた、驚きの声。
あー、うん。それは「魔女」のただ悪趣味なだけの奇怪なコレクション。気にしたら負けなやつだよ。
「――すんごく可愛いっ‼」
……残念ながら、負けたのはボクだけだったみたい。
でもほどなくして、ボクたちはちゃんと『手がかり』を見つけ出した。
そして文字通り、全速力で走り出したのだった。
それは本当に手がかりの端っこ、ぐらいの薄い薄い情報だったけど、彼女の顔は希望に満ち満ちていた。
――まぁ、まさか。そのまま本当に村を飛び出すとは、思わなかったけどね。
村を飛び出したエルシーとアウロラ。見たことがない外の世界で、二人の旅が今始まる
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