表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

プリン系一般人愛良

作者: SF42

プリンを食べさせて欲しい。

午前5:00


んー…プリン…



はっ!


あぁ!


いよいよこの日がやってきた!


どれだけ待ち侘びたことか!




発表されてから早半月…


楽しみすぎて夜も眠れなかった!




そう…




高級卵料理専門店“ムースエッグズ”の

限定プリン!


普段はオムライスやキッシュなどを扱っているのだが、なんと! 今日!


500個限定でプリンが販売されるのだ!




これはプリン好きとして食べないわけには行かない。


私の名前は神見かんみ 愛良あら

25歳独身半社畜生活中。


私の会社は週休1日で有給は年一しか取れない。


しかし!

初めてプリンを食べた5歳の時から

20年間ずっとプリンを愛し続けた私は!


今日!有給をとりました!


全てはプリンのため。


本日12時から販売とのこと。


気合を入れて6:00から並ぶんだ!








朝食を食べ、簡単な準備を済ませて

5:20分に家を出た。


駅までは徒歩5分。

電車で20分。

改札を南口から出て、

3本ある通りのうち、一番右の通りを

真っ直ぐ進めば着く!

6時より早く着きそうだ。




楽しみすぎる!











よし!

駅までは無事到着!


電車の遅延は…?


電光掲示板によると、

時間通り!


平日の朝だから人は多かったが…


問題ない!



電車を降りて、

改札を出よう…



って、南口は改修中⁈


嘘でしょ!

北口から出ないといけないじゃん!


反対側の階段を降りて

バスターミナルを避けて通りに合流しなきゃいけない。


およそ5分の遅延…


なんなのよ!この日に限って!




なんとか一番右の通りに着いたけど…


明らかに通行止めじゃん!


なんで?ねぇなんで?



「ブラジルフェスにつき、通行止めとさせていただいております」だ?



知るかぁぁぁぁぁ!






少し遠回りになるけど

真ん中の通りを通って行くか。






めちゃ混んでる…(^o^)



終わった…


ブラジルフェスとやらのせいで

ほかの通りが以上に混雑しているのだろう。



まだ左の通りがある!



幸い真ん中よりも混んでいない。


これは強行突破ね…



ウォーーーー!



人混みをかき分けながら進んでいく。




そのとき…





「キャーーーー!!」



え?



「グハハハ!

俺様は怪人ヌリカーベネオだ!

ここから先は我らがボスが支配することになった!

よってここから先には蟻一匹入らせん!」




は?


このタイミングで怪人だとぉ?


(世界観的には怪人とヒーローが普通にいる。)




この三つの通り以外でムースエッグズに

辿り着くのは時間がかなりかかってしまうので避けたい…




「怪人さん!

通してくれませんか?」



「あ?なんだテメェは。」


「私、その100メートル先くらいにある

お店に行きたいんです。

すぐ戻ってくるので通していただけませんか?」


「無理だ。ボスの命令だから誰一人通すことはできない。」


「ほんとにすぐなんで…

お願いします!」


私は土下座をした。

この際プライドなどどうでもいい。

というかそもそも半社畜である私にはプライドもクソもないんだけども。

どうしてもプリンが食べたいのだ。



「ダメだ。」



は?ふざけんじゃねェェェ!!



「もう。いい加減にしていただけませんか?

あなたたち怪人がやってることは

この世の全てにとって邪魔です。」




「勝手に言ってろ雑魚。

俺様はボスが望んだ究極の世界を実現するべく動いている…

テメェのような人間は真っ先に排除する!

死ねぇ!」



怪人は首を掴んで私を持ち上げた。


普通に生きていればこんな経験をすることはない。

今思えば就職の時点で、いや、そもそも

小学校の時点で私の人生は狂っていたのかも。




5歳でプリンに出会ってから

私は週3回はプリンを食べるようになっていた。

小学校の給食で出たプリンのあまりを

給食室に貰いに行くほどプリンが好きだった。

まぁ、わざわざ有給取ってプリンを買いに行っているあたり今も変わらないが。

それをクラスの一軍男子に見られてしまったことで私のあだ名はおじゃる女になってしまった。

そこまではまだいい。


ただ、ところ構わずおじゃる女と呼ばれることで、誤解を招き、中学校の時にはどういうわけか古典が得意な印象を持たれ、

プリンはお菓子であることとかけて

あだ名が「をかし丸」に変わった。(プリンはスイーツだと思うけど)

そして「をかし丸」と呼ばれているのが

哀れまれ、あだ名が「あはれ様」に変化。

現代語の哀れと古典のあはれをかけたものだと思われる。

(おじゃる丸からとってなんとか丸は分かるけども、なぜ様に派生したのか…)


あだ名のせいで高校進学時、幸の薄い女だという印象がついてしまい、厄病神のような扱いを受けるようになってしまった。

近くにいると不幸が感染る!的なノリだろう。


これが原因で教師には私が頭おかしいやつだと思われてしまい、成績は終わっていた。


だけど何故か嫌な気にはならなかった。

あだ名に様がついていることに少し優越感を覚えるところまで行っていた。


そして大学に進学してもなぜかあはれ様というあだ名は広まり、ひどい時には民俗学の教授から事情聴取のようなことをされることもあった。



「なぜ君は厄病神のように扱われているのかね。」


「それはですね〜。」


「なんと…ただのいじめだったとは…」


ここで初めて世間的にはいじめであることに気がついた。


「でも私は不幸体質であることは間違いないと思うんです。」


「たしかに…だが民俗学には関係ないな。」





だろうね。






そして、就活。

急にあはれ様が心に突き刺さり、

精神的なダメージを受けているタイミングと

被ってしまい、まともな判断ができなかった。

だから今のようなブラック企業に就職してしまった…


恥の多い人生だ。

このまま怪人に首を潰されても

誰もが「つくづく不幸な人間だ。」としか思わないだろう。

私はここで終わっても…





いや、プリンを食べるまでは…


終われないっしょ!!!





「…プ…リ…」


「なんだ?遺言くらいなら聞いてやるぞ?

喋れるならな!」




「プリンを食うまでは死ねねぇんだよ!!!!!!」



「は????」




「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



全力で体をジタバタさせる。




キーーーーーーン!




「ぐっ…がはっ!」


怪人に金的が決まったようだ。



怪人の腕の力が弱まる。


今だ!



パッ!


首の手を引き剥がす。



そのまま怪人の後ろからムースエッグズへ向かおうとしたが…




「行かせねぇぞ!」



怪人が前に立ち塞がる。



「プリン食べたいの!

プリンが食べたいの!

食べたいんだ!プリン!」




その時、空から誰か降ってきた。


「下がっていてくださいお嬢さん!」



スタッ!



「私は剛腕ヒーロー

ヒャクトンパンチマン!!!」



あー。


今最も勢いがあるヒーローランキング

一位の大型ルーキー…


名前がクソダサい。


私のあはれ様の方がマシだと思えるレベル。




「ここは危険です!

早く下がってください!」


ヒャクトンパンチマンが私に言う。



ん?



下がれ?



私は先へ進みたいのだけど。



「嫌です。」


「え?」


「私この先へ行きたいんです。」


「でもここには怪人がいて危険ですよ。

早く安全なところへ…」



「ヒーローまで私を邪魔しようって言うの?

どうしてみんな私がプリンを食べるのを邪魔するの!!!!!!!」



この時の私は情報過多とプリンへの欲望で

幼児退行をしていたようだ。

お恥ずかしい。



「お、お嬢さん?」


「これでプリン食べられなかったらどう責任取ってくれるわけ?

私の有給!1日しかない有給!

プリンを食べるための有給!!」



「おい怪人…

このお嬢さんはずっとこんな調子なのか?」


「そうだ。こいつマジ頭おかしい!」


「怪人…ここはあのお嬢さんを通してあげることにしないか?

それがお互いの利益に繋がると思うぞ。」


「あの女だけだぞ…」


「感謝する(?)」




「おい!プリン女!

通れ!さっさと俺様の視界から消えろ!」



「いいの?プリン食べさせてくれるの?」



「お嬢さん。こちらへ!」



私だけ通してもらえることになった。

普通はありえないことだ。

それほど私は怪人にとってもヒーローにとっても厄介な存在だったというわけだ…







1番右の通りに出て、

ムースエッグズが見えてきた!


しかし既に長蛇の列が出来ていた。


12時15分…まだ間に合うはず。


私は最後尾に並んだ。









流石に500人は並んでいない…はず。


どんな味なんだろう…


きっと今まで食べたプリンの中で1番美味しいものになるだろう…


なんてったって卵料理専門店の高級プリンなんだよ?




並んでいる間にどんどん期待が膨らむ。



いざ買える状態になると

先ほどの怪人がなにか破壊行為をしていないか不安になってきた。


というかムースエッグズは怪人が近くにいても営業を続けているのか…


なかなか…肝っ玉据わった店だ…




よし…前にはあと10人。






あと5人…





「プリン25個ください。」


多いわ…


ちゃんと残っているんだろうね。



「30個お願いします。」


だから、多いっつの。


「25個ください。」




「23個ください!」



「130個ください!」




限定販売の割には個数制限を設けていないのか…


買える?買える?

買えるのかな?


買えま…





“販売終了”






























ーーーーーーーーーーーーーーー




「ハァ…ハァ…

なかなかやるじゃないか…

ヌリカーベネオ…」


「貴様もな…

ヒャクトンパンチマン…」



私はヒャクトンパンチマン!


本名 小宮成彦!


100tのパンチ力を誇るスーパーヒーロー!


ということになっているが、

実際のパンチ力は500kg前後!


パンチがインパクトする瞬間に

「100t!!!」と強く念じることで

相手に私のパンチ力が100tであると

錯覚させることができるのだ!



ただ…

ヌリカーベネオは体が極めて

城の塀に近いため、

私の能力が作用しにくいようだ…


幸い私の実際のパンチ力よりは

大きな力を受けていると錯覚してくれているようだが、それも時間の問題だろう。



こんなに戦いが長引いたのは初めてのことだ。




「終わりにしよう…怪人よ!」


「臨むところだ!」






ウォォォォォォォォォォ!!!!





ドカーーーーーーーーン!!






ーーーーーーーーーーーーー






両者のパンチが同時に繰り出される。


それらはお互いの顔面にヒットした。



「グフッ!」


「ガハッ!」



すでにお互いかなりのダメージを受けているはずだ。



正義と悪のぶつかり合いは

ここまで激しいものなのか。





全てが終わった時、


立っていたのは


怪人だった。






「ヒャクトンパンチマン……

貴様のことは忘れんぞ……

ボスの大義の元に…死ね!」



倒れたヒャクトンパンチマンの

息の根を止めるべく

ヌリカーベネオは動き出した。




「さらばだ…」


ヌリカーベネオの拳が振り下ろされる


その時だった。





ゴズッ!




「グッ…」





突然の衝撃に驚いて、後ろを振り返った

ヌリカーベネオが見たものは


鉄パイプを持った先ほどの面倒な女の姿であった。


ーーーーーーーーーーーーーーー



「お前は…さっきの…!」



「オマエのせいで…買えなかった…

その身で償え!!!!」


女からは先ほどからは想像できない

異様なオーラが漂っている。


ヒャクトンパンチマンよりも…

恐ろしい…!



ボスの脅威になってしまう。


排除せねば!




「女…お前、何者だ!」



「プリンが好きなだけの一般人だよ!

だけどその好きなことさえオマエに邪魔された。ふざけるのも大概にしろ。

怪人だからって人の趣味邪魔すんじゃねーよ。ボスがなんだ。それが人を邪魔する理由にはならない。

オマエが邪魔だ!!!」



早口すぎて何を言っているかは

ほとんど聞き取れなかったが…


一般人?





「うりゃああゃあ!」


鉄パイプを持って殴りかかってきた。


単純だし、さっきと同じ威力なら

全く問題はない。



「食べ物の恨み!

思いしれぇ!!!」





突然鉄パイプに女のオーラが乗り移った。



あれは…


当たるとやばい!!



しかし、判断が遅れてしまった。







聞いたことのない音と共に

視界が明転していく…









ーーーーーーーーーーーーーー










あれ?


私は何を?






たしか…



“販売終了”という張り紙を見て、


私の頭の中はあの怪人への恨みで

いっぱいになった。




そこにあった建築資材の鉄パイプを目にしてからの記憶があまりない。


ただ、鉄パイプで思いっきり怪人を殴ったことは覚えている。


爽快…




と、考えていると、


周りをたくさんの人に囲まれていた。



「すごい!」


「ヒーローだ!」


「ありがとう!」



賞賛を受けている??



話を聞くと、

とどめを刺されそうになったヒャクトンパンチマンを救ったのが私らしい。


怪人を殴ったタイミングがタイミングだったので賞賛されているのだろう。




人からこんなに褒められるのは初めてのことだ。

半社畜生活をしているとこんなことは滅多にないから。


私のどこにあんな力があったのかは今もわからないまま。

プリンは食べられなかったけど、

何か今まで感じたことのない気分を味わうことができた。


プリンだけにね!!





ってならんわ!!

プリン食わせろや!

クソ怪人!また顔見たらただじゃおかない。



再販売を唯一の望みに、

半社畜生活に戻っていった愛良だった。



プリンが食べたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ