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5. 次元窓

5. 次元窓

翌朝、ユキオは実験室にやってくると、異世界を覗いていた窓枠に向き合い、記録ビデオを見ながら異世界を現実化させるための理論を整理してみた。


「異世界がイメージされた残留思念。それを意識的に観測したことと、観測の思念波が作用する方程式。他にもいくつか足りないものがあったけど、シエルのパラメータがヒントになるなぁ。後、安定させるための初期値も必要だよな。エネルギー供給源はどうするんだったっけ・・・」


いくつかの概念が頭の中をクルクルと周りながら段々と一つの形にまとまっていくのを感じながら、ユキオは次元窓の理論構築を試みていた。


「存在を認識するために必要な元々イメージとして存在していた異世界の姿。これは、あのもやのようなものだ。それから、観測による異世界の存在確認。これは、意識によって作られた思念波だな。もやに思念波が作用するための変換装置として働く方程式とそれに付け加えるパラメータ。それには、異世界の初期値として必要な幾つかの定数と、シエルから与えられた足りなかったパラメータの組み合わせがあって、さらに、現実化する窓を固定するためのエネルギー供給の仕組みを追加して、最終的な魔法記述式となって構成されるな」


しばらく、部屋の中を歩き回りながら窓から見える雲を見ていたら、


「出来た!! これだ!!」


ユキオは、方程式と追加パラメータ群、追加された初期値によって完成された魔法記述式をホワイトボードに書き出し、考えをまとめようとした。


「これを、ここに配置して〜、窓枠に固定すればなんとかなるかも。それに窓は人が通れるくらい大きくした方がいいよな」


と、ブツブツと独り言を言いながらホワイトボードに向かっていると・・・


「ユキオー! 友達連れてきたよ」


カガリが異世界のエルフの衣装に似た服装をまとった、いかにもオタク、いや、コスプレイベント帰りのような趣味っぽい衣装の3人組を連れて部屋に入ってきた。


「この3人はラノベ研究会のメンバーで私の友達なんだけど、異世界を覗き見した話をしたら、興味あるって、是非とも仲間に入れて欲しいって。異世界探検の時に案内役としていいじゃんないかなぁーって。」


ラノベ研究会とはこの大学の同好会で、図書館にあるラノベもこの研究会の推薦で揃えられていて、3人とも図書館にあるほぼ全てのラノベに精通しているそうであった。


「左から、キラリに、マイに、ガイトだよ」


いかにもラノベに出てきそうな名前の3人で、キラリとマイは、胸の辺りと腰のあたりに白地に緑の縁取りをあしらったビキニ風の布をまとい、膝下まであるブーツを履き、髪飾りをつけており、異世界の美少女エルフさながらの綺麗ないでたちであった。

ガイトはと言えば、これまた、エルフの騎士のような皮のベストを羽織り、異世界で見た男性エルフの典型的な衣装を身につけていた。


「やぁ〜」


ユキオはおざなりの挨拶をすると、先ほどのホワイトボードに向かい、次元窓に必要な最終的な装備のまとめをはじめた。一通り整理が出来たところで、先ほどの3人とカガリの方を向くと、3人はあるラノベを手に取り何なら談義をしていた。


「だからぁ〜、この美少女エルフがね〜」


カガリがラノベのある部分を指差しながら説明していた。


「そこの窓枠から現れたんだよ。精霊と一緒に」


「にわかには信じ難いね。それに精霊だなんて!」


ガイトが答えると、


「でも、面白いじゃない! ほんとにそんな事がありえるなら」


キラリが、ほとんど水着姿の身体をくねらせるように振りながら、目をいたずらっぽく光らせて答えた。

同じく水着姿のようなマイも同調するように身体をくねらせて、


「どんな、光景か見たいわよねー」


どうやら、聞いただけでは受け入れられない現実派のガイトに対し、キラリとマイは早くも現実化された異世界に興味津々のようだった。

カガリは3人とそんなやりとりを続けながら、ユキオがこちらの会話を見ているのに気がつくと、


「また、出来るわよね、ユキオー! みんなに見せてあげてよ」


と、異世界探索を要求してくるのだった。


「あぁー、そうだな。そのためにも、もっと確実に再現できるように方程式の整理をしていたんだ」


ユキオがいかにもこれから実験再開出来るような事を言うと、キラリとマイが飛び上がって喜ぶのだった。


「ホントに〜!? ほんとに異世界が見られるの〜?」


「少し準備が必要だから、2、3日待ってて」


ユキオは、次元窓方程式と名付けた新たに構築した方程式と、初期値を加えたパラメータ群。それらを組み合わせた魔法記述式を見ながら、次元窓の作成方法を頭に描いていた。再現実験に使った窓枠を大きくして上枠を除いた左右と下の枠に魔法記述式を書いておき、扉の上側には、パラメータ群と現実化したい物語が書かれたラノベ本を据え付けられる場所を作っておく。


次元窓方程式は共通に使えるので窓枠に直接書いておき、パラメータ群とラノベ本は取り替え可能にしておく。そうする事によって、パラメータ群とラノベ本を取り替える事によって様々な異世界物語に行けるという訳だ。まだ、行けるようになったわけでは無いのだが・・・。精霊が言っていたが、向こうからもこちらの世界が見えるのだから、なんとなく行き来き出来るような気はしていた。それにしても架空の物語の世界に行くってどういう事だろう・・・。ユキオにはまだその意味が理解できていなかったのだが、そこには、さらに成し遂げなければならない理論構築が必要だった。


ユキオの予想通り、3日後には新しい窓枠、次元窓が完成していた。一見すると◯◯◯モンに出てくる◯◯◯◯ドアみたいだが、扉はついてないし、窓枠には何やら不思議な数式が書き連ねられており、枠の上部にはお札のようにラノベ本が据え付けられていた。パラメータ群は、前回と同じようにプラスティック板に書き並べてあって、取り替え可能にしてある。このプラスティック板が、ある意味起動スイッチとなる。今度のパラメータ群にはユキオの思念波を取り込むためのパラメータが入っているので、プラスティック板を枠の上側に取り付けて、そこに少しだけ思念を集中して入れ込めば、次元窓からの異世界観察を維持するためのエネルギーが持続的に注がれるようになっている。

出来上がった次元窓を見て、感慨深げに一言、


「次元窓、完成したどー!!」


何やら訳のわからない言葉を叫ぶユキオだった。

しばらくして先に連絡しておいた約束の時間になり、カガリ、キラリ、マイ、ガイトが実験室に現れた。今度はカガリまでが、エルフ風のコスプレをしており、キラリやマイと同じように水着のような衣装を身につけて、


「どう、ユキオ!可愛いでしょう!!キラリに貸してもらったの」


カガリは、ラメが入ったような青い縁取りで、露出度がやや高めだった。昔カガリと付き合ってた頃の事を思い出して、少しニヤけてしまうユキオだった。


皆を次元窓の前に集めて、思念を共有してエンタングルメントさせるためにお互いにつながった5つの腕輪をそれぞれはめた。ユキオが中心にいて、その左右に二人づつ並ぶ体制にした。


「それでは、次元窓起動するよー」


ユキオはそう叫ぶと、パラメータ群が書かれたプラスティック板を枠にはめてから元の位置に戻った。すると、ラノベ本のあたりにモヤがはるのが見えた。それを見ながら、ユキオはプラスティック板を見つめるとそこに次元窓方程式を起動するための思念を集中させた。


まず、プラスティック板がぼんやりと光はじめ、それに合わせて次元窓方程式が掛かれた窓枠も同じように光はじめた。淡い薄紫色の何やら神秘的な光であった。ラノベ本を取り囲んでいたモヤがだんだんと枠全体に広がりはじめると、虹色のような煌めきがしばらくそこに現れ・・・、それが晴れた後には前回と同じ異世界の景色・・・ではなく、これから下着を身につけようとしているルシルの着替え姿が見えてきて、


「キャー、何、急に現れてるのよー!」


ルシルは黄色い声を上げながら、ほっそりとした透き通るように白い身体の前を長い手で隠しながら、慌てて後ろを振り向くのだった。


「次元窓成功だね!」


ユキオは何事もなかったように一人つぶやき、腕輪のついて無い方の手を窓に差し伸べて見た。すると、手はそこを通り抜けるどころか、何か壁のようなものに突き当たり、先に進めなかった。


「見ると行くは全く違う事なのか・・・」


ユキオはまた一人つぶやきながら、次の策を巡らせるのだった。


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