3. 再現実験
3. 再現実験
翌日研究室に行き、昨日カガリと一緒に見た異世界に繋がる窓を、もっと簡単に再現できないかと考えを巡らせてみた。一つ目の要素として、異世界が明確にイメージされた強い残留思念。昨日はそれが本の周りのモヤとして見えた。二つ目はそれを意識的に観測する事。特に方程式から得られた現実化のためのエネルギー転換を異世界のイメージに作用させることで開いた窓のようなもの存在。三つ目は、カガリを近くに引き寄せた事で同じ異世界を見る事ができた事。
一つ目と二つ目はよく理解出来るのだが、三つ目はどういう事だろう・・・。
カガリの事を考えていたら、昔付き合っていた頃の事を思い出した。カガリとは大学に入った頃知り合い、お互いの専攻や趣味も合いなんとなく付き合い始め、しばらく同棲のような生活をしていた。お互い初めてだったので思いは強く、共感する点も多かったので、思念波の繋がりが容易でそれがエンタグルした事によりイメージの共有が出来たのではないかと、仮説を立ててみた。
「昔は、よく、くっついていたな」
とユキオは懐かしむように思いを馳せた。それがいつの間にか友達のようになり、兄妹のようになり、親密なのは変わりないのだけど、以前のような関係は薄れていった。
ぼぉ~っとそんな事を考えていたところに、カガリが研究室に入ってきた。
「ユキオいるー?」
「昨日の続き~」
「続き~?」
その言葉に、無意識にユキオは妄想の続きを追ってしまっていたのだが、ハッと我に帰り頭を切り替えて、
「あっ、異世界窓の続きね!?」
「そうそう、あれって、やっぱり窓なんだ」
カガリはユキオの妄想について勘繰る事なく、いつもの明るさで答えた。
「それなんだけど、仮説を立ててみたので、それに従って再現実験をしようと思ってたとこなんだ」
ユキオは、自分が見出した再現に必要な三つの要素と、それが成り立つための仮説をカガリに説明した。
そして、実験の概要を説明すると、
「なるほど、強い残留思念ね」
「なら、図書館から本借りてくるね」
と、カガリは研究室から出て行って、本を取りに行った。
一人研究室に残ったユキオは再現実験の準備を始めた。
手狭な研究室だったが、学生用の机を少し端に寄せて、2畳ほどのスペースを確保した。その中心から少し奥に窓を正確な位置に発生させるために、マーカーとなる窓状の枠を設置。記録用のビデオカメラを設置するための三脚をその斜め前に設置した。
そこで、ふとユキオは気がついた。
「これまで頭に浮かんできた方程式って、実は魔法記述式と関係あるんじゃねー?」
と思いながら、記憶されている方程式をプラスティックの板にパラメータを変えて何通りか書いて用意しておいた。
そうこうしているうちにカガリが本を持ち帰ってきた。その中には、昨日展開された異世界の元になった本と、それとはタイプの違うラノベが何冊か混じっていた。
「ユキオー、持ってきたよー」
ユキオはカガリから本を受け取り、その中から昨日使った本を選び、窓状の枠の前においた机に乗せた。
目を凝らして集中すると、昨日と同じモヤモヤが見えた。
机の少し前の窓枠が見える位置に二脚の椅子を並べて、カガリに座るように促した。
「それでは、再現実験を開始するよ」
ユキオは、先ほど用意した、方程式を書いたプラスティック板の一つを窓枠に設置して、カガリと一緒に椅子に座った。
カガリに自分と同調するように本のモヤモヤに集中するように促し、ユキオはそのモヤモヤに集中しながら、方程式の書かれたプラスティック板に思念を集中した。
すると、段々とモヤモヤとした霧状のものが薄く窓枠の方に吸い寄せられて行って、プラスティック板の方程式が光を放ち始めた。
プラスティック板自体が眩い光を放つようになった頃には、窓枠自体も綺麗な虹色の光を帯びて、そこには異世界の光景が映っていた。昨日までだと、ユキオの集中が切れるとその光景が薄れて消えたのだったが、今度は集中力が弱まってもそういう事は起こらなかった。ユキオの仮説は当たっていたのだった。プラスティック板に書かれた方程式が異世界を現実化するためのエネルギー供給源になって窓枠によって維持され、最初のトリガーさえ与えれば持続的に異世界への窓が開かれたままだった。
「これは、異世界に繋がる次元窓なんだ」
ユキオは自分の考えをボソッと口にしていた。
異世界に繋がる窓は、新たに設置した窓枠と方程式、いや、あえて、魔法記述式と呼ぶことにするが、プラスティック板に書かれた魔法記述式によって、安定的に実現可能となったのだった。
しばらく、その窓から異世界を眺めていると、その窓に、精霊を連れた美少女エルフが現れ、
「ユキオ~、ヤッホー」
とこちらに声をかけてきた。
ユキオとカガリはお互いに顔を見合わせ、そのエルフをマジマジと見るのだった。
エルフは、異世界ラノベに書かれている通り、手足が長くほっそりとしており、東洋系とも欧州系とも言えない綺麗な顔立ちをして、薄く白い透けるような肌に、白くて素肌が透けて見える程の絹のような衣装を纏っていた。
精霊はといえば、精霊ではないかと思っただけだったのだが、人型をした濃い霧状の姿がその隣にあり、エルフと一緒ににこやかにこちらに微笑んでいた。
「待っていたよ~、ユキオ~」
精霊も同じようにこちらに声をかけてきた。
ユキオはカガリ同様あっ気にとられながら、その光景を眺めているだけだった・・・