1. 世界の端と端
1. 世界の端と端
「異世界ファンタジーコーナーはと・・・」
ユキオは図書館に入ると辺りを見回しながら歩いて、ラノベコーナーを探していた。
「こっちよ、こっちー」
カガリがユキオに向かって声をかける。既にラノベコーナーを見つけたようだった。
文庫本の小説が並んでいるコーナーに、一際目立つタイトルがついた本がずらりと並んでおり、一つの島を作っていた。
「ラノベって、こんなにあるんだー」
ユキオは、初めて目にする奇怪なタイトルが並んだ本をさっと眺め、適当に一冊を手に取ってみた。
「ええと、『転生したら・・・・』???なんだこれは、『転生』って?」
「異世界ファンタジーに出てくる異世界に行くには、たいてい転生とか召喚とかってのを介する事になってるんだよね。一種の次元転送よ」
カガリが得意げに説明をはじめた。異世界ファンタジーにはかなりハマっているようだ。
「異世界ってのは、現実世界とは全く異なる別の空間にある世界っていう設定で、パラレル・ワールドとか、別次元の世界とか細かい設定の決めはないけど、物理法則は同じで、文化が違って、人種も人族だけでなく、獣俗やらエルフやら魔物やら、現実世界とは違う設定になっているのよね」
「それに、魔法が使えるってのが最大の特徴ね。ゲームの世界観が元になってるの」
「なるほどね~。空想上の魔法が使える非現実世界ってことか~」
ユキオは、感想でも述べるようにつぶやいた。
「魔法が特徴的なんだね!発動原理はどうなってるんだ?」
「それにはいくつか設定があるけど、異世界には魔素が存在していて、それが魔法や魔物の発生源になっているって設定が多いよ」
「魔素・・・?それってどこに存在しているんだ?」
「異世界の空間にあるみたい。生物にも存在していて、魔法のエネルギー源にもなっていて、魔素量が多いとより大きく、より強い魔法が使えるんだよ」
ユキオは手に取ったラノベを斜め読みしながらその説明を聞いて、ふと思った事があった。
「空間に存在している見えないエネルギーって、ダーク・エネルギーみたいだなー・・・」
魔素とダーク・エネルギー。これらの関連性に思いを馳せたユキオは、それを自分が博士論文で使った方程式に当てはめてみようとしていた。目にしたラノベには魔法の発動方法として、集めた魔素を使って出したい魔法をイメージするとか。ユキオは頭の中で今しがた得たアイデアを元に考えを巡らす・・・
「イメージって思考だよな・・・。思考って結局脳内の電気信号・・・、波動? 波動を魔素=ダーク・エネルギーに与えると物質化する・・・。物質化の強さは魔素=ダーク・エネルギーの量に比例する・・・」
頭の中の方程式にどんどんパラメータが埋まっていく。空間に存在するエネルギー、物質化、思念、思念波、波動方程式、思念による物質化が観察によって具象化する・・・。どんどん方程式が組み立てられていく。それも、何かに誘導されるように自動的に。しばらくすると、頭の中で何かがはじけて、その先には・・・。
今しがた斜め読みしていたラノベの世界が目の前に開いた窓から見えていた。
起伏の激しい斜面を覆うように果てしなく広がる草原、その脇には深く濃い緑色をした木々が何かを狙っているように林立する巨大な森、地平線には頂上が薄らと白化粧をしている山々、森の反対側には城壁に囲まれた町、時折そこの門を出入りする人影が見えるが、その面々は男子も女子もすらっとした背で手足が長く、少し耳が尖って中性的な顔立ちに金色の長髪、コスプレのような民族衣装を身につけている。皆、背には矢の入った筒を背負って、手には弓を持っている。
「なんだこれは?カガリ、見えるか?」
「あれが、エルフっていう種族なのか?」
「ユキオ何を言ってるの?何も見えないけど」
「ええっ!?見えてないのか?」
ユキオの目にははっきりと見えているその窓からの光景は、カガリの目には何も写ってないようだった。
「これは、どういう事だ?」
ユキオはふっと我に戻って、冷静になると窓は消えていた。忘れないように頭に浮かんだ方程式をそばにあったメモ紙に書き写す。自分が考えたとは思えないような見事な方程式で、この世の理を整然と表しているように見えた。
「この方程式はなんなのだろう・・・」
自分でかいた方程式なのに訳がわからず、じっと見つめるしかなかった。
図書館の窓から見える青空には、散歩をはじめた時に見えた迷ったような小さい漂流雲が見えていて、まるでこちらを見ているかのようだった。