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第二帖 剣拳豪合〜京の娘の侠気か凶器〜 参

 さって、どこから整理したものか。

 短くまとめるなら、一昨日の神事の開始から、のぞみ珠恵たまえがどうやって京都の巫女に倒されたか、を皮切りにして、結局稲田姫なだひめ神社で七星剣を操れる巫女は私しかいない、という結論に辿り付けば、私が稲田姫を代表する巫女さんに選ばれたってことに、一応の説得力は、ある。

 それが、何故、七星剣の主である御瑞姫みずきに、月見里やまなし野乃華ののかが就任したか、の答えだから。

 けれど、どうして七星剣の主である御瑞姫を選ばなくちゃいけないか、を訊ねたら……

「イザナギ、イザナミよりも前に、神様がいたって知ってる?」

 宮司さんの切り出しに、無言の圧力を。

「いや、野乃華、怖いから、それ」

 同席した、望、かなえ、珠恵が、呆れ顔で非難する。休日の昼下がり、天気も良いので梅こぶ茶を手に境内で、巫女4人とおっさん1人。お茶受けに栗きんとん。

「じゃ、叶が説明してよ。どうせ知ってるんでしょ?」

「ま、私じゃなくても、珠恵は知ってると思うけどね」

「ねぇ今、私のこと馬鹿にした?」

望の抗議に目もくれず、叶はわざわざ眼鏡をくいっと持ち上げて、

「天地初めて發けし時、高天の原に成れる神の名は、天之御中主神。次に高御産巣日神。次に神産巣日神。この三柱の神は、みな独神と成りまして、身を隠したまひき。次に……」

「もういい。喋るな」

「暗記したのにっ!」

 誰が古事記をそらんじろ言うか。

「つまり、御瑞姫って、何?」と最後のよすがに珠恵を頼り、

「……七星剣が、十種とくさ神宝かんだからって呼ばれる、特別な神具ってことは、知ってる?」

「なんとなく」

「……十種の神宝っていうのは、十種揃えれば死者すら蘇らせることが出来るらしいの。

 それらはもともと高天原たかまがはらから、日本を平定するために与えられた、国津神を倒すための武具。

 それだけ強力な武具だから、操る巫女にも適正が求められてね、神宝のカミに認められた乙女だけが、十種の神宝を操ることができる。

 その、神宝に認められた10人の乙女を、御瑞姫っていうの。

 国津神と戦う、すべての戦乙女いくさおとめの頂点に立つべき存在として……合ってるよね、叶」

「ま、平たく言えばね」

「最初から平たくしてよ」

「でも、御瑞姫の本当の役割は、別にある」自信満々に眼鏡をキラリと光らせて、叶が私の真正面に。

「いや、喋らなくていいから」私は顔を珠恵に向けて、「で、本当の役割って何?」

「イジメだっ!」と喚く叶の言葉はノイズ認定してキャンセル。苦笑う珠恵には悪いけど、神宮オタクの叶に喋らせたら、話に枝が栄えて葉が茂り、接木を繰り返して森に成長、元の木がなんなのかサッパリ分からなくなるに違いないから。

「……私も、聞いただけなんだけどね。

 20年に1度、神宮の式年遷宮に合わせて、全国の御瑞姫を集めて、葦原舞闘神事を開催するの。

 で、来年がその20年の節目の年だから、稲田姫神社からも七星剣の御瑞姫が、その神事に参加しなくちゃならなくて」

 なるほど、判りやすい。

「そんな単純なもんじゃないって!」

「いや、単純明快でいいから。

 つまり、私が御瑞姫として、その葦原舞闘神事に参加すればいいってことですね? 要するに」と宮司さんにズームイン。

「いや、まぁ、そういう事だけど……。ただ、神事の開始が来年の正月でな」

 ぶっちゃけ、あと3ヶ月しかないんですね。

「その、誠に言いにくいんだが、神事自体も数ヶ月かかる大掛かりなものだから、うん、まぁ……」

「じゃ、学校辞めますね」

「うん、ま、そうな……え?」

「いや、これから最低でも半年は、学校休まなきゃいけないんでしょ? そんなだったら、いっそのこと退学しちゃった方が、どっちにも支障がなくて良いと思うんですけど」

 って、みんな引かないでよ。

「いや、思い切りのいい子だとは知っていたが」

「高校中退でいいの?」念を押してくる望に、

「というか、前から聞こうと思ってたんだけど……望たち、高校行ってないでしょ?」

 思いがけないカウンターに、望、叶、珠恵の3人が、『痛いとこ突かれた』って顔色を変える……鎌かけたんだけどな、本当だったとは。

「御瑞姫って、お給料貰えるんですか?」

 とりあえず、ショック状態の3人はそっとしておいて、真顔で宮司さんに訊ねれば、

「お給料というか、御礼という形で、相応の額が神宮から頂けることになってる。ただ、その、今までみたいなお遊びレベルの御祓いじゃなくて、本当に危険なカミの退治もしなくちゃならないんだが……」

「でも、他にいないんでしょ?」

「ま、そうだけど」

「じゃ、仕方ないでしょ。なりましょ、御瑞姫に」

 それがしなくちゃならないことだったら、する。

 私の腹は最初から決まっている。

 運命に逆らうなんて、愚の骨頂だ。1つだけ注文するなら、1年前に話してくれていたら、高校に半年だけ通うなんて無駄な時間とお金、節約でき……ま、無駄とは言い切れないか。少なくとも、学校の図書館で借りまくった本の類は、今の思考形成に大いに役立ってるわけだし。

 やるならとことん。逆らうなら全力。中途半端が一番いけないんだとしたら、高天原の神様の娘の役割が、日本で十本の指に数えられる巫女になるなんて、陳腐にもほどがある。今まで見逃されてきたことの方がよっぽど不自然なくらいで、

「あ、でも……」

 覚悟を決めた直後でなんだけど、七星剣の御瑞姫として今、致命的な事態に陥っていることに気付く。

 神樹、眠ってるまんまじゃん。

 おまけにヤツカのこと、何にもケリついてないし。

 うわ、頭イタッ。

 しかも京都の巫女たち、一昨日のこと根に持ってるっていうんでしょ?

 課題山積み。

「どしたの、野乃華?」

 思考に陥ると周囲なんて目もくれず、気がつくと望たちの不思議そうな視線の集中砲火を受けていて……その視線の奥、境内と階段を区切る鳥居の下に、恥ずかしい巫女装束の少女が、忽然と現れた。

「なんで?」

 ノースリーブで胸元は深々とVカットな白衣を、内側から押し上げるほどの豊乳を見せ付けるように背筋を反らし、腰周りを覆う朱色の布は、もはや袴という意匠すらかなぐり捨てたミニスカート。スラリと伸びる肉感的で鍛え上げられた両脚は白ソックスに腿まで包まれ、一見してその衣装が、肉体の活動を最優先に考慮した結果だと大声で主張している。

 あらゆる事象を真ん前から全部受け入れるかのような大きくて丸い印象的な瞳の下には、一年中楽しいことしか考えていなくて筋肉がその状態で固着してしまった唇が弧を描く。絵画を生業とする人間を狂気に陥れるような緩やかなカーブを腰まで描く薄茶色のストレートロングヘアは、多分長い方が格好良いってだけの理由のたまもの。怪しい電波でも受信するのか、頭頂部からピョコンと生えた2本の跳ねっ毛が、抑えきれない活動性をビシバシと訴えている。

「姫子が……」と呟く前に、こっちの視線に気付いたあやつの、跳ねた肢体は鳥居の上へ。んなアホなと呆れる間もなく、御山に轟く大音声。

「呼ばれてなくてもジャジャジャジャン。

 京は東か、飛鳥は西か。

 天未知、地無視、人に無恥。

 御用が無くても押し掛け参上。

 神代かみしろ姫子ひめこは、冷めても美味いっ!」

 馬鹿、爆誕。

「姫子っ?」

 毎度おなじみの意味不明の前口上を高らかに、全員の視線を集めて満足したか、跳び上がったばかりの鳥居から着地して、満面の笑みで歩を進めて近づいてくるは、神代姫子、17歳。

 どこの誰だか知らないけれど、互いの嗜好は知り尽くしていて、宮司さんが『お見合い』と称して紹介してくれた全国各地の巫女さんズの1人であり、彼女の持っていた少年漫画と私の持っていた少女漫画の間で奇跡のトレードが成立した結果、もっぱら趣味方面の交流だけが加速していった、認めたくないけど同好の士ってやつだ。

「これはこれは、みなさん勢ぞろいで。ささやかながら、のののん御瑞姫就任のお祝いってシチュエーション?」

 満面の笑みを浮かべて近づいてきた姫子に、突き刺さる10の視線。

 どうして、それを、知っている!

「えっと、何か間違えた? ひょっとして、大番狂わせで、望あたりが勝っちゃったとか?」

 ただの当てズッポかいっ!

「いや、姫子の予想通り。役者不足ながら、私が七星剣の正式な御瑞姫に決定したよ、って、わざわざそれを確認に?」

「だって、一昨日に神事やるって望から聞いてたのに、誰も結果を教えてくれないんだもん。そりゃ、神社の秘事かもしれないけどさ、決定したら私と一緒に闘うかもしれないんだから、ちょっと冷たいんじゃないかなぁ、と」

「戦う? あんたと? なんで?」

「なんでって、私も御瑞姫だし」

 は?

 耳を疑う。

 神社の判定基準を疑う。

 こっそり立ち去ろうとしている宮司さんが一番怪しい!

「まだまだ、吐いてもらう必要があるようで?」

「いやぁ、あとは若い人たちに任せて……おぉっと」

 オーバージェスチャーを裏付けて、袖の中から本当に携帯電話の着信音が聞こえてきたから腹立たしい。宮司さんは脱兎のごとく、嬉しさを隠しきれないステップで、社務所のほうへ全力で逃げていく。後が怖いからね、覚えてるからね!

 ま、とりあえず、

「馬鹿を承知で聞くけど……これって、もしかして、実話?」といって取り出したのは携帯電話。

 実は御瑞姫とかいう巫女の偉い人であったにも関わらず霊話が出来ない姫子から、問答無用に送りつけられる怒涛のメール攻勢の一つを画面に呼び出し見せつけて、やれ大型百足を倒したとか、やれ鬼の大軍を追い払ったとか、やれ古龍のソロ討伐に成功したとかの、血生臭い報告ばかりを前に、げにも明るく彼女は笑う。

「あぁ、5割がたはゲームかなぁ」

 残り5割は?

「3割、夢オチ?」

 2割実話かいっ!

「それって、御瑞姫の仕事?」

「趣味と実益を兼ねてるでしょ?」

 あぁ確かに、今までみたいなお遊びのお祓いじゃないなぁ、と戦慄する反面、現代って平成でしょ? と突っ込まずにはいられない。

「まぁ、その辺りは、パンピーにばれないようにやってるしねぇ」

「んじゃ何? 望たちも、そういうヤバ目な仕事に参加してたの?」

「私らは、まぁ、足軽レベルだから、単独で大型カミと対峙することは滅多にないんだけど」とは、望の談。

「でも、一昨日の神事に勝ってたら……」

「うん。だから、心情的には野乃華に勝ちたかったんだよねぇ。何も知らない野乃華に、いきなり大型狩れっていうのも、正直どうかと思ったし。全く、あそこで乱入がなかったらなぁ」

「乱乳? 揺れて暴れるほど胸ないのに?」

 姫子の空耳に、場、硬直。

 しまった、安倍家のことは内密にしとかないと。

 というか、3対2の割合で洗濯板と双丘という、ちったぁこっちにも余分な脂肪よこしなさいよ、な不平等に、私と望と叶の眉間に血管が浮き上がる。

「ま、冗談はおいといて」と、いつもの調子でサラリと笑い飛ばして、こっちの神経だけを逆撫でて姫子は、

「結局、のののんは勝てたの? 安倍の狂姫に」 

 っ! なぜに、あんたが、それを知るっ!

 8つの瞳がパラボナアンテナ並みに見開かれ、そこから放たれる疑惑という名のメーザー光線の集中放火にも黒焦げせず、

「いやぁ、何か聞こえるかなぁって、受信アンテナだけ立ててたら、やたらテンション高い、のののんの叫び声が聞こえたからさ」

 そういやこいつ、自分で送信できないくせに、霊波の受信帯域だけは広いっていう、わけわかんない盗聴スキルを有していた気がする。

「つまり、その顛末を知りたくて、わざわざ出向いてきたと?」

「ビンゴ! だって、現役御瑞姫同士の舞闘なんて、本番前にありえないじゃん。あ、安心していいよ。もちろん神宮には報告してないから」

「当たり前よっ! 神宮にばれたりしたら、下手したら神宝剥奪されるわっ!」

 姫子の挑発に、珍しく叶が釣られた。ん? 本番? ジングー? ついていけない単語が増えるたびに、危険度がいや増しに増していく気がするのは気のせいなんだと、思い込みたいけど多分ムダ。おとなしく現実を受け入れたほうが手っ取り早いことは経験済みで、

「一応、人形倒して、二丁拳銃の短髪の方の子も、なんとか黙らせたけど……」

「本当にっ! それって、きよいあかりも、双子そろって撃退したってこと?」

「代償として、七星剣が眠ったまんまです」

 ばれる前にカミングアウトだ。

 さすがに、浮つきかけた空気が、一瞬でフリーズ。

 漫画的表現をすれば、顎が外れてポカーンといった表情が4つ、大して動揺をしていない私への不信感を隠すことも忘れて、無防備にさらけ出される。

「ど、ど、どどどどどどどどど……」

 望がドモる気持も、分かる。七星剣は稲田姫神社のご神体。加えて、日本を守る十種の要の神宝とくれば、その故障に困惑するも仕方がない。だから、

「ま、たぶん大丈夫だと思うけど」

 そう前置きして、かくかくしかじか、あの日の顛末を解説す。ヤツカとか伊佐利いさりのことは上手に省いて。最後に、運命論的に言えば、起っちゃうことに解決できない道理はない。巫女としての道を続けるとして、この先も神樹が本当に必要なら、奴はちゃんと目を覚ます、はず。

 ダメならダメで、一昨日の神事をやり遂げることが神樹みきの使命だったんだと思えば良い。というか、さっきは宝倉ほこらまで運んだだけで、まだちゃんと話し合ったりしてないわけで、ただ寝てるだけって線も否定できないから、

「ちょっと、様子見てこよっか」

 忙しい今日という日に、ようやく、愛剣とジックリ向き合う時間が出来た。

 心配げな望、叶、珠恵と、デフォルトでなんでも楽しんじゃう姫子を引き連れて、向かうは御神木“伊佐利”の足元、七星剣の宝倉。

「まだ寝てる……」

 幸せそうに。

 その刀身に触れてみる。

 激戦を駆け抜け、何度も銃弾を受けとめたにも関わらず、例の布や呪符には綻び一つ見られない。

 ヤツカを封じ込めるための鞘。解封されそうになって、ヤツカを飛び出させてしまったけど、今またビッチリと刀身を包み隠して、私がヤツカを使いこなせる日を待っている――10年も前から。

 神樹はそれを知っていたんだろうか? 知っていて、ずっと一緒に過ごしてくれていたんだろうか? 私がヤツカを制御できるくらい成長したら、七星剣からいらなくなるって……。

 宮司さんは多分、知らないんだろうな。

 七星剣の本来のカミ、ヤツカは玄人でも扱えない気難し屋で、私がヤツカを操るためには相当の鍛錬が必要で、遣い手が成長するまでの期間ずっと、ヤツカを封じ続けなきゃいけない神樹。

 でも伊佐利は、その理由までは、説明してくれていない。

 どうして、ヤツカの本当の力を引き出さなくちゃいけないのか?

 どうして、今のままじゃ駄目なのか?

 まぁ、グダグダ考えてても仕方がない。

「どう?」と、七星剣を前に黙止熟考していたら、遠慮がちに声をかけてくれたのは珠恵。それで現実に引き戻されて、

「そうねぇ……ちょっと、こっち来て」

 近づいてきた珠恵の、その華奢な体躯とは裏腹に突き出て豊満な胸に顔が埋もれるように身体を倒して、

「直接、対話してくる」

 私は“私”を抜け出した。

 魂の制御を失った肉体が、何の心構えもしていなかった珠恵を案の定押し倒す。空中に飛び出したこっちに“呆れた”ビームを向けているのは叶だけ。

 神樹はなんだかんだでカミ様で、霊に属する存在なんだから、向こうが眠ったまんまなら、こっちも霊体で赴くしかないよねぇ、と思いついたが5秒前。

 いきなり視界はカミ様一色で、聞こえる声も一段と多くて濃くなったけど、一切合切振りきって、意識は一気に木々より高く。鳥居以上の高さから見下ろす境内は確かに奇麗で興奮して、目指す標的、全長2メートルの神剣をロックオン!

「どりるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 神事だ?

 御瑞姫だ?

 ヤツカだ、伊佐利だ、面倒だっ!

 鬱憤鬱屈軋轢不満。

 全部まとめて圧縮集中、螺旋を描いて一筋に、疾風の勢いでドロップキックをお見舞いだ!

「カツ丼だけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?」

 霊体同士のガチンコは、神樹を容赦なく吹っ飛ばし、なぞの悲鳴をまき散らして奴は、境内の端まで盛大に……戻ってきたぁぁぁぁぁっ!

 七星剣から飛び出た勢いそのままに、剣に縛られた神樹の魂は巻き戻されて、勢いそのままお返しで……ブボェラヘッ!?

 神樹の小さな塊が砲丸となってクリーンヒット! 実体なら間違いなく盛大に吐き出す衝撃を、霊体は素直に運動に変換して、流れ流れてぶっとぶ走馬灯は、おぉ、眼下一面“田”が見える。

 って、どんだけ飛ばされてんだよ!

 これが因果応報? それとも単なる反作用?

 神社の神域突き抜けて、えっちらおっちら長旅終えて、

『い、いきなりなんてことするんすかっ!』

 神樹に怒られ、

『あんたしか、八つ当たれる相手がいないからよっ!』

 当然逆ギレ。

『な、何気に寂しい発言を、堂々と胸張って言わないでくださいよっ! ボクがもしいなくなったら、どうするつもりっすか!』

『あんたがいなくなるかもしれないから、八つ当たってるんでしょうが!』

 っていうか、このヤロ、サラリと“消える”発言するんじゃないよ。

 じゃ、なんだ? あんたが用済みになるかもって、動揺してるのは私だけなんか?

『のの姉こそ、何を今更怒ってるんすか?  そんなのボクらが作ら……の、の、のの』

『あ、て? え?』

 気がつくと、私の両手が神樹の首を絞めていて、

『伊佐利! あんたっ!』

 自分の中にある違和感。さっき伊佐利を神寄した時の感触が今、靴の中の小石のような存在感を発揮して、私の腕部に干渉している。

 それを強引に剥ぎとって、

『隠し事ばっかしてると、本当に御神木叩き折るか、御瑞姫やめちゃうかんね!』

『我が輩は、折られたところで蘇り、野乃華は抗えど、宿命から逃れることあたわじ』

『舌噛むわよ!』

『代替を用意するだけのこと』

 まさしく神の如き物言いよね。腹の奥から煮え立つわ。

 のか

   ……のか

       …………ののか

「野乃華っ!」

 いきなり、視点は肉体にシフト。

 完全に忘れてた姫子たちに囲まれて、目の前にいるのは、血相を変えて戻ってきた宮司さんで、

「その、大変なことになった」

 魂は大急ぎで肉体とコネクトするけど、まだまだ暖気運転中でハッキリしない意識に向けて、放たれた一大事。

「神宮が今回の御瑞姫認定に、異議を唱えている。高野たかや空海あけみ御瑞姫の、査察が入ることになった」

「タカヤ、アケミ?」

 誰それ?

「姉御が来るっ!」

 姫子が騒ぐ。叶は頬を高潮させて、望と珠恵も知らない名前じゃないらしい。

「査察って、何をするんですか?」

 とりあえず、気がかりなのは内容。起こされたって事は、こっちに関係ある事で、

「京都の巫女の介入が……バレてる」

「あぁ、つまり……」

「現場検証」

 それは、本当に、ヤバイんじゃないんでしょうか?




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