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第一帖 神器一転〜御山の姫の奇勝か絶望〜 参

 かくして、なんぴとも踏み込まぬ百々ももやまに、私たち4人は夕方から潜むことになる。

 時間無制限。戦闘続行できる最後の一人となれば勝ち。七星剣の使用許可は降り、ただし、私以外の誰かが勝利した場合は、神剣の巫女の権利と義務を余さず勝利者に譲与すべし。

 神事開始までの待機時間で、私はだいたいの事情を並べて、分析をし終えていた。ま、主に神樹の知恵を拝借したわけだけど。

 曰く、20年に一度開催される、全国規模の舞闘神事の出場選手の選考会であると。

 曰く、月見里つきみさと野乃華ののかという部外者を百々山代表とするには、相応の理由もしくは客観的な実績が必要であると。

 曰く、中学生の双子の巫女は、単なる好奇心に加え、神宮からの指示もあって来訪したらしいと。

 そして何よりもふざけているのは、望、叶、珠恵の3人を含む、荒事専門の舞闘巫女組織があって、所属巫女は戦乙女いくさおとめと呼ばれていること。

 加えて、稲田姫なだひめ神社が戦乙女にとっては十指に数えられる聖地で、七星剣が、戦乙女を代表する10人の巫女でないと扱えない、百々山最強巫女の象徴だったってことだ。

『機嫌、悪いっすよね』

「まぁね」

 どんな言い訳を並べられても、御立腹は当分収まれない。

『でも、拒まないんすね』

「……まぁね」

 そう、私は、晴天の霹靂に対してパニックに陥っているわけじゃない。

 ただ、憤りが収まらない。すべてを知っていて黙っていた神樹みきに、望たちに、宮司たちに。こんな切羽詰まったギリギリまで、あんな悲痛な表情で私から目を逸らすくらいなら。

 言えよ。

 話せよ。

 隠すなよ。

 それが美点なのか汚点なのか、それとも単なる諦めなのか、私は『否定しない』という点に関して、どんな突拍子のない話でも、一理あれば頷いてしまえる。子供の時から自分の話を信じてもらえなかった反動か、それともカミ様が見えるっていう現実が日常を逸脱しすぎているからか。

 そう、私は戦乙女の存在とかそういう背景は、それが実在するというのなら、すぐに信じて呑み込める。それをきちんとした場で、順を追って説明されていれば、なんの抵抗もなく受け入れられる女なんだ。

 仲間外れにされた。

 許せないのは、その一点。

 10年に及ぶ長い長い嘘を、見抜けなかった私が迂闊と言ったら終わりだし、自分の存在から七星剣まで含めて全部、今日の説明で綺麗にピッタリ合点がいってしまったのだから、まったくヒントが無かったわけでもないと思う。今から思い返せばってポイントはいくつも浮かんでくるし。

 でも、さ。

「信じてたのに」

『すんません』

「まだ、何か隠してるわけ?」

『えぇと、まぁ、いろいろと……』

「はぁっ!?」

 さすがに声が裏返る。認めるポイントはそこなわけ? 

 いや、追及はやめよう。今はとにかく望たちをなんとかしないと。バトルロワイヤルに一時停止はかけられないけど、要するに勝ち残っちゃえば問題ない。その上で、今夜目一杯、相手が悲鳴をあげるまで根堀り葉堀り聞き出せば言いだけだから。

 だから、この怒りは糧。薪。燃料。この一時の激情にでも身を任せなければ、理に叶っていようがいまいが、友達を七星剣でぶん叩くなんて出来そうもないから。

「神樹」

『はひ?』

 怒られる覚悟だったろう神剣に向ける声音は穏やかで、しかしそこに、確かな殺意を込めて込めて、

「全力でいくよ」

『は、はひっ!』

 この10年の集大成を、今、両手に握りこむ。



 人間、魂と肉体に綺麗に分離ができるって言ったら、笑うだろうか? かつ、普通の生活の中で、自分の魂と肉体をキッチリ区別して認識できる、なんて言ったら?

 まぁ、結論から言っちゃうと可能なんだけどね。

 肉体を自動車に例えれば、魂はドライバー。普段は融合と言うほどピッタリとくっついているから意識しないけれど、時に肉体が負傷していたり疲労過多の場合、心はやる気なんだけど身体が言うこと聞かない、なんて事あるでしょ?

 そんな時は魂の支配度を上げてやって、普段使っていない潜在筋肉を活性化、回復を度外視して活動限界まで到達することも可能なんだけど、まぁ、一般人にはオススメしない。

 そういう訓練は物心ついた年から始めないと、いつでも好きな時に魂を介して、肉体を戦闘態勢に移行できるレベルには到達しないから。

 そして私も、望、叶、珠恵も、たぶん戦乙女って呼ばれる巫女さんは全員、それを可能にしている。むしろ、そうやって肉体の性能を引き上げて完全制御下に置かない限り、悪霊祓いなんて危険な仕事、返り討ちに遭うのがオチだ。

 たま

 霊に属し、肉体と結合して操り、主に「意識」として認識される、人を霊処ひとたらしめるモノ。同時にそれはカミと同じ性質を持ち、肉体から解放されればカミにすら成り得る存在。

 けれど普通に生活するばあいには、そんなに意識する必要のない……ううん、違う。西洋科学文明の唯物合理主義の勢いに押し出されてしまっただけで、その実、根源にして犯してはならない普遍の真実こそがたまであり、だからこそ、昔に比べて最近の日本人がおかしくなったっていう根本の原因とも言え……その魂を、私は今、鋭く研ぎすましていた。

 指先の、表皮直下の毛細血管までを意識して、私は魂を全身くまなく行き渡らせる。

 子供の頃から感じていた違和感。

 どうして私の身体は、思うより一拍遅れて動くんだろうっていう悔しさ。

 それこそが、幼い時は魂と肉体を個別に意識している何よりの証拠なのに、成長という名の取捨選択は、違和感を取り除くために、一拍遅れることを前提として忘れ去ってしまうのか。

 そして、その違和感を意識して初めて開かれる、肉体支配の扉。生命の神秘。霊界の門。

 私は今、意識する。

 七星剣を振るうことを。

 暮色に染まる山中を、全速力で駆け抜ける持続力を。

 私を狙って集まってくるであろう、望と叶と珠恵の気配を。

 魂の、力。

 魂が本来、肉体を制御する力。

 カミの、チカラ。

 神力じん

 今こそ、それが全身に満ち溢れる。

『のの姉』

「なに?」

『その、ボクがこんなこと言うのもなんですけど……』

「……安心して。私は、誰も、恨んでないから」

『え?』

「これが、私の運命なら……」

 そう。私の心は凪いでいる。

 この『今』が来ることを、私はどこかで、予感していたんだろう。あるいは私の魂が。

 運命。

 その言葉を知ってから、私は何度も何度も、その意味を問い続けてきた。

 私がカミ様を見られるのも。

 そのせいで友達と打ち解けられないのも。

 七星剣と出会った事も。

 望たちと夜の悪霊祓いに精を出したことも。

 どうして、そんな普通とかけ離れた生活なのか。

 どうして、私が、そうなのか。

 ある書では、運命とはすべて決められた道筋だと、逃れられないからこそ運命だと説いていた。

 ある書では、人生には選択肢など無い。選択肢に見せかけた何かを選ばされ続ける一本道だと。

 ある書では、人は死んで再び赤子へ戻り、そうして延々と同じ道程を繰り返す、既知のループなのだと。

 ある書では、運命とは、己の命をどう『運ぶ』かの違いであり、己の望む結末へ向かうための試練なのだと。

 そのどれもに一理あり、しかしそのどれもが、私の疑問を溶かすに値しない、言葉遊びに過ぎなかった。

 だって、人は決まってしまう。

 生まれた時代。

 生まれた国。

 生まれた家。

 両親、兄弟。

 経済情勢。

 遺伝子で決められた身体機能。

 環境に左右される知能指数。

 天から授けられた才。

 先天的な欠落、障害。

 それは、誰にも覆せない『運命』。

 私が、高天原の神様の娘であることも。

 稲田姫神社の近くに預けられたことも。

 七星剣も。宮司さんも。望、叶、珠恵も。

 すべて私の意の及ばない偶然。

 選んだ結果でなく、与えられた条件。

 だからやっぱり、運命は、ある。

 それを認めた上で、私には、勝ち得た答えが胸にある。

 抗わないと。

 嘆かないと。

 悔やまない。

 恨まない。

 立ち止まらない。

 逸らさない。

 それが生れ落ちた瞬間から遺伝子に刻まれた予言だろうと、魂が導いた人生のチェックポイントだろうと、必ず通らねばならない避けられぬ試練であるのならば。

 乗り越える。

 全速で。

 たとえ最善でなくても。

 逃げず、怯まず、立ち向かう。

 結果的に、それが一番近道だと思うから、私は魂を、神力を砥ぐ。

 今日という日を。

 宮司さんの言葉を。

 望、叶、珠恵とのこの闘いが、私の『運命』であるならば。

「ただ、こなすと。そう、決めたから」

 迷わず、臆さず、目を開け。

 その未知を既知へと変えて、月見里野乃華の魂が、真に神の娘のモノならば、この程度の試練、乗り越えられぬはずがない。

 やるべきことがあるならば、ましてそれが、やらずに済まぬ事ならば……乗り越えられない壁が立ち塞がらないのが、運命というもの。数多の壁を越えてきたからこそ、私は言い切る、信じ込む。

 越えられない試練は、あり得ない。

 死すならそれが、運命だ。

 あらゆる試練は、次の試練の糧であり、延々と越え続けるがこそ、人の道。

 望、叶、珠恵には悪いけど、私と神樹の絆を今、ここで断つ気はサラサラない。

 だからこそ、全力で舞うこの神事。

「神樹、一番近いのは?」

 残光はまだ、山肌を赤く染めている。

 かろうじて足元から周囲が見える明るさで、神事は、百々山全域を舞台に行われる。

 文字通り、多数の峰を持つ百々山は、その広さも半端じゃない。けれどその実、地図で見るその姿は、四方をグルリと田畑に囲まれているという、見事なまでの独立峰。それもそのはずで、戦後の地質調査の結果、百々山は全体で一個の岩石であることが立証されている。

 故に、その地肌は硬く、その傾斜は厳格。本来なら夜に立ち入るべきでなく、迂闊に踏み込めば、現地人げんちびとでも遭難する危険がある。

 だからこそ、誰にも邪魔されない舞台に選ばれたんだろう。稲田姫神社、最強の巫女を決める舞。その発案自体は馬鹿馬鹿しくも、望たちがそれを受け入れた以上、私も参加せざるを得ない。

『叶姉が一番近いっっす』

「なるほど」

 空に光が失われれば、この山に真に闇が訪れる。そうなった場合、己と相手を見極めるのは、裸眼じゃない。いかに霊を識り、相手の魂を知覚するか。

 そういった意味では、3人の中でもっとも霊眼に長けているのは、叶だ。恐らく私の行動は既に、彼女に把握されているだろう。

「距離を正確に報告して」

 だったら、やりようがある。

 私は両脚を意識して、峯へと通じる坂を、跳ぶが如き勢いで登り始めていた。




 叶は符術に長けている。文字により符に力を与え、霊をもってそれを操る術だ。彼女の符には硬化と切断の加護が宿り、それを知覚できる範囲で自由に操ることが出来る。つまり、

『直上!』

「やらしい!」

 一度彼女に捕捉されれば、死角から襲い来るは鋭い刃。かろうじて七星剣で防ぐも、紙とは思えない衝撃が両肩にのしかかる。

『500!』

「ったく、索敵範囲が広いって!」

 愚痴も言ってられない。立ち止まれば一方的に嬲られる。叶は、そういう躊躇はしない女だ。10年の悪霊退散で、お互いの行動原理はほぼ把握しあっている。あとはいかに、本気を出すか、だ。相手を軽く見た方が、負ける。

「神樹、行ける?」

 だから、こっちも奥の手だ。

『気をつけてくださいっす』

 賭けに出る。リスクを負って。

 私の魂を読んで迫る符を、紙一重で避け続け。ただ、ひたすら距離を取る。いくら彼女の霊感が優れているとは言え、その範囲は無限じゃないはず。下手に逃げて珠恵か望に挟み撃ちにされたら最悪だけど、神樹の報告を信じる限り、まだ他の2人と対面する危険はない。

 だから、全力で跳んだ。突如逃げ足を増した私を訝るも、叶に選択肢は多くはない。追うか、諦めるか。そして彼女が私の動きをトレースし始めた時点で、彼女の攻撃範囲が有限で、それが600を境に急激に精度が落ちるという弱点がハッキリする。ま、逆に言えば、600以内じゃ近接しない限り、格好の的ってわけだけど。

「追ってきなさいよ」

 まだ足りない。私は山頂目指して跳び続ける。叶もまた攻撃を完全に停止して、私の捕獲に全力を注いだ。それもそのはずで、彼女の魂は持久戦には向いていない。符を操るには相当の精神力が必要で、範囲が広がれば広がるほど、魂の疲労は比例する。彼女の攻撃は、確かに正確で強力だ。遠距離戦では、狙い違わず急所を貫く、最強のスナイパーになれる資質がある。

 けど、それも短時間ならば。魂の許容量が少ないため、一日に操れる符の上限数が、必然的に決まってしまう叶。

 だからこうして逃げ続ければ、自滅は必死。普段は冷静沈着、眼鏡をキラリと光らせて、蓄えたる知識から導き出される最適解で一撃必殺の省エネ戦法も、相手が予測範囲内で動いている限りの話。一端その予想を裏切ることに成功すれば、叶のポーカーフェイスは一瞬で焦りと不安と恐怖に歪み、そうしてパニックに陥った彼女の行動は、徐々に精細を欠き、選択の幅を狭めて、いつも自信満々でド壺に嵌ってしまうんだ。

 こういう風に。

「野乃華っ?」

 私の目の前に、叶の驚愕。

「取った!」

 500メートル先にいたはずの標的に背中を取られた衝撃から、立ち直る隙なんて与えない。私は、可能な限りの弱さで、叶の胴を薙ぎ払い、

「あうっ」

 そのまま、七星剣の腹で、叶を地面に押し付ける。

「ど、どうして……?」

 当然の質問に、

「ゆーたいりだつ」

「いつの間にっ!」

「いや、やれるかなぁ、と思ったら、出来ちゃって」

 そう。叶が索敵しているのが私の『魂』であるなら、本体から離脱しても叶には気付けないんだ。そうして一直線に距離を取り、彼女が私の本体のそばを通りかかった瞬間、離脱から一瞬で戻って立ち上がった。

 ただそれだけの、無謀。もし彼女に見破られていたら、無人の本体か、追い詰められた霊魂が、一方的に切り刻まれていたに違いない。

「……負けた」

「おつかれ」

 本当、叶を最初に降参させられたのは幸運だ。これで、珠恵や望と対峙しているときに、背中からバッサリ漁夫の利を持っていかれる恐怖とオサラバできる。

「さって、あと2人だな」

 望と珠恵。

 迎え撃つ私の身体は、ようやくウォームアップが終わったばかり。



「一姫、脱落」

「早っ」

 一方、稲田姫神社の境内では、双子の中学生巫女が、野乃華たちの神事を監視していた。

 安倍あべきよいあかり。14歳、中二。同じ面形おもなり、同じ黒髪ながらも、その瞳の輝きと背中に下ろした髪の長短から、受ける印象は正反対というほどに異なって見える。

 片や晴。両腕を組み、闇に呑まれつつある神体山を見上げ、休む間もなく妹に話しかけ。

 片や明。両手で巨大な球を抱え、その表面に映し出される光点の行方を凝視し、姉の言を放置。

「ったく、学校休んでまで仕事に来てさ。もっと派手な舞闘を期待してたんだけど、ねぇ」

「無い」

「だいたいこの時期まで御瑞姫みずきが決まっていないって、どんな間抜けよ、ねぇ」

「そね」

「あぁ、もうっ! いっそのこと、私が参戦しちゃ駄目かな?」

「無理」

「……明さ、せめて2文字以上、喋ってくんない?」

「や」

「減った! 減ったよ! つか、減らすなよ!」

「…」

「止めて。その目、止めて。私を貫いて背景だけ見るような、そんな貫通眼いらないから」

 彼女たちはこの神事のためにわざわざ派遣されていた。理由がある。

 戦乙女の舞闘には、時には死が付きまとう。カミに触れる巫女が、時にカミに憑かれ、人外の力で暴れだすことがある。その時、同程度の戦乙女では相手を止められない。最悪、人里に逃亡されれば、民間人に被害が及ぶ。

 そういった非常事態のための、晴と明だ。彼女たちは戦乙女でありながら、戦乙女を超えている。それは、明が両手に抱えている、球状の神器が物語る。

 神宝かんだから

 高天原で作られ、葦原中国を平定するために用いられたと伝えられる、神話の存在。全部で十種ある神宝を操ることが出来る巫女は、一時代に10人のみ。

 その位、御瑞姫みずき。全戦乙女の頂点に立ち、根の国、黄泉国から侵略してくるカミを滅ぼす役を負う、世に忘れられし守護者たちだ。

 そう。豊芦原瑞穂国は、大八島国は、太古から女に守られている。

 時に為政者に疎まれ、存在を秘匿されながらも、カミなる存在と対し、天の下をことむけてきたのは、歴代の御瑞姫をはじめとする戦乙女たちに他ならず。

 そして、晴、明はおろか、今この瞬間、百々山を舞台として行われている神事こそ、稲田姫神社が保管する十種神宝が一つ、七星剣を操るに値する御瑞姫の選抜であり、野乃華、望、珠恵のいずれかが、御瑞姫として天下の平和を担う運命を背負うことになる。

「しっかし、あれ、七星剣? どこが神剣なんだかね。ミイラみたいでだっさいし、実際、神宝らしい活躍、全然してないじゃんか、ねぇ?」

「吾が……」

 前触れなく、明が言葉を紡いだ、

「ひゃえ?」

「神剣なり」

 直後だった。晴が横を向いた、その一秒にみたぬ時で、明の身体が、およそ4倍に膨れ上がったのは。

「あ、明?」

 冷静に目を凝らせば、それが錯覚であり、明の背後に突如そびえ立った黒影が、本来なら見慣れたものだと、晴にも分かったはずだ。

 が、

「明っ!」

 何が起こったのか、判断が追いつかぬ速度で、それは黄金の光をまとい、闇夜の山中へと一跳躍で消えていった。妹を道連れに。決して、逆らわぬはずの人形の、

「まさか、暴走?」

 秋の日は地に隠れ、他界たる禁足地を、真に闇が呑み込もうとしている。

 逢う魔が刻は、既に過ぎ。

 夜の山は、魍魎の縄張りだ。

「行くしか、ないよね」

 幸い、周囲に見とがめる人影は無く……晴の両手には、異形の拳銃が二丁。

「仕方ないもん、ねっ!」

 今、歓喜の弾丸と化して、安倍晴は漆黒のカーテンを、怖じもせず潜り抜けていく。


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