第四帖 萬神騒威~八十万の神の凱旋か零落~ 壱
人物照会
『野乃華』:主人公。天津神生まれ。不幸。
『神樹』:七星剣の鞘。変態。
『ヤツカ』:七星剣の剣。横柄。
『晴』:安倍家の双子の姉。銃狂。
『明』:安倍家の双子の妹。人形狂。
『姫子』:御瑞姫。オタ。バカ。熱血。
『空海』:御瑞姫。天上天下唯我独占。筆女。
『鈴瞳』:御瑞姫。超有能超不幸。箒女。
『慧凛』:御瑞姫。小学生。鎚っ子。
『佳紅矢』:御瑞姫。中学生。弓娘。
『望、叶、珠恵』:戦乙女。稲田姫神社勤務。野乃華の友人。
よかろう、ならば妖怪の話だ。
……ちょっと待って、引かないで。これは必要なプロセスなんだから。
物事には順序と程度ってものがあって、まぁ、古来から創作には往々にして陥りやすい罠があるのだけれど、例えば世界設定を説明しすぎて、肝心のストーリーが動き出すときにはお客さんが飽きてしまうかストーリー自体がなかったり、はたまた別の例として、話の掴みたるダイナミックを優先しすぎて世界背景がまったく分からず、固有名詞を覚えた頃には話が終わりかけてて、結局よく分からなかったり、大した内容じゃなかったり。
えと、つまり、最初に適度な説明は必要であり、議論の前提は把握しとかないとダメってことなのね?
じゃ、なぜ妖怪の話なのか。
「根国路之深痕?」
「そう。冥界の盟主として地に封じられた国津神たちが、過去に地上侵略を企てた突破口」
「それが、開いたっていうの?」
「それも、大した規模らしいのよね」
語る叶の声音は慎重で事の重大さを物語るのだけれど、その口元が喜びの笑みを浮かべているのは、ぶっちゃけオタク的イベント大好き血潮が騒いでいるだろう内心がスケスケで……今にも眼鏡が光って高笑いしそうなオーラ、だだ漏れなんですけど。うん、根は悪い奴なんだ、彼女。仕事は真面目で有用なんだけど。
「それって、今までもよくあったことなの?」
「直近の侵攻は3年前にあったけど……今までは何十年に一度って頻度なんだよね。御瑞姫と戦乙女はそのたびに水際で叩き潰してきたんだけど、今回のは、本気度が違うっていうか……」
「なんで分かるの、そんなの?」
「地震計からの分析だと、地下を移動する大群の規模が大きすぎるの。陽動作戦で私たちを釘付けにするあたり、手も込んでるし。何より、今年の御瑞姫は、弱い」
「! 私のことかっ?!」
自覚してるけど、身内から言われるとショックだわ。
そりゃ、即席だし、神剣だって解放したばっかりだし、戦闘経験も少ないけどさ……本人目の前にして戦意を挫くようなこと言わなくたって良いじゃんかよっ!
「あぁ、まぁ、のののんが貧弱なのは置いといて」
あんたまで、のののん呼ぶな。
「考えてみてよ。今いる御瑞姫8人。内4人は小学生と中学生だよ? そりゃ御瑞姫は何より素質が一番大事だけど、ローティーンじゃどうしても人間力に不安が残るでしょ。声を大にして言えないけどさ」
と、周囲をはばからずにズバッと言っちゃうのが叶クオリティ。
「それに……戦乙女にも少子高齢化の波が押し寄せてきてるんだよね。全国の信心離れの影響で予算が縮小していることもあるけれど、引退する戦乙女に対して、後継の巫女がいない神社が増えてきているの。
もちろん、それは前々から危惧されていたことだし、だから空海さんと鈴瞳さんをツートップに、戦術研究会を立ち上げて、対国津神戦における戦乙女の効率的な運用を論じ始めたばかりだったのに……それもまだ仮説の段階で、これから実験に移ろうって時にこの襲撃……タイミングが悪すぎるわ」
戦術研究会てあんた……巫女の口から出る単語じゃないでしょ、ふつう。
まぁ、ふつうじゃないんだけどさ、もう。
「で、つまり、どうするの?」
「ぶっつけ本番、と言いたいところだけど、基本的にやることは決まってるんだよね」
と、叶はおもむろにタブレットPC機能付の呪符を取り出して、そこに「内線」と「外線」という二つの単語を指書きして。
「電話?」
「軍事用語」
ふつうに女子高生の会話しようよ、ねぇ。
「内線っていうのは、簡単にいうと袋の鼠状態ね。周囲を敵に囲まれた状態で、どう対処すればいいか。
この時、戦力を分散させて、全方向同時防御なんてやるのが愚の骨頂。内線状態っていうのは外からの補給も限られるわけだから、どうしたって短期決戦に持ち込むしかないわけ。ま、第二次大戦のドイツや日本がまさに内線状態で、敗因は戦争の長期化なんだけど、それは置いておいて。
戦法はシンプルに、戦力集中による各個撃破。敵の包囲の隙をついて、全戦力を一挙投入、包囲網を破って休まず敵の後背をついて、司令部や情報施設、補給線を壊滅させて休戦に持ち込むのがベター。
今回の場合、敵さんがこれに当たるのね」
「じゃ、外線が?」
「そ、私たちのターン。内線の逆、包囲殲滅作戦こそが、外線の要。
この場合は、包囲に穴を開けないのが肝要なのね。敵に各個撃破をさせないために、情報を密にして全軍一斉進軍で包囲網を徐々に狭めていって、四方八方から袋叩き、相手をこてんぱんにのしちゃえば、ミッションコンプリート。
ただ、これは情報共有も去る事ながら、まとまった戦力と補給が必要になるから、完全な遂行に困難を伴うのよね。
私たちが頭を悩ましているのが、まさに戦力不足。
その点、前回の反省から自動戦闘人形代や、安倍家の量産型絡繰の配備を進めているから、若干マシになってるとは思うけど……」
「えっと、つまり、地の利はこっちにあるけど、戦力は圧倒的に敵さん有利?」
「そういうこと。加えて言うなら、完全に役割が逆転してるよね。御瑞姫みたいな少数精鋭は内線軍にこそ必要だし、人海戦術は、外線軍が喉から手を出して欲しがるコンテンツだし」
「……それ、本当に勝てるの?」
「負けたら一般市民に被害甚大よ。そもそも、始まる前から負けを意識してたら、勝てる戦も勝てなくなるし」
そりゃ正論だけどさ。
「そんなわけで、私はこれから対策本部に行って細部の詰めの作業があるから」
颯爽と裾を翻して、叶は去っていった。
緊張で強ばっていた背筋から力を抜いて、両手を後ろについて足を伸ばすと、疲労が、どっと押し寄せてきた。
徹夜で根の国をさまよった挙げ句、午前中は現場の後処理に追われ、間髪入れずに特急列車に押し込まれて現場に輸送され、約半日。
今、全国の巫女に緊急召集命令が下り、特別列車によって、続々とここに巫女が集められているという。
気がつけば日は傾き、周囲は闇色を濃く……しかし山中は煌々と灯りがともり、人々が絶えず、決戦準備に駆け回っている。
何でこんな事になったのか?
肉体は疲労でズブズブになっているけれど、脳みそはギンギンに興奮していて、残念ながら眠れそうになく。
支給された疲労禊ぎ符から、新鮮な神力が流れ込んできて、体の中で尋常ならざる新陳代謝を誘発して、細胞を生まれ変わらせているのが分かる。
明日の朝には、すべての疲労が霧散するとの、空海女史のお墨付きだ。
本当は、無理矢理にでも睡眠をとって、脳も休ませなきゃならないのだけど、配給チョコで糖分を補給しつつ、あえて、思案の時にあてよう。
何で、こんな事になったのか?
その根本の問いが、冒頭にある。
妖怪とは何なのか?
それは、敵を知る問いだ。
そもそも、国津神の出生は明らかじゃない。
古事記、日本書紀、風土記などを照らしあわせても、横の繋がりがハッキリとせず、各地域でそれぞれのカミが古来から祭られていた、というのが実態だから。
なら、現状はどう?
北は北海道から、南は沖縄まで。天照大御神を祭神とする神社が全国津々浦々にその威光をあまねく届かせ、ついでに出雲の神であった大国主命までもが、国津神すべての長として、オオナモチと名を変えたりして、各地のカミの代表として祭られている。
つまり、大和政権が古墳時代から飛鳥、奈良、平安時代を経て日本全国に版図を広げていくに連れ、支配の証として、天照大御神と大国主命の輸出拡大をしたのは明白。
そして、その版図拡大に際して、地方で反旗を翻し、決死の抵抗を続けたのが、いわゆる『順ろわぬ神』たち……土蜘蛛、蝦夷、隼人や熊襲と呼ばれたモノたちだ。
そして、今でこそ妖怪と言えば千差万別、絢爛豪華なイメージがあるけれど、当時の記録から読みとれる妖怪といえば、巨人、鬼、狐、蛇龍、怪鳥といった動物を模した化け物であり、峠を通り抜ける旅人の5割を喰ったと伝わる荒ぶるカミに関しては、その姿形が伝わっていない。有名なヌエにしても、文献に残っているのは鳴き声だけだし、九十九神という概念が生まれてくるのは、民衆に器物が行き渡る中世の頃。安倍清明を代表とする陰陽師が活躍した平安時代になると、怨霊という概念が発達して、むしろ人間が鬼になるパターンが主流になって、山姥などが怖れられ、いわゆる呪術が発達してくる一方で、鬼などは徐々に、その活躍の場を御霊に譲って表舞台から消えていくのよね。化け猫や、山犬、狼等々、人の生活に近い動物の怪異單や、狐や狸や猫・犬神の憑霊は、近世まで民衆文化の中で脈々と受け継がれていって、明治政府による「カミ降ろし禁止令」が出たほどだけど。
加えて言えば、今でこそ妖怪の代名詞となっている天狗、河童の出生は、意外なほど遅い。
天狗に関して言えば、大元は爆音を轟かせて落下してきた隕石に発し、天を駆ける狗の声や、山中の謎の倒木の音とか、空から降ってくる石礫とかの伝承は、昔からあったりして。それが仏教の布教に結びついて、天台宗の教えの中で、仏に敵する存在として鳶を素体に、密教や修験道の広がりで徐々に有名な山伏姿を獲得。その間に山岳民族、いわゆるサンカを取り込んだとかどうとか異民族の影も見えるけど、しかし、赤ら顔に高い鼻といったディティールを獲得したのは、実は江戸時代に入ってから。ちなみに天狗隠しといわれる現象は、農作業中に赤子が猛禽類に攫われる事案が存在したからだそうで、天狗が鳶を素体としたのは、そういう経緯もあるっぽい。
河童はもっと新しくて、ハッキリと文献にその名が認められるのは15世紀。そのころはカワウソが変化したものと紹介されていて、今のような緑肌の頭に皿という姿を獲得したのは江戸時代の事。当時本草学と呼ばれた博物学の書物に、実在かもしれない生物として紹介され、一般に広まった、と考えられている。もちろんその背景には、牛馬や人の水難事故が絶えず、その事に対する怖れが、水辺の怪物を生み出したっていう民間信仰があっての事だけれど。
有名な鳥山石燕の百鬼夜行図などは、こういう流れを受け、書物を読む習慣が町人にも広まっていた文化を温床として、爆発的に大衆に受け入れられていったらしく。
彼の描いた妖怪図は、しかし洒落や創作が多く、実際の妖怪を描いたわけではない。ただ、彼の妖怪図を通して見えてくるのが、当時の大衆に、九十九神や幽霊まで楽しむ素地ができていたって事。それらを怖れながらも、本気でブルっていたわけじゃなくて、むしろ親しみを持って受け入れていたって事。
けど、当時は、『妖怪』という名前は生まれていなかった。
世の中の怪しいこと、不思議な事を収集し、それらが『妖怪』として世に紹介されたのは、明治時代に入ってからだ。
文明開化、西洋化こそが正義とされた19世紀、『妖怪』を科学的に分析することで、単なる迷信、知識不足、勘違いである『仮怪』、本当に不思議なモノである『真怪』という分類が生まれたけれど、そういう流れを受け継ぎながら、『妖怪』が生まれた文化の背景、民間信仰の歴史に注目したのが、有名な民俗学者である柳田國男。
彼は『妖怪』を、祖霊などの神が零落した姿であると考えて、日本各地の伝承を収集していった。
今ではその考えは否定されて、『妖怪』とは信仰されていない民族学的な伝承、という風に定義されて、信仰を受けている『神』とは別個の存在とされている……が、当然の事ながら、それは実存の生物としての扱いではなく、あくまで歴史的にどうやって概念が発生、波及してきたかの研究であって、多角的、広域的な調査から、より一般的な出来事として分析しようと言う試み。
ま、一方で、吸血鬼や蟹や蝸牛の怪異を綴った最近の怪異單だと、怪異は信仰ありき、信じられているからこそ力を持つって言う設定もあるから、現代に妖怪がはびこっていないのは、私たちの心のせいって見方も出来るし、他の作品では荒ぶれば妖怪、和れば神って分類もあるから表裏一体のものなのかもしれないけど……で、である。
様々つらつらダラダラと語った結果に一体何をオチとするのかと問われたら、だったら、私たちが戦っている、戦ってきた妖怪たちは、一体何なの? という話になるわけで。
私個人の経験でも、泥田坊、川太郎、覚、鎌鼬、天狗の石礫、自縛霊の方々……根の国で見た大百足、幽世に閉じこめられた両面宿儺と、実存を疑うには実例が多すぎて、ましてや信仰心の影響など皆無ってほどに彼らは力余って憎さ倍増。
となると……ここは真面目に受け止めなきゃならんのではないか、と思うわけですよ。妖怪=零落したカミという考え方を。ぶっちゃけ言えば、根の国に墜とされた国津神たちが人に牙を剥いた姿である、と。
そもそも、水木しげる翁が『墓場鬼太郎』を執筆した当初に思い描いていた『妖怪』とは、人に対する自然からの復讐という姿であって、テレビアニメになった時点で、「子供向けだから人間の味方にしましょう」と改悪(改善?)され、現在に至ってしまったという経緯がある。
つ・ま・り。元来から『妖怪』というものは、人間に恨みを持っている、人間を否定する、人間を騙す、社会に損害を与える、という属性を持っているものであり……それは遡れば、人間が天津神の威力を借りて、国津神を地下へと追い墜としたのが原因じゃないのか、と思い至るわけだ。
じゃ、事の発端は、人間にあるのか?
それは、まだ分からない。
けど、知らなければいけない気がする。
私は、私だけは、そこまで踏み込まなきゃいけない気がするのだ。
だって、私は、カミが好きだから。
物心ついた時からずっと、遊んできたから。
泣いて、笑って、怒って、呆れて……見守ってもらってきたから。
ずっと、共存を願ってきたから。
うん。決めた。
これからどんな困難が立ちふさがろうと、たとえ彼らに悪意しか残されていなかったとしても、私は対話を試みよう。
戦場で、そんな余裕はないかも知れないけれど、それでも心は、常に求め続けよう。
巫女とカミの長い長い戦いは、これからもきっと、終わらないのだと分かっていても。
「それを、誰かが、断ち切らなくちゃ」
「んぉ、のののん、まだ起きてんの?」
いきなり、姫子が天から降ってきた。
「なに、武者震いってやつ? 血の気が多くて興奮して眠れない?」
「そりゃあんただろ……ねぇ、姫子……私たちって、御瑞姫って、戦場でいったい何をするわけ?」
身を起こして胡坐をかいた頭上に、姫子のタユンとした乳が、グニュニュンと乗りかかってきた。重い。
「キッタハッタの、ちぎって投げて、丁々発止のキリングマッスィーン」
「身も蓋もねぇ」
「のののん、一つだけ忠告しとくよ。
迷ったら即死。
引いたら即死。
目の前に壁があったら、その壁を砕く以外に道はなし……だから、ただ前を見て、進み続けろ」
「たとえ倒れても前のめりって?」
「やっこさんたちは本気だよ。ためらいないよ。決死の覚悟決めちゃってるよ。だから、倒すしか道はないよ。私ら、ずっとそうやってきたし……人は怨嗟でオニと化し、オニは全て滅ぼされなければならない……分かってるよね?」
「……理解はしてる」
一度鬼と化せば、人間にはもう、戻れない。それは人の理を脱した存在だからだ。言の葉は届かない……妖怪も、怪異また、基本的にはそういうもんだ。
「ま、あたしは殴るの好きだからいいんだけどね~」
「あんた、好き嫌いで仕事してるわけ?」
「仕事を仕事って思ってるうちは、ただの奴隷と同じだよ?」
時々こいつは、わかったような口をきくなぁ、多分直感だけで言ってるんだろうけど……獣に近いほど、直感で正解を見抜くから侮れぬ。
「はいはい、忠告ありがとね」
姫子を持ち上げ、しかし言葉には力なく、別の疲労を感じた瞬間……緊急放送が大気を震わせた。
『索敵終了……敵の推定戦力、約30万』
異様などよめきが、山中に、響きわたる。
「開戦は明朝かな、こりゃ」
二ヒヒと笑う姫子の声が、今だけはやけに、頼もしく聴こえ、
「あ、鎧着なくちゃ」
今更ながら、望と交わした約束を思い出し、立ち上がる。
それは、こんな軽いやりとりで。
500人を越える巫女が、次々と観光バスや、幌を張った軽トラックに乗り込んでいくのを目の当りにして、
「壮観っていうか、気持ち悪いな~」
紅白二色に占められた貨物広場を、(-_-)こんな目で見回しながら、しかし立ち止まっているわけにもいかず、運よく振り分けられた貸切バスに吸い込まれていたら、
「あ、野乃華、待った!」
周囲のみんなが思わず振り返るほどの大声で、望に呼び止められたのだ。
ザワザワと広がっていった喧騒は、
「あれが、百々山の御瑞姫?」
「最強の七星剣の使い手?」
「20年近く継承者がいなかったって」
「でも、安倍姉妹を退けたっていうし」
「あら、意外と小柄なんだ」
「見た目普通だね~」
「でも貧乳」
「いや、むしろ抉れ……」
目を合わせないように、それでも露骨に口に出すのは、やっぱり女社会だよなぁ。
気にし始めたらキリがないので、淡々と無視して望を迎え入れ、
「望と珠恵は別なの?」
「あんた、自分がVIPって自覚ないだろ」
昨日今日で御瑞姫になったばっかりの、いわば「本当の私デビュー」状態なんだから無茶言うな。
「叶が裏で調整してるから、現場は一緒になると思うけど、今のうちに渡しとく」
「なに、それ?」
望が背中に担いでいたのは、大黒様みたいな巨大な白袋だ。受け取ると、中身は固くて薄い金属製品の集合体で、ガチャガチャと甲高い音がうるさく響く。
「うちの御瑞姫の正装。仮にも最前線に行くのに、そんな軽装じゃ危ないっしょ」
つまり、鎧みたいなもんか。
「でも、私だけ? 望たちの分は?」
「私らは、危なくなったら逃げられるから。でも、野乃華はそんなわけにいかないでしょ」
そんなものなん?
「まぁ、ありがと。とりあえず、受け取ってく」
「あと、これも」
差し出されたのは、桃色の布帯。
「? 千人針とか?」
「いつの生まれだ、おい。お揃いの鉢巻。百々山組の証っていうか、絆っていうか……つべこべ言わずに巻いとけ!」
喋っていて恥ずかしくなったのか、最後には頬を染めて無理矢理胸元に押しつけてくる。
「勝手に死んだら、根の国まで殺しにいくから」
「あ~、その時は向こうのお茶菓子用意して待ってるわ」
「んなことされたら、私まで帰れなくなるじゃん!」
あの世の物を口にしたら、この世に帰れないってのは世界共通ルールだからね~。
「てか、私が死なないように、肉の壁になるのが、望たちの仕事じゃないの?」
「そういうのは、専用の符とか絡繰に任せてあるから、ていうか、サラリと友達を犠牲にすんな!」
軽くジャブが飛んできて、笑顔でそれを弾き返した。
そうそう、シンミリした空気は、私らには似合わないかんね。
「じゃ、また後でね~」
ヒラヒラと手を振って、わざと気の抜けるような声で望を見送って、
「ゴメン……私はみんなの期待に、応えられないかもしんないよ?」
今、その桃色の鉢巻を握り締める。
込める決意は、でも多分、すれ違っていて……だからこそ、より強く、握り締めて。
高野空海と伊奈羽鈴瞳の二人は、索敵情報を叩き台として、現場での最終打ち合わせに余念が無い。
「湖を飲み干したか……なかなか、敵にもおもしろい奴がいるじゃないか」
符を飛ばして上空から撮影した写真には、先回の会戦の折、水責めにて湖底へと沈んだはずの根国路之深痕の黒穴が、くっきりと漆黒の影を盆地に穿っていた。
「周辺自治体への根回しは完了したよ。あと10分以内で、戦場の決戒も締まるわ」
市女笠の中、笠から垂れ下がる投影幕の情報に指先で指示を出しながら、鈴瞳は更に、対策本部となったテントの中の机上に、リアルタイムの地図を映し出す。
普段は人も通わぬ原生林。古来より異界と恐れられ、地元猟師すら足を踏み入れない、曰く付きの地だ。それもそのはずで、太古の国譲り以来、何度も戦場となってきた第一級警戒点であり、御瑞姫をはじめとする巫女のみならず、国津神にとっても、馴染みあると言って過言ではない、”いつもの”戦場が、机上に再現されている。
「斎宮様の調停は?」
「お婆の寄合からの返答はまだやわ。ま、今更威力偵察ってオチもないやろうけど」
「相手の声明は出ていないのか?」
「御瑞姫4人を幽世に閉じこめておいて、身代金の要求もなかった相手やよ? 限定戦場の掟に従ってくれとるだけ、マシって思った方がええんやない?」
「……前回、掟を超法規的解釈して、戦場を水で埋めたのはこちらだしな。敵さんにしたら、仕切直しといったところか」
「けど前の時は、あれ以外には防ぎようがなかったし……けど、今回はうちらも負けてへんよ? 辛酸も苦渋も味わったし、きっちり外線の仕事をするだけやん」
鈴瞳の指が踊ると、立体スクリーンと化した机上に、敵の予想進路と味方の配置が、三次元映像となって現れた。
「となると結局、いつもの要求か。里山を始めとする山の文化の継承、放置し放題の野生動物の一定の秩序化、休耕となって荒れ果てた田畑の復活、ついでに祖霊信仰の復活。まったく、そういうのは日本政府に書面で送りつけてやってくれ」
「ま、道真公しかり、豊臣時代末期や幕末の大地震しかり、政情が不安になると地震や噴火で大暴れして、人心を正してきたのが、祟り神としての大国主はんの本分やもの。お天道様から見下ろしてるだけで、神託のひとつもくれない天照はんとは大違いやわ」
「我々がそれを言うかよ。ま、慢心しきった今の人類、神の裁きの一つや二つ、落ちた方が身のためとは思うが……残念、それを防ぐのが巫女の勤めだ。心身清めてお告げを聞いて、聞ける要求だったら呑むし、無理難題なら力技で神殺す。それが昔話の常道だ。相手が言葉でなく、数で恫喝を押し通そうと言うのなら、こちらも相応の礼で迎えねばならん。
で、どう展開するか、だが」
空海は、机上に展開されている架空の陣型に触れながら、垂れ幕の向こうで演算を繰り返している鈴瞳を見る。
「奇策師鈴瞳としては、どうでるかな?」
「誰が奇策師やねん。常勝の獅子って呼んでもらいたくて、ケレン味たっぷりな策を連発するのは空海はんの方やん。うちはせいぜい、不敗の魔術師として、王道の定石を打ち続けるだけやわ」
「定石、ね」
空海は口元を笑みの形に歪めつつ、湖水の水が抜けて盆地のような泥地となった湖底に、自軍の駒を両手でテキパキと配置すると、
「これでいいだろ?」
満面の笑みで胸を張る。
「……全軍一カ所にまとめてどうすんのん? 外線軍は包囲殲滅が鍵や言うとるのに」
「だから、あえて常道を外して敵の出鼻を挫くのよ。地上に頭を出した瞬間に、全軍総攻撃で敵を壊乱させ、その混乱から回復をさせずに、周囲の山を発破して土砂崩れさせて生き埋める、でどうよ? 電撃戦だろ?」
「ほんもんの電撃戦は、相手の指揮系統が混乱している隙に、更に戦線を進めて、それを連続して続ければ相手は手も足も出す暇なく敗走するっつう、あくまで理想論やろ? それだって、味方の情報通信網が完璧で、戦車の機動が十全に機能すればっていう条件下での話であって……連合軍の被害を省みない圧倒的な物量に押し切られたっていう、どっかの宇宙の独立戦争みたいな結論」
「鈴瞳、それ逆。どっかの宇宙戦争の方が後だバカ。んだよ、窪地なんてどうせドロドロで再生不可能なんだから、埋め立てちまえばいいだろ」
「安全に思い通り発破する方法が確立されてたらの話な。どんな山奥だろうと、生態系ってのは繋がってんやで? うちらがバカやった見返りに、一般市民に影響が及んだら、今度こそ特別費削られるわ」
「お前、今朝自分たちが何やったか、棚上げしてるだろ」
「あれとは規模がちゃうやん。第一、あの時吸い上げた土砂は、全部現地に戻したし……そりゃ、元通りとは言わんけど」
「んじゃ、どうするよ、魔術師さんは」
否定されるのは想定済みと、空海は一歩、戦図から退く。
「もう、遊んどる暇なんてないんやで」
それでも鈴瞳は、市女笠を取ると、自ら駒を配置し直した。
部隊は5分割。
あらかじめ情報は埋め込まれていて、鈴瞳の指先に反応して、それぞれの駒に担当者と担当社の名前が連なっていく。
「限られた人数でやる限り、こうするしかないやろ」
「理に適いすぎて面白くないな」
「味方を驚かすために戦術考えているわけやないから」
空海の不満に苦笑を返して、鈴瞳は周囲を見回した。
場に集っているのは、現地で監査チームを組んでいた地元の戦乙女たちと、彼女たちを束ねるために集まった、元御瑞姫らである。
「作戦を説明します。全員、集まってください」
鈴瞳の、糸のように細い瞳が、一瞬煌めきを放つ。
女たちは真剣に頷くと、餌に飛びつくペットのごとき勢いでテーブルへ群がり、逐一指示を受けていく。
「机上の空論なのは変わらないがな」
一人、その光景を面白そうに眺めながら呟く空海は、
「さて、敵はこちらの思惑通りに動いてくれるかな?」
予言とも不安ともつかぬ言魂を残して、無人兵として活用できる呪符を作成するため、テントの外へと静かに踏み出していった。
まだ日も昇らぬ午前4時。
仮眠以上には眠れなかった私の目の前を、
「なぜ、電線」
正確に言えば、電線を巻き付けたドラムを持って、巫女がまだ、右往左往している。
現場は、最終仕上げを迎えて、混乱を通り越して、阿鼻叫喚を地でいっていた。
環境保全地域にでも指定されているのか、信じられないほど原生の姿を留めている山林は……しかしなぜか人の手によって通路が縦横無尽に網の目を張り、所々に塹壕が掘ってあり、銃眼を施したトーチカが築いてありと、明らかに昨日今日の突貫工事ではない歴史を匂わせて、初めての私を圧倒する。
戦争準備に追われて特に多忙なのが、食糧班のようだ。テントに運び込まれた物資はどんどんと各部所へ散っていって、その手慣れた様子から、今日のような襲撃が初めてではないという事実が、今更のように実感できる。場合によっては本日最後の食事ともなり得るわけで、その真剣さは、思わずたじろぐほどだ。
「でも、なぜ電線」
ことほど左様に無線技術が発展している現代に。しかも巫女には霊話という特殊技能もあるだろうに。
「技術が発展すれば、それにまつわるアンチも発展するのは常識っしょ。ジャミングかけられたら一環の終わりだよ? 私ならミノフスキ○粒子まき散らすけど」
「だから、有線通信?」
「そそ、ま、半分は姉御の趣味だろうけど」
姫子が、両手に握った配給のおにぎりを交互に口に運びつつ、解説を続ける。
「にしても、敵も物好きだよね~。3年前、姉御は敵を盆地に集めて、溜めておいた前日に降った雨を一気に放出して、一面を湖に変えちゃったっていうのに……それを全部地下で処分して、再戦を挑んでくるなんて」
「いやいやいや、それは恨まれて当然でしょ」
どうりで、地形がおかしいと思った。戦場を取り囲む10ばかりの山々の下半分が、なぜか立ち腐れを起こしていて、窪地が泥地になっている理由が納得できる。
そんなことばっかりしてるから、恨まれっぱなしなんじゃないの、私ら?
「でも、3年前でしょ? 安倍姉妹も佳紅矢たんも小学生だったし、慧凛たんは御瑞姫ですらなかったしねぇ。のののんだって一般人で、これで御瑞姫半減っしょ? 多少の無理は仕方がないと思うよ?」
「姫子はどうなのよ? あんたなら、中学生でも十分戦力だったんじゃないの?」
「残念。その時は地元で鬼が暴れてて、こっちまで手が回らなかったんだよねぇ」
本当、こいつだけ住んでいる世界が違うんじゃなかろうか?
一体、どんな土地で育ったら、こんなおかしな常識が身に付くんだろう……知りたくもないけど。
「だから、3年前の主戦力は、姉御と鈴姉だけでね? 二人とも高校生で、御瑞姫としての経験も浅かったから、もろ苦労したそうでさ……姉御が右目やられたのも、その時って話だし」
3年前……私は中学1年か。思いだそうにも忘れてるほど、恥ずかしい記憶に満ちた水色時代。けど、中学時代に会得した知識の数々が、今の私を落ち着かせてくれているのは事実。
もし、3年前に強制召喚されていたら……無理無理無理無理、絶対にノゥ。
そもそも、こんな時代錯誤な合戦が現実に存在するなんて、夢にも思ってなかったし。
妖怪と戦うだけでも十分、遅れってるぅと思ってたくらいなんだから……でも、叶たちはその頃から、こういう世界に足を踏み入れていたんだよなぁ。
叶は、少子高齢化を理由にしていたけど、単に現実にそぐわないから、巫女のなり手がなくなったって考えないのかなぁ。それとも、幼少時からこっちの世界に染まっちゃうと、そういう思考回路すら形成されないんだろうか?
ま、おかげで、今も私は、この世界で言いようのない阻害感を得ているのだけれど。
これは……天津神の魂とは関係ない隔たりだよな。
そもそも、天津神の娘としての私は、一体この状況で、何を為すのが一番”らしい”のだろう?
やっぱり、天照大御神の御威光を背負って、地を這う国津神を有象無象の区別なく焼き払うのが、国を平らげるための正義?
それとも、順ろわぬ神すら抱擁して、大和王朝の懐の広さを示すのが、後々の治世のためには必要なのだろうか?
……でも、問答無用で叩き潰してきたのが、大和王朝だからなぁ。って駄目だ、なんか今、国津神の味方ターン入ってる。今朝あんだけ苦しめられたにも関わらず。
「ほい、のののん。御瑞姫の召集かかったから行くよ?」
「いたいいたいいたい」
思考の渦に捕らわれていたら、耳を思いっきり引っ張られた。
「迷ってる暇なんてないっつったっしょ」
「んな事言われても……こっちは昨日まで一般人だったっつうの!」
「それは、単に、知らなかっただけだって。こっちは血と汗にまみれて、誰にも感謝されない戦いに身を投じてたんだからさ……ようこそ、くそったれな職場へ」
「だぁ、わかった。わかったから耳放せ、バカァ」
途中でなんとか姫子の手を振り払って、テントに行くと既に会議は始まっていて。
空海女史、鈴瞳さんを上座に、戦図を挟んで右側に安倍姉妹が、左側には名前を知らない少女が二人。たぶん、手前が慧凛ちゃんで、奥が佳紅矢ちゃんだろう……手前の娘は、一度テレビで見たことがある気がするから。
そして、私と姫子が戦図の下手に位置取り、挨拶も抜きでいきなり、戦術会議は始まった。
「え~と、各自の持ち場は戦図を見てもらうとして、役割を説明するわ。
まず、空海はんとうちは、指令塔として本体の戦乙女を率いる。これは敵の突進を受け止める壁の役やね。
で、姫子はんと、慧凛ちゃん。二人は左右に分かれて、打撃部隊として、敵部隊に食いついてもらう。遠慮なくぶち上げていいかんね? 敵は後ろからドンドン補充されるから」
「質問~。呪符や神力や食糧の心配はしなくてもオケ?」
姫子の心配はもっともだろう。
「安心して。人は割けんけど、二人には侍従型の屍鬼をつけるから。欲しい物はなんでも言いつければ、即座に動くよう手配する」
「両手が塞がってても、食べさせてくれる?」
「……どんな状況を想像してるのか分からんけど、食べる余裕があれば、命じてみれば?」
よしよし、と満足げに頷いて、姫子は質問を終えた。鈴瞳さんは気にせずに続ける。
「で、明はんと、佳紅矢はん。二人は左右の山の稜線に分かれて、長距離射撃で全体の援護を頼むわ。狙うは前線よりも、後背部を重点的に。前線を潰しても、後ろから補充されれば無限地獄やからね」
「質問します。普通は前線の援護をするのが、砲撃部隊の役目では?」
安倍家の中学生次女は、相変わらず無表情で事務的に言の葉を紡ぐ。
「普通ならね。けど今回、うちらは前線を押し進める必要があまりないんよ。むしろ持ちこたえる事が肝要。あと、忘れてもらったら困るけど……敵が反対方向に進路を変えたら、その時は明はん達の砲撃が最前線やからね?」
「質問を重ねます。敵がこちらの部隊に向かってくるという保証は?」
「裏をかかれる心配は、確かにあるよ。だから、晴はんと野乃華はんを、遊撃部隊として独立さしてある。
二人は、ほぼ単独で動いてもらうことになると思うけど、だからこそ、高速での機動を発揮できると考えてる。
突出し始めた敵部隊の頭に噛みついて、相手の軌道を変えるのが主任務やね」
手を挙げざるを得なかった。
「具体的な指示と支援は? 敵がこちらの意図に反して突出をやめずに包囲された時の保険はオーケイ?」
「そうならんように、二人の行動には遠距離砲撃を同期させる。また、安倍家の絡繰を優先的に配備するから、万一の場合は盾として利用してくれて構わんしね」
戦図を見下ろして思案する。
「予想される……行動範囲を見せてもらってもいいですか?」
要望には無言で応えられた。私と晴を示す駒が、窪地を囲む全域を担当区域として地図を各色で埋めていく。
「つまり……いつでもどこでも縦横無尽に臨機応変に対応しろと?」
「ま、退屈はしないよね」
晴の声にも不満の色が乗る。どう考えても、これじゃ私たちが貧乏くじだ。
「この配置の根拠は?」
「適材適所だ」
空海女史は一刀両断。抗弁は無意味な空気が濃く漂う。
「速度と威力のバランスを考慮すると、姫子を遊撃に回すのは、効率の面から考えてもったいないしな。慧凛は問答無用で固定砲台だし、明が動き回るには茶吉尼が邪魔……つまり、消去法だな」
適材適所言うた口はどこ行った?
「まぁ、野乃華の場合は得物が巨大なことに若干の不安が残るが……若さでカバーできるだろ」
「それ、むしろ姫子の方が、小回り利いて便利なんじゃ?」
私は正論を吐いたつもりだけれど、
「手綱を取れない相手を野に放つのか?」
相手の方が説得力があって轟沈した。
「おぉ、信用されてるよ、あたし」
喜ぶなバカ。それは理解されてても、信頼されてないってことだろ。
ま、でも私でも同じようにするだろうな……姫子が集団行動になじめるとは、とても思えん。
最適でなくとも、妥当な判断か。
どちらにしろ、
「敵が、こちらの思惑通りに動いてくれる勝算は?」
「三分といったところだな」
絶望的ではないが、楽観はできない、といった所か。
「この符に、逐次作戦指示を伝えていくよって」
配られた符を見ると、表面に乗った墨汁が電波を受信して、自由に文字を形作るシステム。と、眺めている間に動き始めた符が、しゃくとり虫のようにこちらの手を這ってきたかと思うと、勝手に肌に同化してしまった。
「うわっ、きもっ」
無くす心配はなさそうだけど……ちゃんと取れるんでしょうね。
「で、作戦決行時刻は?」
質問はいきなり断たれる。
「御瑞姫様っ! 湖底に変化が!」
外からの叫びに、全員がほぼ同時に飛び出した。
白く染まり始めた東の空をバックに、目撃したのは、天空高くそびえ立つ8本の生足。
30メートルはあろうかと言う巨大な生足は、しかし永久脱毛でもしたのか、すね毛一本見あたらないモデルのような滑らかな御美脚で、
「あれ? だいだらぼっちって女型いたっけ?」
シンクロナイズドスイミングを想起させる綺麗なシルエットに一瞬失われた現実感は、
「総員! 対衝撃防御ーーー!!」
空海女史の、腹の底から放たれた警告と同時に現実となって襲いかかり、8脚同時の足踏みは、衝撃波を伴って大地を踏み抜き、打ち上げられるような震動が脳天へ突き抜けて、開戦という覚悟を、容赦なく一帯にぶちまけた。