第七話 『PAST FOUR。デート。』
何も知らなかった頃が、多分、幸せだった。
第七話 『PAST FOUR。デート。』
デートの夢から目覚めた神様はすぐ愛音を探した。
「手前、なんで嘘ついた!」
「嘘ってどんなことかしら。」
「知らんぷりすんな!手前先愛香はファッションに夢中だと言ったんじゃない!」
「そんな嘘、信じる方が赤ん坊でしょう。」
「なんだって!この影の女帝がっ!」
「そっちこそ、人の姉を盗まないで!」
「いやだ!愛香は絶対、俺の女神になる!そこに比べてお前は黒くて気持悪いから、きっと誰にも愛されず一人ぼっちになる!」
「私、一人ぼっちにならないもん!愛香姉がいてくれるもん!」
神様は愛音に消えて欲しかった。本気で愛音を愛香の記憶から消して、もっと愛香と仲よくなりたかった。でも、何故か愛香には神様の力が通じなかった。神様なのに何もできない。そんな無力を感じて神様は愛音を睨んだ。
「愛香姉はあんたなんかより私を何倍愛してくれる!」
「くっ…。」
「なぁんだ。まさか焼きもち?」
「このっ…!」
「べーだ、このバカミ!」
(殴りたい。マジ殴りたい!)
神様は愛音を殴ることができなかった。妹と神様の争いを目にした愛香が駆けつけてきて、二人を引き離したからだ。
「止めなさい、二人とも!」
「でも、悔しいもん!」
「こっちのセリフだ!」
愛音と神様は最後まで言い争った。その姿を見ていた愛香の顔にしわが寄った。
「いい加減にしないと私、怒るは。」
「え。」
「愛香姉?」
「本気で怒るから!」
愛夏の断固とした態度に二人は尻尾を巻いた。
「わかりました…。」
「愛香、ごめん。」
「帰ろう、愛音。神君は明日の約束、忘れてはいないよね。」
「勿論さ!」
「では、また明日。」
愛香は愛音を連れて家に戻った。帰る愛香を見てる神様の顔から、笑顔が離れなかった。それが悔しくて、愛音は唇を尖らした。
愛香は一度も、個人的な理由で町を出た事がない。不安だから。自分がいない時、どんなことが起こるか分からないから。
そんな愛香が花の町の遊園地に、変身までしながら行く気になったのはきっと神様のお陰だった。
「姉、愛香姉!」
ついてくる愛音を見て、愛香はもう一度止まった。それからひざを少し曲げたまま、愛音の頭を撫で撫でした。
「言ったはずだわ。姉は今日デートがあります。」
「で、でも、そうしたら町が!」
「大丈夫。苺ちゃん、花の町から来てくれるって。」
「じゃ、苺ちゃんの町は?」
「その代わりに私が花の町に行く約束だわ。いざとなったらお互いの町を守らなきゃ。」
「嘘…。」
ここまで言われると愛音は姉を止める名分がなくなった。もう姉を止められないと気付いた愛音は、密かに愛香を奪った神を呪った。その間、愛香は靴のかかとを踏んで履いた。
「では、留守番よろしくね!」
「あ、愛香姉!」
愛香は急いで自分を呼ぶ声にまた、振り向いた。
「なに?」
「なんでも、ない…。」
ぐずぐずしていた愛音は結局、作り笑いを見せた。そんな彼女をじっと見ていた愛香は、何気ない顔して家を出た。愛香が踏み出すその瞬間、今日だけを待っていた神様が愛香に近付いた。
「なあ、愛香、今日は僕の完璧な計画についてきて欲…。」
「花の町の遊園地に行きたい!」
「え。」
「行こう!私、花の町が大好きだわ。」
たとえ影がこの星を覆っているとしても、まだ咲いている花が、羽ばたく蝶がいた。命そのものが絶望に染まらないうちに、希望はあった。愛香はそんな希望の奇跡を見るのが大好きだった。
「で、でも、それじゃ僕の必殺ラブラブ計画が…。」
「神君、お願い!私、遊園地なんて初めてだから!」
「え、遊園地に行ったこと、ない?」
「だって、私、戦士だもん。勝手に町を離れたりしてはいけないんだから。」
「酷いな、銀河の町って!そんなの、全然納得出来ない!」
「じゃ、一緒に行ってくれる?」
「勿論さ!愛香の為なら!」
「ありがとう!」
神様は愛香を優しく見つめた。愛香の頭の上に咲いてる『心の花』がパッと煌めいた。その目映い笑顔が好きで、神様は仕方なかった。
銀河の町の突外れまでたどり着いた愛香はマジプロに変身した。神様を抱いたストロークは町に挨拶を告げた。
「行ってきます…!」
ストロークが舞い上がった。影は飛んでる飛行機さえ攻撃出来たが、ストロークには近付かなかった。
「どうして攻撃しないのかな?」
「多分、死にたくないからと思う。愛香は手強いし、出来れば避ける方が増しじゃない。」
「もう、『あれ』に意思とかあるわけないじゃん。変な事言わないで。」
「…。」
神様は口を結んだ。突然なにも言えない神様に愛香は疑問を抱いたが、すぐ浮かれて忘れてしまった。命を持ったとしては、影達は気味が悪すぎた。
「もうすぐ苺ちゃんの町だわ。」
「ストロベリーのことだな。」
「苺ちゃん、元気にしてたかな?」
「会わないの?」
「今頃うちの町。」
「そっか。グットタイミングだな。」
「うん、うん!」
遊園地にたどり着いたストロークは空から人の居ない場所へ舞い降りた。別に正体を隠すつもりではないが、視線を集めたくなかった。
「ここなら安心して変身をとける。」
ストロークは元の姿に戻った。
「変身解除完了!さあ、遊びに行こう!」
「ちょっと、愛香!今日は僕とデートだ!遊びに行ったわけでは…って話終わる前に走り出すな!」
何年ぶりの自由だった。ゴーカートもメリーゴーランドもシャトルループもコーヒーカップも回転ブランコも急流すべりもドロップタワーも味わった後にこそ、二人は神様の望んだ観覧車に乗る事が出来た。
(疲れたぁ…。でも、やっと愛香と二人だけのラブラブ時間だ!)
神様は目を輝かせて、愛香を見た。愛香は先買ったメロンソーダを手に持ったまま、外を眺めていた。
「愛香。今日の着物、とても似合ってるんだ。」
「ありがとう。」
「僕は本気さ!愛香はこの星のどんな生き物より美しい!」
「そんなこと言わないで。」
「嫌い、かな?」
「そんなわけないでしょう。ただ。」
「ただ?」
「ちょっと、恥かしい。」
愛香の頬は綺麗な赤に染まっていた。神様は愛香の照れ顔に気を取られて、なにも言えなかった。
「神、君?」
「え?あ、そう、昨日、ファッションのこと言ってごめん。」
「悪かったのは私だわ。想い出に捕らわれて、ちゃんと返事もしなかったから。」
「想い出?」
「これはただの首飾りではない。お父さんがくれた、大切なラジカセだわ。」
「ラジカセ?」
「ラジオカセット。ほら、ミニカセットテープを入れて、プレイボタンを押して…。」
愛香はネックレスのジョイントをはずした。手のひらの首飾りから聞こえてくる愛香の声を聞いて、神様は驚いた。
「あ、愛香が二人?」
「違う。英語の単語を覚えるため、私が録音しておいたの。」
「そうか。良かったぁ…。」
「どうして?神君には強い見方が一人の方より二人の方がいいじゃない?」
「でも、僕は愛香を一人占めしたいんだ!」
「本当。子供だらかね。」
愛香にとって神様はただ、可愛い弟のようだった。愛香は神様の頬をつねった。弟より男として認られたくて、神様は気がくさった。
「なあ、愛香はどんな人が好き?」
「私?ええと、やっぱ、真面目な人かな。」
「真面目だと言ったら?」
「ごみの分別に上手な人!」
「ちがっ…!」
「じゃ?」
「付き合いたい、つまり結婚したい人!」
「妹と母の嫌いな人ではないなら、別に、誰でも良いけど。」
「げっ。」
神様はちょっとどきっとした。だって、愛音に嫌われてるのはいつも神様が一番だった。
「仕方ない。あの寝言とかなんとか言う奴に、近付かなくちゃ。」
「うん?今何か?」
「違っ!絶対気のせいだから。」
「そうかな…?」
愛香が首をかじけた。
「そ、それより、妹のこと、良く知ってる?」
「勿論だわ。」
「あいつ、いや、あえねは…。」
「愛音よ。」
「そうだ、あの人間、何か好きな事、ある?」
「好きな事?」
「たとえば食べ物とか…。」
「焼いたことなら、何でも好きだわ。」
「そうか、覚えておく。外に僕が手伝える事はないかな。」
「あるわよ。」
「教えてちょうだい!」
「あの子、マラソンランナーが夢でね、いつも朝に走り込むわ。でも最近、町だけではなく、外の世界で走りたがってる。」
「それで?」
「神君が愛音を連れて、一緒に走って欲しい。」
「ぼ、僕が?」
「駄目?」
愛香の瞳がさえた。そのキラキラ輝く瞳を見て、神様は迷った。
「…考えておく。」
「ありがとう!愛音も喜ぶわ!」
(絶対喜ばないと思うけど。)
その瞬間、神様はいやな予感がした。肌の上、虫がもぞもぞ蠢く感覚。虫酸が走る、大嫌いな感覚だった。
「この感覚、もしかして!」
神の青ざめた顔をみて、愛香は急いで視線をそらした。そこにはでっかい影がわいていた。
「行くわよ、神君!」
愛香は力ずく観覧車のドアを押し開いた。強い風に髪を靡かして、愛香は飛び下がった。風を切って、愛香は落ち始めた。
「あ、あ、あ、あ、愛香!」
驚いた神様が急いで愛香の側へ飛んできた。愛香は余裕に満ちて、ポケットからカードとカード読みを取り出した。
「マジプロ!時空超越!一瞬で敵を飛ばせ、ストローク・プロミネンス!」
地面に落ちる直前、ストロークは空へ舞い上がった。それを見て神様は安堵のいきをついた。
「あぁいぃかぁ!驚いたんじゃない!」
空から地を見るストロークの瞳が鋭く輝いた。その瞳に写ったのは、町へ近づいてる影だった。
「時間がない。最速で行くわ!」
「ま、待って!愛香!」
二人は町の突外れまで飛んで行った。影の源にたどり着いたストロークは一瞬で影を蹴っ飛ばした。ストロークの連続キックで影は倒れた。
「止めさしてやる!」
その瞬間、でっかい影は潜んでいた他の影達と合体した。それを見たストロークが唇をぐっと噛んだ。
「しまった、罠かっ!」
「愛香、後!」
「!」
後から影に作られた手がストロークを狙った。手はストロークを握った。ストロークが影の手の平に消えた。
「愛香!」
神様は肝を冷やした。危険も忘れ、影に近づいた。そこで見たのは、影の薬指を持ち上げているストロークだった。
「負けてたまるかっ!」
愛香は一本背負いで影を引っくり返した。
「マジプロ!ストローク・アット・ワンス!」
影の体に地震が起きた。半分になった影が割れた。ストロークは舞い降りて、ほっとため息をついた。額の汗をクールに拭うその姿に、神様は惚れて、憧れて、仕方なかった。
「なにぼうっとしてる。」
「え?」
「次は手伝って欲しい。パートナーでしょう?」
「パ、パートナー?」
パートナー。それは、背を預けられる者。心と心から通じ合う仲間。その単語、何て良い響であろう。
「まかせて!僕、一生懸命愛香を守るから!」
「では、これからよろしくね。」
「うん!」
変身を解いた愛香は遊園地の大きい時計を見た。もう六時。銀河の町へ帰る時間だった。
「残念だわ。もっと遊びたかったのに。」
「遊べばいいじゃん!」
「それは駄目。六時までの約束だったから。そろそろ明日の準備もしなければならないし。帰ろうっか。」
「ま、待って!」
神様が愛香の手を掴んで、指をならした。そうしたら突然、空からハート模様の花火が揚った。
「綺麗!」
「愛香、これが僕の気持さ。」
「神君、でも、私は、まだ…。」
「すぐ答える必要はない。ただ、僕の本気から目をそらさないでくれ。」
ちょっと戸惑った愛香は、その言葉にやっと安心した愛香は優しく微笑んだ。
「うん、ありがとう。」
二人は銀河の町に戻った。お風呂した愛香は部屋のベッドで横になった。眠ろうとしていた愛香の耳に、小さな音が聞こえてきた。人けを感じた愛香は部屋のドアを開いた。
「誰だ!」
「びっ!」
そこにいたのは神様であった。
「…くりしたぁ。」
「神君?どうしてここに?」
「…会いたいから。愛香と一瞬も離れたくないから。」
神様の言葉に愛かはきゅんとした。
(どうしてだろう、ただの子供の言葉なのに。大人になったら、すぐ忘れられるはずなのに。)
二人はお互いをそっと見つめた。その空気に絶えず、神様は話を始まった。
「でも、愛香が出るとは予想できなかった。不思議なぐらい、愛香の行動は読めないんだ。」
「神様なのに?」
「そう呼ばないで。」
「なら?」
「神ってよんで欲しい。」
二人は星達が溢れだす空を眺めた。ちょっと寒くなった時、愛香は神様に問いかけた。
「ねえ、眠たくない?」
「神は寝ないんだ。」
「ダメだわ。寝不足になっちゃう。」
「いや、そんなわけ…。」
愛香は両腕を伸ばして、そっと微笑んだ。
「御出で。」
「え?」
「ねんねんしてあげる」
神様は憑かれたように愛香の胸に抱かれた。
「ねんねんころりよおころりよ、ぼうやはよい子だねんねしな…。」
愛香は子守唄を歌った。その優しい歌声に、神様はそっと、目を閉じて、眠りについた。