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第二十八話 ≪PRESENT SEVEN。超越(完)≫

「愛香さん。愛香さんは愛香さんのやりたいことをやればいいと思います。」

「私のやりたいこと?」

「はい。そしていつか、やりたいことが見つけたら、自分勝手に生きればよろしいのではないでしょうか。だってわたくしは、どんな愛香さんも大好きですから。」


言葉の袋を結んだみかさは、悔しげな顔して、すぐ愛子たちを追い掛けた。先までみかさたちが立っていた場所を寂しそうに見つめた。


「本当、戦士失格だわ。」


愛香はゆっくりと家の柱に触ってみた。柱を掴んでる手の甲に額を当てて、愛香は泣きそうに笑った。


「私、この時間を生きていけないかも。」


自らの終末を称えた少女はふと顔を上げて窓を見た。雨風が開けた窓の向こう、吹き荒れる風はいずれ部屋のカーテンをかき回した。強い風が瞼を叩いた。反射的に閉ざされる目を前、小手をかざした愛香は窓を閉めて雨風を防いだ。散らかされた部屋の中は、窓に鍵をかけてもそのまま。だから愛香は仕方なく部屋を片付け始めた。


「これは…?」


ついに風はテーブルの上の物を落した。自分の宝物を取ろうとした愛香は、裏返されたテープを見て居竦まった。テープのB面に確かに書かれてる『遺言』は、母の書体であった。愛香は震える手でカセットテープを入れて、再生ボタンを押した。


「ねえ、愛香ちゃん、そこにいるの?」


摩擦力が生む機械音と時々の破裂音。その後ろを次ぐ、慣れすぎたがもう会えない声には、優しさがたっぷり込められていた。


「おかえりなさい、愛香ちゃん。辛いことたくさんあったけど、ママは信じていたの。愛香が絶対、帰ってくると。」


いつのまに走り出した足はもう止められなかった。滑った靴のせいで、転んで、血を流しても、落したラジカセだけが心配だった。丘の下、茂みの上乗せられたラジカセは、懐かしい声を再生し続けた。


「愛香ちゃんは優しいから、きっと悩んでいると思う。それでも大丈夫。また生きていける。」

「お母さん…。」

「一番大切で、なにより難しいのは、自分を受け入れて、信じて、乗り越えることだから。」


小高い丘だが、切断面は鋭い。崖を向いて、よろけながらも、手を伸ばした。でも、届かなかった。ああ、そう。やはり、最初から手が届く場所はない。


「愛香が生きていく時間にお母さんはもういないけど、大丈夫、きっと生きていける。だって…。」


それでも、握り締めて、噛み締めて、待ち続けたら、よろけながらも立ち上がれる。きっと掴める。だから走り続けて、手を伸ばし続ける。


「愛香の可能性は無限大に輝いているから!」

「オカアサン!」


欲張りが食べ物を貪るように、愛香は丘の下を向いて腰を屈めた。届かない思いを掴むためどんどん手を伸ばした。転げ落ちる寸前手にいれた星の形、金色のラジオカセット。古くなって色褪せたとしても、希望は消せないから。もう愛香はなにも怖くはなかった。


(自分の行く道や生き方。本当にもしも、私の道を私が選べるのなら。)


愛香の手に触れたラジカセは金色に染まった。金色のオーラは重力を逆らい、愛香を舞い上がらせた。


(これからもみんなを守っていく。だって…。)


母の跡を追っていた視線は、いつのまにか自ら光り出した。


(だって、それが私だもん!)


ラジカセを取り、手にいれた瞬間、少女の限界が壊れた。


「マジプロ、限界超越!」


光に包まれた黒い髪はいずれ金髪となった。黄色いフリルがスカートを華麗に飾った。限界を越えた少女はまたの技を得た。少女の時間が動き出した瞬間、足首についてるカゲの時間は凍結された。生意気だったカゲのかけらが凍り付いたまま慌てるのは随分面白くて、ストロークは大声で笑ってしまった。


「お待たせ!」

「愛香さん?!」


月を向いて少女は舞い上がる。銀色の光を浴びる少女は、月がささえ後景にした。


「タァーッ!」


宙返りしたストロークはそのままカゲを足で踏んだ。蹴られたカブッタカゲだちはドミノのように次々倒れた。


「わあ…。」

「今よ、愛子ちゃん。」

「え?」


親しい呼び方に、クラッシュはぼうっとした。やっと正気を取り戻したクラッシュは手に桃色のオーラを纏った。カゲの動きを止めていたインターセプトやエリミネートは素早くさがった。


「マジプロ、クラッシュ・ザ・シャドウ!」


地面は不思議だ。エネルギーを込めた拳をうちおろすと、壊れる当時にのぼってくる。それはまるで地球の裏側の生き物が残した足跡みたいで、銀河の町の人々はその跡を『蜥蜴の足』と呼んだ。


「ふわぁ…。」

「はい、おつかれ。」


ストロークはつかれて座り込んだクラッシュに手を出した。パチパチと瞬きをしたクラッシュはちょっと迷って、すぐ笑った。手を差し伸べて姪を助け起こした叔母は、そっと手を上げた。クラッシュはその手の平に軽くハイタッチした。今度は迷わず、真っ直ぐ。


たとえ道を失ったとしても、手を取り合い、助け合える仲間がいるなら、どんな時間も生きて行ける。だから私たちはこの救いのない世界をただ歩いていく。


少女も、あなたも、きっとそうだろう。


第一部、完。

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