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第二十八話 ≪PRESENT SEVEN。超越(1)≫

崩れた聖域、立ち上がる少女。




第二十八話 ≪PRESENT SEVEN。超越≫




「起きなさい、愛子。7時だよ」

「いやだよ…。」

「ほら、愛子。」

「ねむたい…。」


仕方なく起きた愛子は目を擦って、慣れてない声の持ち主を見た。


「え。」


愛子は驚いて目をパチパチする。まだ現実を認識できない脳が認知的不協和を呼び起こしただろう。


「な、なんで愛香さんがここに?」

「なに寝惚けてるの。ここに誘ったのは、あなたでしょう?」

「そうだった!」

「早く起きなさい。さもないと学校に遅れますよ?」

「そんな!」


今日も遅刻したら、3日連続朝食抜き。せめて今日だけは朝ごはんを食べるふりをしたくて、愛子は急いで階段をおりた。


「『なんでここにいる』か…。」


そっとつぶやいた愛香は寂しそうな笑顔を浮かべた。


「私、ここにいてもいいのかな…?」


愛香は壁にゆっくりと背をつけて座り込んだ。ため息をつく時間はない。穀潰しにならないため、頑張らないと。


「愛子、傘を忘れないで。」

「今、晴れてるけど!」

「今日は時々雨なの。天気予報をチェックしなさい。」

「天気?」


これなら役に立てるかも。そう思った愛香は新聞を探しに駆け付けた。以外と新聞は探せなかった。庭も空っぽ、神様だけが待っていたように愛香を追い掛けたが、軽く無視してドアを閉じた。


(おかしいだわ…。)


愛香は首を傾げた。だって、あの頃は誰もが新聞を取っていたから。新聞のない家庭がいるとは思わなかった。


(まさか、以外と貧しい生活をしているとか。)


テレビを見ている愛音の夫を見た愛香は、すぐその仮定をくしゃくしゃにした。新聞よりテレビのほうが値段が高いのは、誰だって知ってる真実だった。


(週間天気とか教えてくれないかな?)


タイミングが悪かったか。ニュースは崩れた妄想帝国をうつしていた。画面から離れた愛香は頭を横に振って雑念を消した。


「ふむふむ。」


空は少し曇っていた。愛香は雲読みや星読みが趣味だった。いつかの夜、長老さえ予想しなかった台風を読み、皆を避難させた事は、愛香の誇りであった。


「今日は晴れるわ。」

「愛香姉、今、何か言った?」

「天気のこと。どう見ても雨、降りそうではないわ。」

「え…?」

「あ、そうだわ。神君に聞いてみたら…!」


視線を交わす親子を見て、愛香は言葉に詰った。


「私、変なこと言ったかな?」

「いや、その…。」


ぎこちなく笑う二人を見て、愛香は首をひねった。二人は愛香に色々説明したが、愛香は微妙な表情で笑うだけ。百回も聞くより、一回でも見る方がわかりやすい。そう思った愛子はポケットからスマートフォンを出した。


「ジャジャーン!」

「そって、小型テレビ…?」

「これこそがまさかのスマホです!」

「マホウ?」


愛香は青ざめた顔色をした。かなりショックを受けたようなった。


「そんな、この時代の人たちは魔法まで使えるようになったの…?」

「いやいや、そうではなくて…。」


頭を掻いた愛子は、早くスマートフォンに命令した。


「Hey、Siri!今日の銀河の町の天気は?」

「銀河の町では現在曇っていて、気温は28℃です。」

「誰だ!」

「ひーっ!」


反射的に拳を振るう愛香から大事なスマートフォンを守るため、愛子はすばやく三歩さがって、ブリッジポーズをやるように後ろに反った。ちゃんと後ろ手に隠してから、スマートフォンを確かめた。


「無事でよかったぁ…。」

「気配を隠しても無駄よ、早く出てこい!」

「あの、伯母さん。これはAIシステム、つまり人工知能だよ?」

「じ、人工知能?!」


より青白いような顔で、愛香は独り言を言った。


「AI秘書なんて、愛音、すごいお金持ちになったよね…。」

「私は普通のアロマセラピスト。あれはみんな一つずつ持っている機械だよ。」

「え、そうなんだ…。」


頷いても慌てた気配は消せない。もしかしたら、愛香よりもスマートフォンの方が忍者に近いかも知れない。


「それより。」

「え…?」

「愛子、遅刻よ。」

「ええええ?!」


愛音は時計を指でさした。もう8時、朝とは言えない時間。愛香と話し合う間に、時間は流れ出した。全力で走り出す愛子の背中に、愛香は手を振った。


「学校か…。」


懐かしい響きが口のなかで甘く広がった。


「愛香姉も行きたいの?」

「私は今ちょうど四十歳でしょう?もう生徒にはなれない年だって、ちゃんとわかってるわ。」


とは言え、本当は何もかも混乱していた。自分が見失い自分の物でなかった時間を、大人になった少女は受け入れなかった。目が笑ってない姉をみて、妹はそっと笑った。そして小さな姉の頭を撫でた。


「さすが、よくわかってるね。」

「ちょっと、子供扱いしないで!」

「いいじゃない、可愛いだし。」


愛香の体年齢はお年頃だった。姉の時間が止めてる間、妹は時間に育てられた。時を養分にした妹はいつのまに姉の背を越えていた。


「ショッピングしてこない?」

「もう、なんでよ、急に!」

「愛香姉の服、とっくに捨てたし。ずっと愛子の服を借りるのも失礼だし。」

「でも…。」

「口答えしません。はい、これ。」


愛音は姉にカードを与えた後、部屋に入ってしまった。大きな妹を捕まえない姉はため息ばかりついた。


「年上の妹なんて、これじゃ音音のほうが姉みたい…。」


愛香は愛子の服を着て、家を出た。朝からずっと愛香を待っていた神様が素早く愛香のそばへ飛んできた。


「何処へ行くんだ、愛香。」

「多分、ショッピングかな。でも私、おしゃれは苦手で…。」

「なら僕に任せろ!」

「神君に?」

「ああ、誰かに騙されてファッション雑誌はお見通しだ!」

「それって、音音のこと?」

「…まあ、な。でも役に立てばいいだろう?」

「そうね。じゃ、一緒に行こう。」

「よっしゃ!」

「ただし、デートではありません。」

「そんな!」


だが、片思いに文句はなかった。二人は一緒に出かけた。一つ、大きな問題があった。それは、二人のファッションのカタログが、90年代に立ち止まった事。


ショッピングの後、愛香は新たな服を着て学校を通りすぎた。すれ違う噂とひそひその話も、愛香は気にしなかった。だって、いつも愛香は皆の憧れで、誰もが愛香を追い掛けたから。


「あ、みんな!」


走り出す愛香の後ろ、あざ笑いがついてきた。誰もが愛香を見て、腹を抱えて笑った。チェックパンツと大きなフリルのパワーショルダーブラウスの上、厚いカーディガンを巻いている愛香は、気狂いや間抜けのようだった。


「こんにちは!」

「はい!こんにちはです!だからこっちへ!早く!」

「えっ?」


皆、後ろから押し前からサポートしながら、慌てて愛香の手を引っ張った。


「もう、なんでこんな服着てますか?」

「流行ってるナウいなおしゃれじゃん?」

「ナウいって…。」

「そのファッション雑誌、いつ発売されたっすか?」

「え…?」


やっと、愛香は目を覚ました。ここは、愛香の時間ではなかった。流れてしまった青春と、会えなかった間に大きくなった家族と、突然『大人』と呼ばれてる自分が情けないほど可哀想で、愛香は凍り付いたように立ち止まった。


「大丈夫です。返品しましょう。何処で買いましたか?」

「そんなに、おかしいの…?」

「いやいや、なんと言うか、もっとアップデートできそうだし。色々手伝わせてください。」

「私を?手伝う?」

「はい。今のおすすめのコーディネートは、これです!」

「へえ。」


スマートフォンにうつした服より、愛香はスマートフォンそのものに興味を持った。


「これ、押したらどうなるの?」

「わあっ!それ、アプリの削除ボタン!」


騒ぎを治めた後、愛子たちは駅に行った。駅員を探して声を上げる愛香を止めて、愛子は券売機へ向かった。数分後、愛子はぴっかぴかなICカードを手に入れた。


「はい、ICカードゲット!」

「わぁ、すごい…!」


券売機と愛子を見物していた愛香ははっと気がついた。


「ちょっと、大変だわ!」

「どうしました?」

「これ、大人用でしょう?」

「そうですが…。」

「私、中学生だけど、まだ12歳だから、小児用を買わないと!」

「いや、その、伯母さんはもう、大人でしょう?」

「私が…?」


首を傾げた後、体に染み込むショックにたえられなくて、愛香は唇をかみしめた。


「そ、そうだった…。」


愛香はむりやり笑った。姪を追う愛香はがっくりと肩を落とした。それが気の毒なので、神様は顔をしかめた。

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