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第二十七話 ≪PRESENT SIX。リワインド(2)≫

「どうしますか?」


町を守る自警団は、朝の騒ぎを話していた。


「本当に、彼女が戻ってきたと言うなら…。」

「いや、嘘に決まってます。いくらマジプロでも、カゲの王に飲み込まれた人は救いません!」

「でも彼女には神様がついています。なにがあっても、彼女を敵にしては行けません。」

「このままでは、また町がばらばらになります。」

「仕方ない。まずは彼女の様子をこの目で確かめないと。」

「それはぜひ教えてもらいたい。」

「お、お前達は!」


長老の杖が震えてきた。杖の先がしるす者はゆっくりとわらった。


「女帝の居場所、聞かせてもらおうか。」


放課後を楽しむ暇もなく、町には警報ベルが響いた。


「ったく、帰り道に襲撃だなんて!」


愛子は口にたくさんの文句を口に乗せた。


「もう、なんで幹部達は消えたりしないの?愛香さんを救い出したら、ハッピーエンドになるべきじゃない!」

「しーっ。」


愛子を振り向いたみかさは人指し指を口に当てた。愛子はまだ膨れっ面だが、黙るしかなかった。だって皆、愛香を隠すため、丘を上ってるから。


藪を漕ぐウィルヘルミーナを道標に、愛子とみかさは愛香を支えたまま道を上った。愛香は今、自らは歩けない状態であった。


「ここっす、この『焼け家』なら大丈夫っす!」

「…なんだ、その美味しそうな名前は。」

「へへっ、自分がつけたっす!」

「それ、褒めてないから。」


家のまわりに火事の焼け跡が満ちていた。町にこんな場所がある事は愛子も知らなかった。転校してきたみかさには言うまでもない。


「怪しいけど、仕方ねぇな。」

「確かに、何が何でもここまでは来ないよね。」


みかさと愛子は愛香を運んだ。意識のない人はまるで荷物のようで、愛子達は愛香をおろすため気をつけた。


「じゃ、行こっか。」

「はいっす!」

「気をつけて、伯母さん!」


三人は変身して、神様が幹部達と戦っている場所へ急いだ。


「伯母、さん…?」


だれも気づかないうち、姪の言葉を聞いた愛香の瞳が、本の少し揺らめいた。


「おせぇ!」

「うっせな、アホ神!」

「みかさちゃん、失礼っす!」

「かまうものか!」


みかさはかなりむかついていた。せっかくストロークを助けたのに、正気をうしなっていた。救ったと思ったら、また敵が現れた。聞きたいことがたくさんあるのに。まだ、ありがとうってちゃんと伝えてないのに。


「八つ当たり、させてもらう!」


一方、愛香は心を奪われたように、枯れ木に触れた。そしては倒れそうな廃虚に引かれてしまった。


「これは…?」


そこで愛香が見つけ出したのは、いつも持ち歩いた星形のラジカセ。慣れていたから、思わず巻き戻して、再生ボタンを押した。


「愛香、聞いてるのかい…?」

「みなみお婆さん!?」


愛香の瞳が激しく揺れた。瞳の奥、懐かしい過去が写された。森が蘇った。火事もなくなった。いつのまに、昔々のある少女が、家族と共に笑っていた。


「愛香、聞いて欲しい。町が襲われた日、他の戦士達は皆、自分の町をまもることが精一杯であった。」

「そんな!」


愛香は自分が倒した強敵を思い出した。だから納得できない。そんな簡単なことさえ出来なかった者なら、理解したくもない。


「なんであんな弱い者達が、戦士となって…!」

「儂のしる愛香なら、今頃怒ってるじゃ。」

「っ…。」

「汝に出来る事が、人には限りなく難しいこととなる。それが、それぞれの人生じゃ。」


謹厳実直な声が愛香を責め付ける。


「許そうとは言わん。だが、決して怒りに身を任してはならん。汝は誇らし汝のままいて欲しい。」


幻が手を伸ばす。あの手を捕まえたら、この時間から自らを消せるだろう。甘い誘惑に惑わされたが、手を下ろす長老を見てやっと気がついた。:なにをしても、歪んだ時間はもう戻せない。


「じゃ、また会う日まで…。」


見慣れた過去が消えてゆく。懐かしい時代も消えてゆく。流れる落莫の中でカセットが残すのは伸びたテープが紡ぐ小さな電子音だけ。


「行ってらっしゃい、愛香。」


多分、録音が終ったみたい。自動にリワインドされるカセット。巻き戻される時間の果て、唇を噛んだ愛香はそっと顔をあげた。町へと走り出す足跡に、もはや迷いはなかった。


「なんだ。妄想帝国の時と同じじゃねぇか。」


切れた唇から流れる真っ赤な血を拭い、インターセプトは神様をあざ笑った。神様の論理が正しいなら、帝国での幹部達のパワーは二倍。だから、銀河の町での戦いは簡単なはずだった。


「なにが半分の力だ。ぜってぇ嘘だろ、それ。」

「黙れ。」

「はいはい、神様の言う通り。」


だが、インターセプトは知らなかった。今の幹部達に『どんな気持で戦っている?』と聞いたら、きっと『死ぬ気』だと答えるはず。事情は急迫だった。だから彼らは歯を食いしばった。


「って、あの人は?」


クラッシュ達はすぐ愛香に気づいた。だって、あの永遠のような長い髪は、誰にも真似できないから。


「愛香?!」


少女は戦場を見てはスピードを落とした。ゆっくり近づいてくる少女を見て、敵も見方も動きを止めた。まるで時間が凍り付いたよう、だれも動かなかった。


「危ないから離れてろ、愛香!」


愛香は目を閉じたまま、体を躱して走ってくる神様をよけた。その動きを認識せず駆けつけた神様は虚空を抱いた。口を尖らせた愛香は倒れそうな神様になにげなく強烈な不満を表明した。


「勝手に飛びかかってこないで。不機嫌なのよ。」

「愛香?」

「もう、冗談じゃないわ。私が気を失ってる間、ずっと触ったりして。」

「本物の愛香だあぁぁ…。」


神様は心から安心してしまった。たとえ届かない思いだとしても、なによりも彼女の事が大切だった。愛香の無事を確かめた今、神様はもはや思い残すことはなかった。


「さて…。」


愛香は幹部達を向き合った。彼らの体は放置された古い布のようにぼろぼろだった。彼らは妄想帝国でインターセプト達と戦った後、回復する暇もなくここまできた。


「まったく、無茶しやがって。」


舌打ちする愛香に、三幹部はむしろ頭を下げた。心の底から湧き上がる真っ直ぐな尊敬だった。


「あなたを迎えに来ました。」

「帰りなさい。」

愛香の声がそっと震えた。それは、脅しよりは頼みのような音色だった。


「お断りしますというなら…?」

「そうね。ならば。」


愛香が姿を消した。驚きに気づく前、ヘイトは激しい肩痛を感じた。やっと気づいたのは、振り上げてた愛香の足が、いつのまに自分の肩へ放たれた事。振り下ろした踵に蹴飛ばされたヘイトは爪先に力を入れて地面との摩擦力を利用した。それでもヘイトは何歩も後ろに引かれていた。変身もせず幹部を吹き飛ばすなんて恐ろしい戦闘力だろう。


「ヘ、ヘイト?!」


ハザードが目を逸らした。刹那の判断で愛香は光速で駆け回り、ハザードの後ろを殴ろうとした。反射的に体をねじって、ハザードは固めた拳を飛ばした。愛香はハザードの手首を捕まえた。その後、一瞬で捕縛を右手に持ち替えた。そのまま宙返りした愛香はまたなる反動でハザードをフィルムのもとへ投げ出した。一回の攻撃で二人が倒れた瞬間、ヘイトは敗けを予感した。


「もう一度言う。」


愛香の声は、もう揺れていない。


「帰らせるうちに帰りなさい。」

「…一先ず『今日』は帰ります。」


ヘイトは肩を押さえて帝国への道を開いた。空に切り裂いたポータルは全てを吸い取るように口を開いた。飛び上がるヘイトは地面に突っ込まれた仲間を連れて戻った。しばらくの沈黙の後、クラッシュ達は変身を解いた。


「あの、愛香さん?」

「本当に、愛香さんっすか?」

「ええ、本物ですわ。それより…。」


愛香がそっと、悲し気な表情をしてみた。


「私、誤らないと。あなたたちにも、町のみんなにも。」

「絶対駄目だ。まずは治癒に専念しろ。話はそれからだ。」

「でも…。」

「これだけは譲れない。約束しないと放してくれない。」


愛香の腕を捕まえた神様は強気でわがまま。愛香はため息をついた。酷い頑固さに愛香は心ならずも頷いた。満足した神様から解き放たれた腕を見て、愛香は自由を味わった。こうやって体を動くのは大変久しぶりだった。


「ねえ、愛香さん。おうちに帰りましょう!」

「オウチ?!」

「さあ、はやく!」


神様がショックを受けておる間、愛子は愛香の手を掴み走り出した。あっというまに愛香を奪われた神様は遅れて飛び上がった。その姿を眺めるみかさとウィルヘルミーナは視線を交わし、笑いあった。

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