表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/35

第二十七話 ≪PRESENT SIX。リワインド(1)≫

いまさらを、なおさらに。




第二十七話 ≪PRESENT SIX。リワインド≫




インターセプトの戦いでやっと生き残ったハザードは積み重ねた黒い山にゆっくりと近づいた。デリュージョンは脱皮だけが残って、たまに自分の存在をしらせるため蠢いた。


「デ、デリュージョン様…!」

「あれはデリュージョン様ではない。女帝、いや、愛香様の悲しみの結晶である。」

「でも、やっとデリュージョン様の永遠を手にいれたじゃん?」


ヘイトはフィルムの皮肉に眉をひそめた。


「もはやデリュージョン様とわかれる事はない。あんたの願い通りじゃん。ああ、なんと羨ましい。」

「黙れ。」


だが、フィルムだって楽しいだけではない。クスクスしながらも、目は笑ってない。本当は、彼女も崩れた帝国の事にほろ苦さを味わっている。ハザードも複雑な表情でため息をつく。


「けれど、カゲを消せるものはなにもない。そこに光がいる限り、カゲもいる。」


ヘイトは真面目な顔でデリュージョンの粗皮を見つめた。愛香呼び、アンシンがかぶせた痛みと苦しみが、今はごみのように捨てられていた。


「だからこそ、迎えに行かないと。」



地球の上、いくつの町が自分のせいで消えた。いくつの大陸と海が荒れた。それを自覚するたびあまりにも辛すぎて、愛香は記憶を自分で排除することになった。


愛子達や妹、神様の声も全部聞いてないことにした。なにも答えず窓の外を向いたままぼうっとしていた。たまに愛子達に視線を移したが、すぐつかれて眠りについた。神様はそんな愛香をお姫様もようし抱いて、ベッドまで運べて、横にした。布団をかけなおしてやってから、神様は部屋を出た。


「愛香を助けてくれてありがとう。お礼を言う。」

「ただ、それだけ?」


言うまでもないと肩をすくめる神様を見たら、愛音は腹が立った。


「姉が今まで何人の未来を奪ったと思ってるの?」

「別にいいじゃん。愛香元に戻ったようだし。」

「いいじゃないのよ!」


声を張り上げる愛音を、神様は興味のない視線で見つめた。愛香を取り戻した今、神様の耳にはへつに説得も非難も届かなかった。


「姉は地球の敵みたいなものなの。愛香姉を受け入れるのは、姉の罪まで許すことでしょう?」

「それの何が悪い。」

「戦争になるかもしれないのよ!」


愛子達はショックを受けた。戦争と言う言葉の重さを思い知っていたから。だが、神様だけはなにげなく腕を組んだ。


「愛香姉に家族や仲間を消された人々が、姉が力を失ったことを知ったら!」

「ああ、そうだな。お前は、愛香がカゲに食べられたままでよかったか?」

「違うのよ!」


小さな火種は結局、口喧嘩となった。タバコの火が山を燃やすように、争いは続く。


「姉の過ちを認めなさい。姉の罪は深い。それを頭ごなしに受け入れるな。」

「そりゃ、他のマジプロのせいではねぇか!」


以外と爆発したのは、ストロークの大ファンであるみかさだった。


「約束さえ守らなくて、愛香さんを化け物にして!」

「愛香姉は自らのカゲに飲まれたのよ!」

「やめてよ、二人とも!」


愛子は仲裁しよとした。だが、二人には愛子の声が届いてなかった。


「自分の心さえ押さえきれない者は、戦士失格なのよ!」

「戦士、失格…。」


後ろを振り向くまでも愛音達は、身の毛がよだつ感覚を恐ろしいほど思い知った。いつ起きたのか、倒れるように欄干にもたれて、愛香は泣くように笑った。


「あ、愛香!」


あまりも慌てた神様はどもりはじめた。二階への階段を駆け上る神様は一瞬、自分の飛行能力も忘れてしまった。


「な、なんだ、起きてたか。はやく言ってくれたらよかったのに。」


神様は愛香を慰めながら部屋に戻った。よろけながら部屋に向かう愛香の後ろ姿を見て、神様は大変むかついて唸り声を張り上げた。


「これで満足したか?」

「いや、私は…。」


慌てる愛音と怒る神様の中、三人はサンドイッチの中のたまごとハムのように挟まれてた。だが、子供たちがなにより先に食べるのはハム。噛み締められるのは、いつもじっとしていた者である。


「お前らも同じだ!」

「え?」

「これからうちに来るな!」

「な、なぜそんな話になるの?!」


だが疑問は神様に及ばず消えた。神様が部屋にもどった時、唇を噛んでいた愛音も外へ出てしまった。愛子は母を追い掛けた。愛香の事が気になったみかさは座ったまま待ち続けた。


(『ウチ』っすね…。)


そしてウィルヘルミーナは神様の限定的な優しさと言葉遣いによって考えていた。いつも冷たかった瞳は、愛香への声で満たされていた。


(これじゃ、今夜も眠れないそうっすね。)


ウィルヘルミーナため息をついた。愛子はもう母を追い掛けて、知りたいことがいっぱいあるみかさはずっと座っていた。その日、神様は部屋の外に足を入れなかった。


「愛香?」

「…。」


愛香は確かに狂っていた。それはもやは客観的な真実だった。だれもいない場所をじっとみたり、突然笑いながら涙を流したりする。でも、ふと正気に戻った時は泣きわめくながら自分の腕を爪でかいた。


「私、化け物。」

「愛香!」

「人々を何人もカゲに閉じ込めて…!」

「彼らを殺したのはマジプロだ!」


見ていられなかった神様はついに話してはいけない事を口にした。


「だか生きていこう。全部忘れて、知らないふりをして、生き続けよう。なあ、頼むから!」


ぼうっと神様を見ていた愛香が笑う。神様も笑い返す。


「それより、あなたは誰?私の知り合い?」


神様はもう笑えなかった。拳を握り締め、願い通りの今を呪い続けた。とにかく愛香は神様にずっと声をかけた。たとえそれが目的の外れた話だとしても、神様はそっと安心した。


「愛香、そろそろおやすみの時間だぞ?」


愛香は頬を膨らして、意地っ張り首を振った。


「どうかしたのかい?」

「夜はカゲだらけ。それがいやなの。」

「カゲが、怖いのかい?」

「飲み込まれそうだから。」


むっと沸き上がる悲しみを押して、神様はやっと落ち着いた。そして、愛香のそばで横になり、子守唄を歌いはじめた。


「ねんねんころりよおころりよ、ぼうやは良い子だねんねしな…。」


星さえ眠りについた夜、神様は愛香の寝顔を見た。また失うことが恐ろしいぐらい幸せだった。痛いけど嬉しい。怖いけどありがたい。この狂気に近い感情を押さえられなくて、神様は愛香の名を何度も呼び続ける。



「アハハハ…。」


まるでアレルギーが出来たよう。人々が浴びる視線がこんなに痛くなれるなんて。授業をさぼりみかさ達と逃げ出した以後、いじめにはなれたと思ったのに。北極へ向かったフェネックのように、適応するにはまだ早いかも。


「みんな、こっちを見てる…。」

「ひそひそが重なったらこんなに大きな声になるっすね。」

「まあ、あの日からずっとこのままだから、べつに気にしてないけど、なんだかアイドルになった感じ。みかさちゃんは毎日こんな視線を感じていたかな…。って、みかさちゃん?!」

「こら、文句あんなら俺に言え!」


突然飛び出したみかさが大声をだした。今でも喧嘩を売りそうなみかさを止めるため、二人は彼女の両腕を掴んだ。そのうち、アリの群れのように集まっていた人たちはばらばら散らばった。残されたのは、勘が鈍い男の子が一人。


「えっと、あの、その…。」


男の子が泣きべそをかく。その姿は、街灯、藩塀、藩塀の後ろから全部見られていた。色々な場所から降り注ぐ視線、皆が一人の背中を押す甘酸っぱい空気。ウィルヘルミーナなその味がかなり苦々しい。


「もし、聞きたいことがあるっすか?」


近づいてくるウィルヘルミーナを見て、男の子はしゃっくりを起こした。怖すぎて後退りさえ出来ない姿はかなり気の毒だった。


「大丈夫っす。全部打ち明けるっす。いじめられているのなら、このお姉さんがぱっとやっつけてやるっす。」


改めて、ウィルヘルミーナは『一人はみんなのために』と言う言葉が大嫌いだった。みんなのため一人を隠れみのにする薄い下心。その後『みんなは一人のために』と哀悼する姿は、かなり惨いだったから。


「いや、その…。」


ウィルヘルミーナが敵ではないとわかった男の子は、迷いの果てそっと口を開いた。


「この町に、デリュージョン様が戻ってきたの?」

「はあ?!ふざけんな!だれが…!」


ウィルヘルミーナは手を上げてみかさの言葉を切った。


「そんなこと聞いたっすね。それが気になったっすか?」

「うん。だって、ママが言ってくれた。デリュージョン様は、元々優しい人だって。町のため何度も命をかけたって。でもみんな、それを忘れちゃって…。」

「大嫌いになったっすね、愛香さんの事。」


ウィルヘルミーナは男の子の頭を撫でた。だが、愛香の名前を聞いた人々はより大きなざわめきを紡いだ。頭の波を遡って、何人ども顔をあげた。


「デリュージョンは世界の敵だ!」

「デリュージョンのせいで、町のみんなが嫌われてるの!」

「はいはい。その寸前、デリュージョンに味方して楽に住んだのはもう忘れちゃったっすね。アナウンサーから総理まで、人と向き合う事は全て銀河の町の人だったっすけど。もう価値がないから捨てるっすね。」


ウィルヘルミーナはちらっと辺りを見回した。皆、ぎくりとして、また顔を下げた。もはや壁しか見えてない。


「ついこの間まで利用してもらって、昔々には何度もカゲから救われて。ならば普通、恩返しぐらい思うはずなんすよ。」

「それは…!」

「いや、恩返しなど欲しくないっす。でも、ずっと祭った存在なら、せめて背を向ける事はやめてくれないっすかね。」


町の人は密かにデリュージョンを祭った。愛子の父こそ、生きている証拠だった。三人はそれをよく知っていた。だって、その祭りに止めを刺したのは、愛子達であった。


「さて、二人とも、早く行かないと遅刻っすよ?」


町の人々からは何の返事もなかった。子供の頭を撫でた後、ウィルヘルミーナはまた学校を向いた。皆が見て皆が心に刻んだ今は、いずれ噂となり町中に広がった。愛する者を守ってくれた戦士への尊敬となって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ