第三話 『PAST TWO。プロ増殖計画。』
あの時の、君を止めたなら。
第三話 『PAST TWO。プロ増殖計画。』
「…で、大変だったんですよ。あの時、神君に助けて貰って本当に良かったぁ-。」
愛香が神様をちらりと見た。神様は何も言えず、少しは照れそうな顔でご飯を食べていた。神様からは何の返事もなかった。もう待ちきれない、そう思った愛香が神様に声をかけた。
「ねえ、神君、何も言ってくれないの?」
「そうです。神様、どうして私達にこんな力を下さったんですか?」
「教えてください!」
水に落した石が沈んで行く音に耳を傾けるように、皆、神様の答えを待っていた。その中でも一番目をキラキラさせたのは愛香だった。
「神君、お願い!」
「ううっ…!」
そのきらめきに負けちゃった神様は結局ご飯を諦めた。長いため息の果てで話は始まった。
「そう、俺は愛香たちが生きている星、地球の神だ。」
(愛香?お前じゃなくて?)
突然かわった呼び方に愛香はちょっと驚いた。だが、今までお前だと呼んでのは自分一人でいる時だったので、外の町の戦士達が帰ったらまたお前と呼ばないか、と思うだけであった。
「そして俺を追ったのは俺の逆、つまり俺に反対する、名前のつけられていないものだ。」
「反対するものって、名前は?」
「だから名前つけられていないってば。」
「じゃ、UN神ね。」
「安心だと?」
「神の反対、だからUN神だよ!」
「まったく…。愛香は相変わらずネーミングセンスゼロだな。」
「だから、そのUN神に襲われてるって?」
「アンシンじゃないってば。」
「いままで一人で頑張ってきたね、神君。」
「全然聞いてないし!」
愛香は神様の言葉を無視して外の戦士達を見た。二人は新たな力ではしゃいでいた。
「ねえ、この力なら影から町の皆も守れるよね!」
「うん、うん!絶対そうだね!」
嬉しそうな彼女たちとは違い、愛香はなんだか寂しそうな顔をした。
(大丈夫かな。大きな力では大きな犠牲が必要なのに。もし、私の所為で、あの子達が巻き込んでしまったら…。)
心配になる愛香の心を知ってるのか、みなみは固い表情で愛香をみた。神様は何も知れずに、首をかしげていた。
「バイバイ!」
「またね!」
「あ…う、うん!また、いつか!」
愛香と神様は二人の戦士を町の境界まで送り届けた。惜しく手を振る愛香とは違い、神様は空を飛んでるだけだった。
「今からマジプロを増えて行く。」
「マジプロ、増える?」
「つまり『プロ増殖計画』だ!」
「はあ?」
呆れた愛香が眉根をひそめた。神様がいう言葉は訳わからないし、皆には迷惑をかけてしまったし。色々ご機嫌ななめだった。
「神君はマジプロ、これ以上に増える計画?」
「そう、だけど?」
「それやめて。私一人で頑張るから。」
「神ならしらないが愛香たち、人には限界があるじゃん。」
「そりゃ、そうだけど…。」
言い渋った愛香は、思い込んで、真っ直ぐな瞳で神様を見た。
「…ねえ、神君は私がいなくてもマジプロを増えるつもり?」
「え?」
「ならば、私が手伝う方が絶対よい。」
「そ、そうだよ!俺は愛香にその役を務めて欲しい!俺と共に影を倒すマジプロ補を探し出そう!その旅の中、愛香の仲間も探してあげるから!」
「ナカマ…?」
「そう、愛香にも仲間が必要じゃん。」
「私は仲間なんていらない。」
「って、なんで?」
愛香がもじもじ、答えを迷った。瞳は心に沈んで静かだった。そっと横顔を見せる愛香を、神様は理解出来なかった。
「…理由はない。ただ…。」
愛香はいいかけてやめた。夕日は水絵のように空に染み、雲を紫色に染まっていた。夕日の色に濡れた太陽の光が愛香の顔をゆっくり染めた。
「私帰る。」
愛香は笑うしかなかった。その笑顔は、どんなにつらかったのだろう。その笑みが寂しいと気付いたら、そんな悲劇は起らなかったのだろう。
次の日、町の入り口で会う約束をして、神様はみなみの家に、愛香は自分の家に帰った。そして時間はまた朝を呼んだ。
「やあ、愛香!」
「神君、こんにちは。」
愛香が落ち着いて挨拶した。なぜか淡い笑みがおさまっていた。
(愛香、昨日の夕暮から元気ないな。何かあったのかな?)
神様は心配だったが、時々ないも言えずそっと追い掛けることが一番だと知っていた。だからこそもっと、わざと、元気溢れる声で愛香に話をかけた。
「なあ、今日は何処行ってみようか。」
「さあ、な。」
「この町、どの町に続いているのかい?」
「先ずは。東には花の町がいて…。」
「青竜か!いいな、そこにいこうぜ!」
「青竜って、もしかして?」
「そう、東西南北の四神のことさ。東は青竜、西は白虎、南は朱雀、北は…。」
「玄武だよね?学校で学んだわ!」
「やるじゃない、愛香!」
「こう見えても学年トップなんだよ?」
目をキラキラする愛香は普段の様子をしていた。それがなんだか嬉しくて、たまらなくて、神様は涙滲んでしまうどころだった。
「そう、じゃ、はなの町へ出発だ!」
「うん!じゃ、変身するね!」
「わかった!」
行く前、愛香はマジプロに変身しなければならなかった。まあ、いつもみたいに素手で影をぶっ倒してもいいだったけど、一刻もはやく花の町へ行きたくて、変身して飛んで行くことにした。
「マジプロ!時空超越!一瞬で敵を飛ばせ、ストローク・プロミネンス!」
瞳には星の色が宿り、黒色の神が金色に染まる。変身した彼女はまるで、外国の少女みたいだった。
「ほら、神君。」
「え。」
「おいで。抱いてあげる。」
「ええええ?」
ストロークが明るく笑った。神様は想像も出来なかった事だったが、ストロークは弟みたいに神様を思っていたから何気なく抱くことが出来た。
「お、俺も飛べるけど…。」
「でもそれ、力沢山使うんだよね?」
「どうしてそれを…?」
「前にいったんじゃん?皆の愛がいなくちゃ力使えないんだって。」
「でも、男女の仲、その、抱きつけるなんて…。」
「男女?って大人と子供でしょう?」
「子供じゃないし!」
とにかくストロークは神様を抱いて花の町まで飛んでいた。舞い降りてきたストロークが変身を解いた。
町は色んなはなでいっぱいであった。愛香は目を煌めいて花畑に近づいた。
「ああ、花の町、ひっさしぶり!」
「ひさしぶりって、愛香は町の外によくいかないのかい?」
「町の戦士だもん。町で皆のことまもらなきゃ。」
「ちょ、そりゃひどいんじゃ-」
神様が理不尽な町のルールを指摘するまえ、あの遠くから薄い声が聞こえてきた。
「愛香?」
「莓!」
愛香は雑草を手さげかごにいっぱいもっている女の子、莓に駆け付けた。
「久しぶり、愛香!」
「本当、何年ぶりだね!」
二人はきゃあきゃあして手を取り合った。神様はそれをみて、変だとおもった。
(こんなに嬉しそうなのになぜ仲間作りは嫌がってるんだ。)
神様が二人を見ている時、愛香が彼の話を出した。
「ここに来るの、町の皆が許してくれたの?」
「いや、それよりもっと上つ方が許してくれた!」
「それってだれ?」
「ほら、神君!」
「え、おれ?」
「そう、紹介するね。こっちは神君。地球の神なんだ!」
「ええええ?神様?!」
「なに驚いてる。まったく、人間どもは愛香を除いておんなじだからな。」
驚く莓を見て神様が舌打をした。
「ね、ね、愛香。どうして神様がうちの町までいらっしゃったの?」
「それが…。」
愛香は今まで起ったことを短く切って、食べやすく話してくれた。学年トップの話は理解やすくて莓はすぐ二人が来た理由がわかった。
「ねえ、莓、マジプロになって欲しい!」
愛香がポケットからカードよみを出した。それを見た神様は愛香の手を取った。
「愛香、良く考えてくれ。マジプロにはそれほどの資格がないと…。」
「でも、莓はこの町の戦士だもん。私の友達でもあるし。」
愛香は神様に顔を近づけた。
(ち、ちかっ…!)
顔が真っ赤になった神様は後ろへ退った。
「わたった。愛香の友なら…。」
「やった!」
愛香はマジプロのことを親切に説明してくれた。色んな話しているとき、なれた声が聞こえてきた。
「葡萄の町の紫っす!祭りの葡萄っす!」
「この声、もしかして-」
「あれ?莓じゃないっすか。そのそばには…。」
「さきちゃん!」
愛香は紫の元へ飛んできた。
「ちょ…。葡萄が苦しんでるっす!」
「あ、ごめん、ごめん!あまりにも嬉しすぎて!」
「僕もうれしっす。でも葡萄はまもるっす!」
「相変わらず葡萄愛いっぱいだね!」
「ねえ、紫、どうしてうちの町にきたの?」
「お忘れっすか?今日は葡萄の町のお祭りっす。外まで葡萄を伝えるのは僕しかない、そう決まりっす。」
「たしかに、外は影いっぱいだからね。」
「そうだ!さきちゃんも一緒にマジプロやろう!」
「愛香、そんなにでたらめにマジプロさせたら…。」
「この子も葡萄の町の戦士だもん!」
「戦士多すぎ?!って言うかネットワークでもあるのかい?」
「だってみんな仲間だもん!そうだね?莓?さきちゃん?」
「だよね。」
「そうっす。」
「ったく…。」
三人は顔を見合わせ笑った。
「じゃ、葡萄食るっす。」
その時、何処から悲鳴が聞こえてきた。三人仲よく話しているあいだ、でっかい影が現れたのだ。
「まさか私達が休んでる間に影が…!」
「そんな!」
「だから戦士達は一瞬もあそべないっす。」
「ちょ、愛香とお前ら、何を言ってる。戦士だって少しは休んでもいいじゃない。」
「でも本当だもん。ほら、今だってこんなことに…。」
「だからって一瞬も休まず戦わなければならないって、悲しすぎるんじゃない!」
「その話は後でしよう。今は、変身よ!」
愛香が二人を見た。二人はカード読みを持って、粗っぽく立てた。
「出来るかな…?」
「う、うまく行くっす!」
「マジプロ!時空超越!一瞬で敵を飛ばせ、ストローク・プロミネンス!」
「マジプロ!時空超越!何処まで花を咲かせ、ストロベリー・プロミネンス!」
「マジプロ!時空超越!紫で地を染まれ、パープル・プロミネンス!」
「うわっ、やったっす!」
「本当に変身しちゃった!」
「皆、いくよ!」
三人は野猪のでっかげを見て空から降りてきた。ストロークは野猪のでっかげを見たから、すぐでっかいボウリングボールを作った。
「マジプロ!ストローク・アット…!」
「だっ、だめっ!」
ストロベリーがストロークの前に立ちはだかった。
「ストロベリ─?」
「お願い、そんなに大きなボールを転がしたら、花畑が…!」
「え。」
ストロークは慌てた。そのうちボールは消えて、でっかげはストロークを頭でついた。
「ちょ、なにしてんのかい?愛香がやられたじゃない!」
神様は二人に腹を立てた。あの遠くまで飛ばされた愛香は、崩れた岩の中でとじ込まれていた。
「自分の花畑だけ思って、欲張りで、だからお前ら人間どもは…!」
神様は二人にぱっと声を出してストロークの元に飛んでいた。そしてはそのちいちゃな手でストロークを取り出すために石を移し始めた。
「ど、どうしよう…。」
「心配いらないっす。僕たちなら必ず勝つっす!」
パープルがストロベリーの手を取った。ストロベリーの心が、なぜか、満ちてきた。でっかげが今度は二人を狙い襲ってきた。それを見て、パープルはストロベリーに囁やいた。
「いいっすか?三で飛ぶっす。」
「わかった。」
「一、二の…。」
でっかげが二人に飛びかかった。
「三!」
その瞬間、二人は空に舞い上がった。でっかげはそのまま木にぶつかった。首を振るでっかげはすぐ、とんでもないスピードで舞い降りる二人のキックに真っ二になった。
「やった!」
「イェイっす!」
二人はハイタッチした。喜ぶ二人の後ろ、小さい二つの影が起きて二人の後ろを狙った。
「二人ともよくやった。」
その瞬間、何処かで金色いテニスボールが飛んできて、影を完全に消した。
「でも、これからは後片付けに気をつけなさい。」
神様とストロークがゆっくり二人の元へ歩いてきた。ストロークはテニスラケットを持っていた。
帰り道、神様は愛香に小さく囁やいた。
「あの二人の中、誰が仲間でいい?」
「ねえ、あの二人、いい感じじゃない?」
「って、それってつまり…。」
愛香は笑うだけだった。でも、確かに二人は今日をきっかけにもっと仲よくなれていた。
「ああ、仲間探しはだめだったか。」
「いいじゃん。二人仲よくなれたし。」
三人と神様は町の入り口で止った。
「葡萄食べながらゆっくり話はできないっす。」
「そうね。私達、戦士だもん。」
「いつか、地球から影がなくなる日がきたら、その時もっと話し合おう。」
紫は葡萄を分かち合えた。莓は花束を皆にあげた。
「神様」
莓は神様の耳元に囁やいた。
「これはアネモネです。赤いアネモネの花言葉は、『彼方を愛しています。』です。」
「って、もしかしておめえ…!」
「神様、頑張って!」
愛香と神様は銀河の町に帰った。愛香はお母さんと妹を心配し、はやく戻ろうとした。
「じゃ、またね。」
「ちょ、待って!」
「何?」
「一緒にいってあげる。」
「…ふふ。わかった。ありがとう、神君。」
神様は何も言えず愛香を追い掛けた。愛香の家までついた時、神様は、勇気を振り絞って、愛香の前に立った。
「愛香。愛香の心には負けた。愛香はすごい。今日だって、二人を心配してあげたんだな。岩から出てから何もせずに二人の戦いを見守って、二人にお互いが必要だと思って二人を仲間にしてあげた。俺だったら俺のことだけ思って、きっと俺の仲間だけ探した。でも愛香は違う。いつも外の人たちを先に思う。それはきっと、女神の元徳。だから…。」
神様が花束を愛香に捧げた。
「頼む、僕の嫁になってくれ!」
返事はなかった。愛香は困った顔で神様を見た。弟だと思っていた神様がこんな気持だった何て、全然知らなかった。
「え、と、あの、私のこと、誉めてくれてありがとう、でも…。」
「バァカ!愛香姉は彼氏あるのよ!」
窓から顔だした愛香の妹、愛音が神様を馬鹿と呼んだ。馬鹿呼ばわりされた神様は、ぼうっとして愛香を見つめた。
「か、か、か、彼氏…?」
「そうだ。愛香姉見たいな持て持てさんに彼氏いないとおもった?」
「本当かよ、愛香!」
「そんなの作る暇なんてありません。」
腕組みをして、愛香が首を横に振った。愛音は神様をみてにこにこ笑っていた。
「お前ぇ…!」
「べえーだ。」
神様の腸が煮えくり返った。神様は愛音に悪口を浴びせた。
「このっ、影より酷いやつ…!お前なんか影に飲み込まれて影の女帝になれっ!」
「神君、私の妹に何の呪い?もう、最低よ!」
愛香は腹を立て、家の中に入った。愛香の背に手を伸ばした神は、閉じたドアの前でうつうつ頭を下げた。
「こんなはずじゃなかったのにぃ!」