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第二十六話 ≪PRESENT FIVE。告白(1)≫

時間を忘れた者に告げる愛歌。




第二十六話 ≪PRESENT FIVE。告白≫




「クラッシュなら大丈夫っす。」


エリミネートはインターセプトの肩に手を置いた。拳を握り締めていたインターセプトが、そっと手を開いた。


「少し遅れるだけっすから、待ってくれればいいっす。」

「分かってるさ。ってゆうか、離れろ!」


照れ屋さんのインターセプトにボディタッチなんて無理。その暑くてしつこい愛情を蹴落とせない理由は、それが絶えない『励まし』であることに気づいているから。


「素直じゃないっすね。本当は嬉しいっすね?」「いや、全然。」

「良かったら神様も、みかさちゃんを抱いてくれないっすか?」

「ってそれ、絶対にいやだし!」


深い混乱の中、神様は一言も話さない。違和感を覚えたエリミネートは神様を振り向いた。空気を読めないインターセプトまでその心遣に気づくぐらい、心配を塗り重ねた視線。


「神様、どうかしましたっすか?」

「あの時のストロークさ。」


今度はインターセプトが反応した。むりやりそっぽを向いてたインターセプトはあっと言う間に目色を変えた。


「あいつの名をかたるやつは当然殺すべき。けど、あの力は確かにあいつのものだった。」

「ってゆうことは…。」


突然の寒気が会話を後終えられた。ふと脳裏を掠める不安が、皆を同じ場所へ向かせた。鳥肌を立たせた力が、あまりにも慣れていたから。


「時が、止まった…?」


蛾の羽ばたきも彼を狙っていた蝙蝠も凍り付いた。森の外、チャレンジの結界のかなた、ただ無慈悲な咆哮だけが虚空を切り裂いた。


「おい、阿呆神!これはどういう事だ!」

「神様、もし叫びの意味がわかるっすか?」

「ああ、確かに…。」


叫びに注意を惹きつけられてきょとんとしていた神様はその哮りの意味がわかった瞬間唇を噛みしだくしかなかった。


「マジプロの未来を奪いたい…。」


神様の見事な翻訳が沈黙を生んだ。今のデリュージョンが抱いた憎しみが、どれだけ重いのかわかった以上、安い慰めは役に立たない。


「お~い、みんな~!」


遠くから聞こえてくる三拍のさわやかな足音じゃなかったら、きっと皆ため息ばかりついていたはず。


「この声は…。」

「出来?!」


戦いの後の走りがいくらの無茶かわかってる二人は急いでクラッシュを迎えた。息切れをしながらでも全力で駆け付けた理由は、心配させたくないから。ようやく皆と会えたクラッシュは膝に手を当てた。


「ただいま!」


クラッシュはやっと顔をあげて、大きく深呼吸をして、当たり前なように笑った。そんな彼女の額から汗が吹き出ていた。一粒の汗が抱いた努力の意味がわかるから、二人はそれ以上小言を並べなかった。


「お帰りっす!」

「おせぇ。」

「あれ、『ものすっごく心配した』ってことっす!」

「こら、勝手に言直すな!」


火に近づいた子供のように、湯たんぽを一時間も抱いていた生徒のように、インターセプトの顔は真っ赤に染まった。りんごみたいな甘い茜色に二人は笑うしかなかった。


「ねえ皆、クラウンは?」


クラッシュの心配はご無用だった。エリミネートが両手でクラウンを捧げ持った。インターセプトは指の上にクラウンを乗せたままくるくる回した。ちりばめた宝石は色とりどりが、三人ともクラウンを手に入れた。


「パワーアップ、大成功っす!」

「イェイ!」

「まあ、大したこともねぇし。」


あのインターセプトまで燥がせたお祝いの時を邪魔したのは、チャレンジであった。


「実に見事な戦いを見せてもらった。だが、脅威は終わらん。若い戦士たちよ、汝の向かうべき時は、過去ではなく今である。」


森厳な話が空気を凍らせた。呼吸のたび、肺を刺される感覚。固まった雰囲気にやすらぎを取り戻せたのもチャレンジだった。


「さあ、行け。未来を救うのだ!」

「はい!」


葉っぱを連れた銀色の風が道を開いた。吹いてきた風に願いを乗せて、皆が妄想帝国へ急いだ。



(どう思っても、あり得る話じゃねえ。)


あの日、存在してはいけない者が現れた。崩れるステージからみかさを救った恩人はきっと幻ではなかった。チャレンジが見せてくれた過去がそれを証明してくれた。


(近づいているんだ、あの日の真実に。)


インターセプトが拳を握り締めた。みかさを助けてくれた天使は切ない声で最後をつけた。


『ミライで、待っているよ…。』


未来で会うなんてあり得ない。だが、現時でも会えない存在は出会いを確信した。倹しく使った時間の中、確かに声は届いた。訳さえわからない、意味不明の言葉は、なぜ心に響いてるだろう。


「大丈夫っすか?」

「え?」


エリミネートのうれわしげな声のため、インターセプトは正気を取り戻した。


「無理はだめっす。よかったら、すこし休んで…。」

「いや、休まない。俺には知りたい真実がある。だからこのまま飛んでいく。」


大きな羽ばたきでインターセプトはエリミネートを追い越した。もはやクラッシュや神様よりも進んでいる青の翼をみて、エリミネートは首を横に振った。


進めば進むほど大地の色は深まった。闇だけが包み込んだ寂寞に皆は飛込んだ。城の目鼻が付くほど、カゲの攻撃は激しくなった。皆は反撃せず攻撃を躱した。その源が確かになった今、カゲたちにはなるべく生きて欲しかった。


(カゲを消すのは、人を殺す事と同じ。)


カゲはどこから生まれたのか。皆が黙ったが、皆が知っていた。だからこそ邪魔されない線でカゲから抜け出した。


「あいつの部屋はあっちだ!」


神様は三人を皇宮の奥に導いた。戦士としても、人の羽ばたきは神に及ばず。いつもよりも急ぐ神様を追うため、三人は羽ばたきのスピードを早まる。


「そこまでだ。」


三人が向き合った妄想帝国の幹部たちは、手鏡を見ながら笑ってるフィルム、筋肉で力こぶを作るハザード、そして冷たい目線で招かれざる客を見下ろすヘイトだった。彼はかつてみかさの父をカゲにして、ステージを台無しにしたことがあった。だからこそヘイトはインターセプトが遮二無二かかってくると思った。


「ったく。待っていたように登場しやがって。」

だが、眉をひそめたインターセプトはヘアゴムを口に咥えて、風がばらついた髪を髪を束ねるだけだった。すぐ怒らない姿にむしろ彼が驚くぐらいだ。


「おい、阿保神。」


全て結び直した後、インターセプトはいらいらする表情をして、神様を振り向いた。


「ここは俺たちに任せろ。」

「はあ?何言ってんだ?」

「約束、したんじゃねぇか。」


やっと思いついた、ある一瞬の約束:チャレンジに連れていてくれるなら、最後の戦いで愛香と会わせてあげる。けど、本当に約束を守ってくれるとは思えなかったから。今の状況が信じられない。


「そうっす。いくっす!」

「神様、頑張って!」


驚きが神様の口を黙らせた。でもすぐさま、神様は舞い上がった。ずっと会いたかった人に会うために。


「逃がすか!」


怒りに満ちた声がした。後ろから吹く風はただものではない。


「あの方は決して渡さん!デリュージョン様は僕たちだけの女帝だ!」

「…!」


誰よりも強い気配がクラッシュを狙った。勢いよくかかってくる拳を止めるため、クラッシュとヘイトの間、神様が現れた。


「か、神様?」

「ほどよいこと勝手に言いやがってさ。」


拳を掴んだまま、神様はヘイトをあざ笑った。


「前からむかついてんだよ!」

「…それは、デリュージョン様のことか。」

「正直、あいつにはテメエより俺の方がにあってんだよ。」


クラッシュはぼうっとして二人を見た。かなりやばい空気が二人を包んだ。


(こ、これは、どういうこと?!)


幹部が愛香さんに恋をしたって、一度も聞いたことなかった。巡り廻る好奇心の洪水の中に沈んだ愛子を神様が呼び起こせた。


「おい、お前!」

「え?」

「何してんだ。早く行け!」

「わ、わわわ、私ですか?」

「『必ず救う』っていったんだろう?」

「それは、そうだけど、神様は…。」

「うっせぇ。世の中大人の事情ってことがたくさんあるんだよ。わかったらぐずぐずすんな!」

「は、はいっ!」


結局、地下に向かう階段は愛子の行き先になった。戦場を後にして翼を広げた愛子は『飛び上がる』より『飛び降りる』と言う文章とふさわしい。


「とにかく急がないと…!」


地下へ向かう愛子を、一滴の人影が迎えた。ちょっと羽ばたきを止めて、舞い降りた。近づいてくる足音に戦いを決める瞬間、慣れた人と出会った。


「お、お母さん?!」

「まあ、愛子じゃない。どうしてここに愛子がいるの?」

「お母さんだぁ…!」


愛子はちょっと慌てて、何度も戸惑って、とうとう愛音の胸に抱かれる。母は娘の様子を見てすぐわかった。この子まで母の罪を数えるようになったことを。


「会いたかった、会いたかったんだぁ!」

「だからって、こんな所まで来てはいけない。町の外は危ないでしょう?」

「もう子供じゃないもん!私、ちゃんと知ってるんだ。デリュージョン、いや、愛香さんが、お母さんの姉であることも!」

「アレはもう愛香姉ではないの!」

「お母さん…?」

「愛香姉はもうなくなった、この世にいないんだ!」

「いるよ!」


驚きの果て、愛音は娘の肩を掴んでいた手を放した。自分の否定を否定しる娘を誇らしく、だが苦しく母は見つめるのであった。


「最初にあって時、愛香さんは私の頬を撫でてくれた。攻撃するまでは、すっごく優しくしてくれた。ああ、怒らないで。攻撃したのは私。だからきっと、驚かせてしまったんだ。」

「でも…。」

「こうして戦う事になったけど、愛香さんは心を見失っていない。今、ここにいるお母さんがなによりも確かな証だよ。」

「証?」

「お母さん、無事でいられたし。」


愛子の笑顔を見た愛音は、やっと気づいた真実に身震いをした。もし、デリュージョンが意志のない、ただの感情のかたまりだったら、愛音はもう殺された。試し切りのような皆殺し。血塗るの刃の先に何度も映されても、また生き残った理由。それはきっと、家族だから。まだ、愛されているから。


「本当は、会いたかったでしょ?帰ってほしかったでしょ?」

「無理よ。カゲに惑わされた者は、決して救えない。」

「やってみなきゃ」

「出来るわけ…!」

「あるよ!」


もじもじする母の頬を、愛子はそっと撫でた。顔をあげてしまったのはきっと、伝わってくる愛子の温もりが、あんまりにも優しくて。なのにどうして、心が揺れてしまうのだろう。


「『出来』と書いて、『ダキ』と読む。出来る限り皆を抱きしめる。それが私の、お母さんの名字。」

「愛子…。」


躓くたび波立つ罪悪感。よろけるたび失う足音。不自由な歩みを笑われると、あの頃の不平等な結果を呪った。時の中とじ込まれて、いつのまに悔しさの中を漂ったりした。


「だから。」


母の放した手をぎゅっと掴み、娘は笑った。


「諦めないで、お母さん。」


何か溢れ出す。なぜか止まらない。今ながす涙は、いったい何時から来ただろう。過去の痛みが蘇って、心の外へと滲み出してしまった。だから今は泣いてしまおう。子供のように、えんえんと泣いてしまおう。いつかの自分に『さよなら』を告げるため。

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