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第二十一話 『PAST ELEVEN。終章。』

あの日の約束を、信じなかったら。




第二十一話 『PAST ELEVEN。終章。』




「私、アンシンを倒しに行く。そう決めたんだ。」


ストロークは他の町の戦士たちを訪ねた。彼女らに会うため旅立ったストロークは色んな町の戦士たちと会った。


「どうか私がいないうち、銀河の町を守って!」

「うんうん!もちろんだよ!」

「私たちに任せて!」


花の町のマジプロのストロベリーやパープルも、その対象となった。


「私たち、愛香のおかげで仲間になれた。町を守れる力を手に入れた!」

「それは全部、愛香のおかげ。だから、今度は恩返ししたい!ううん、恩返しさせて!」

「二人とも…。」


花の町を含む全ての町の戦士たちは愛香の友だち。愛香のおかげでマジプロの力を手に入れた見方。彼女らが愛香の頼みを引き受けないわけがない。


「なにがあっても銀河の町を守って見せる!絶対の約束だよ!」

「ほら、指切りしよう!」

「指切り?」

「はぁやぁくぅ!」

「ま、まあ…。」


ずっと姉として、戦士として生きていた愛香に、『指切り』なんて、気まずい感じ。女の子は時間を越えて少女になった。子供の時を経て、いつのまに大人になってしまった。手の平溢れ落ちていく子供時代は、少女に喪失を残した。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます!」

「もう、子供じゃないのよ。」


子供っぽいな言葉や行動。その全てに慣れてない愛香は、歌が終わるとすぐ手を離す。当然の持ち物を手放す。


「じゃ、帰ろうか。」

「…。」

「神君?」

「なんで愛香が頭を下げたりする!」

「え?」

「愛香が与えた絆だ。愛香が与えた力だ!断りは裏切りだろう?なのになぜ愛香が頼みなんかしている!」

「神君。」

「人間ごとき頭を下げるな!命令になれたらよい!だって、愛香はいずれ僕の女神にー。」

「神君。」


突然の沈黙は恐ろしさを呼ぶ。返事の重さは数えきれない時間の分、増えていく。


「告白の返事、して欲しい?」


当たり前だから、いやだ。時間がたっても、振られちゃうことには慣れないし。心の準備もしてない。だが、やはり、冗談のようなオッケーより、まじめな断りが欲しい。真剣な心の声を、聞くしかない。聞いてもらいたい。だって、どんな返事をしても、恋は変わらない。


「私ね、小さい頃からずっと一人で、強がって。でも、そうするしかなくて、それしかなくて。私にしか出来ないことだから。誇りだって、大丈夫だって…。」

「愛香?」


愛香はそっと唇を噛んだ。どこから来た悔しさだろう。いつからした慰めだろう。時が重なって作り出した苦しみは


「今は答えられない。でも、もし、この戦いが終わったら…。」


そよ風が愛香の頭を撫でる。靡く横髪が頬をくすぐる。髪をかきあげたら、鮮やかになる微笑み。彼女の笑顔を見られた喜びは、簡単には消せない。いや、消させない。だから『今』は、それだけで十分。


他の人間が心配になるが、きっと彼女らは裏切らない。愛香に導かれた、愛香の仲間だから。愛香の魅力は皆を虜にする。それほどの強い輝きを、愛香は持っている。だから、きっと。


「なあ、愛香。」


あの日の夜空は、どれほど眩しかったか。帰り道の追い風や、手に届きそうな月がさ。雲を越え切り開く二人だけの道。


「愛香はきっと負けない。心を折らせない。だって…。」


目を閉じたら、もっとすなおに感じる温もり。輝く温度も愛しいけど、やっぱ、目を覚まさないと。だって、あなたが見えないから。


「愛香の胸の中には、天の川が流れてるから。」

「天の川?」

「人は誰だって心の中に星を持っている。それぞれの形や明るさは違うけど、僕にはわかる。どれもこれも、一つの『星』だって。」


愛香を見る時はいつも、魂を捕らわれた感じがする。胸ぐらを捕まえたよう、愛香だけを向いて、何歩も前へ引っ張られる。不思議な感じ。でも、嫌いじゃない。


「僕には見える。愛香の可能星が、可能性の星が、数えきれないほど咲いてるとこが。」

「可能性の星、可能星?」

「うん。それは愛香だけに切り開ける、億を越える未来。強く望めば引力に導かれる一番星。愛香のなりたい自分、会いたい未来。」

「なりたい私と会いたい未来…。」


彼女にもわかる。足下にはたくさんの夢が広がっている。どれを選んでも、すばらしい人生になると信じている。それだけ、彼女は自分の人生を愛していたから。


「私は私を信じ、愛している。だから私は私の可能性を信じる!」


自慢の生き方、誇りの出来事。おそろく偉そうに見えてしまうプライドは、誰にも折らせない。決して負けない。


「愛香。」


神様はストロークの肩に額をあて、彼女を抱いた腕に少し力を込めた。


「今の愛香の可能星、めっちゃ輝いている…。」


その煌めきに目が眩んだ神様は、愛香に頼ってしまった。嵐が来ようとも、あの翼だけは折れない。その輝きは消せない。誰もが悪に染まる時が来ても、最後まで咲き誇る唯一無二の炎。そう信じてしまったのは、過ちだろうか。


「ふう。」


たどりついた影の王国。ふうっと深呼吸したストロークは顔を上げ、前を見た。王を守る無数な手や足が『今』でも襲い掛かるそう。


「じゃ、行こっか。」


少女は失いから生まれる怖さを知る。だからこそ、震える手を握り締める。影達の前を立ちはだかる少女の願いはただ一つ:これ以上、人を影に変わらせない。


「モード・ナイト!」


『今』の少女が落ちても、いつかの誰かはその勇気を受け継ぎ、またこの場所へ舞い降りる。少女は負けない。少女を覚えてくれる人が、一人でもあるのなら。


「はあっ!」


彼女の羽ばたきはいくつの影を溶ける。黒い涙はきっと、蒸発した誓いや、守れなかった命、忘れられた名前と繋がってる。届かない祈りは、服や靴についたガムのようにしつこく足首をかじりつく。取り方は以外と簡単。その存在の記録まで消せばいい。


「どけぇ!」


額に汗が流れる。息切れが止まらない。『今』、殺してる思いはきっと、過去から繋がった愛。跡形もなく踏み躙る。正気でいられる理由は、踏んでる命の分、それ以上の命を、友を、家族を、町を、守れたいから。いや、そう信じていたから。


もしも『今』の誇らしい動きが、未来へ運ぶ悲しみになると知っていたとしても、彼女は同じ道を選べたか。今は、わかることができない。ただ、散らばった希望の先、待っていた冬を、人々は今でも覚えている。

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