第十八話 ▶FUTURE NINE。お母さんはマジプロ?真っ黒なアイテム!◀
黒く染められた、あのプライド。
第十八話 ▶FUTURE NINE。お母さんはマジプロ?真っ黒なアイテム!◀
激しい風がクラッシュの眉を皺ませた。右も左もわからないまま、クラッシュ達は前へ進んだ。そんなクラッシュを、インターセプトとエリミネートが追い掛けた。
エリミネートは一人で神様を助け起こしていたが、それは彼女の我が儘だった。『クラッシュとインターセプトは道を探して欲しいっす。』と彼女は言った。本当は神様と二人きり話したい。その気持ちを、クラッシュ達は何となくわかったが、今度だけエリミネートの優しい嘘に騙されたふりをした。
「大丈夫すか?」
そっと首を回したら見える、すごく傷付いた顔。最愛の者に裏切られた今、神様はどんな気持ちだろうか。想像も出来なかった。
「あんまり大きな怪我はなさそうっす。」
倒れそうに、神様は歩み続ける。振り向かない黙りはエリミネートの苦しみだった。今でも折れそうな心を引き締めて、エリミネートは神様にまた、声をかける。
「無事で何よりっす。」
「無事なんかじゃ…!」
すぐ声を上げて、すぐ後悔する。神様はエリミネートの痛そうな笑顔に、結局、また口を結んだ。
「町に戻ったら、うちに訪ねて欲しいっす。」
「俺だって居場所ぐらいある。」
「せめて、傷だけでも癒させて欲しいっす。」
「いらねえ。同情すんな。」
「安価な同情なんかとは違うっす!自分は、ただ…。」
「恋心、だな?」
「いや、あの、自分、そこまではっ…!」
「くだらないもんだ。」
悔しかった。やっと本音を吐いたのに、自分の気持ちまで馬鹿にされてるみたいで、苦しかった。でも、心深く傷付いた彼には、きっと、優しい心や愛しい話が何も届けないって。だから、もっともっと大きな愛で包まなければならないって。
「デリュージョン、すか?」
神様の足が止まった。
「あの人の笑顔が見たくて、頑張るんすか?」
「己れとは関係ねえ。」
立ち止まった神様の鋭い声は、エリミネートの心を躓かせた。
「俺は彼奴と共の未来へ行きたい。一人の未来なんて、意味がない…。」
「一人じゃないっす!」
エリミネートの叫びが、大空に響いた。
「一人ぼっちの自分も町の一員。そう教えてくれたのは、神様っす!」
友達が欲しいって、神様に毎日祈っていた。でも神様はこう言った。もう、お前はこの町の一員だって。いつも、一人ぼっちじゃなかったって。
「だからこの気持ち、軽く見ないっす!」
エリミネートが瞳を光らせた。天の川の溢れる瞳を見ていた神様は、ため息を吐いた。
「まったく…。」
何分後、砂煙から四つの人影がやっと抜け出した。その後ろにあったポータルはもはや塵旋風の中へ掃滅した。
「皆、無事?」
「ああ。」
「こっちも、大丈夫っす。」
もう変身する必要はない。そう考えた三人は変身を解いた。愛子、みかさ、最後にウィルヘルミーナまで変身を解いた瞬間、神様がウィルヘルミーナの目の前まで飛びかかった。
「ちょ、何を!」
「二人とも、待ってるっす!」
熱くなったみかさと比べ、ウィルヘルミーナは凍り付けるほど冷たかった。冷静に考えたら、傷の深い神様が三人を襲う理由はなかった。ウィルヘルミーナの考えのように、神様はすぐ座り込んだ。
「神様!」
「ちぇ、力尽くしたか。」
「はやく病院に…!」
「おい、俺、神なんだ。人間の力で治されるはずねえだろう。」
「だとしても!」
ウィルヘルミーナは心配そうな顔で神様に近づいたが、神様はそんなウィルヘルミーナを押し退けた。ようやく立ち上がった神様はウィルヘルミーナを振り向いた。
「おい、己れ。」
「じ、自分すか?」
「俺の事好きなのかい?」
「は、はいっす!」
「なら強くなれ。」
「え。」
「今の攻撃、彼奴だったらきっと避けた。」
その言葉だけ残して、神様は自分の空間に。消えた跡を見るウィルヘルミーナは、ちいちゃく呟いた。
「自分、大丈夫っす。」
切なく笑う。笑顔にいるため、頑張る。
「本当っす。」
同じ時、妄想帝国では三幹部が話し合っていた。
「あの町、ちょーむかつくけど!」
女の幹部、フィルムが苹果より赤いルージュを塗った。
「経済や文化が復興したのは全てデリュージョンさまのおかげでしょう?」
フィルムの文句に、ウエートトレーニングをしていたハザードも頷いた。
「そう、それは否定出来ない。」「否定するまでもないわよ!先生も、芸能人も、総理さえ銀河の町の人じゃない!まるで銀河の町の人だらけ!」
「我々が他の町の人々を全てカゲ化したから、残ったのは銀河の町だけ。当たり前のことだ。」
「なのにデリュージョンさまを裏切って!」
沸き返る怒りをどうすることも出来なかったフィルムが、握り締めた拳で鏡を叩き潰した。血走る目にはもう、復讐しべきの敵しか入らなかった。
「まあ、落ち着け。」
更なる男の幹部、ヘイトが数歩前に出た。彼の後ろに、女帝・デリュージョンが立ていた。彼女の登場に他の幹部達は跪いた。
「デリュージョンさまっ!」
悲しみを絶えず狂ってしまった女帝・デリュージョン。彼女は色んな表情の仮面を回し、今の状況に混乱を示していた。そうすべきであった。女帝・デリュージョンは神様に怒ったけど、彼を排除するつもりではなかった。なのにヘイトの嘘に騙された神様は、本当に妄想帝国を裏切った。つまり、女帝・デリュージョンにとって、神様は突然の裏切り者になってしまったのだ。
「デリュージョン様からの伝言だ。もう神さえ我々の敵。」
「それって、もしかして?!」
「ああ。今こそ、我々の力を見せる時。」
ヘイトが後ろを向き、女帝・デリュージョンに跪いた。
「デリュージョンさま、どうかご命令を。」
「かげるるるる…。」
仮面達を回していた女帝・デリュージョンは、すでに一つの感情を決めた。彼女が被った仮面を見て、三幹部達は驚いた。
「まさか、表に立つ考えですか…?」
ヘイトの顔が真っ青になった。同時、ハザードとフィルムはその覚悟に限りなく喜んだ。
「キャー!デリュージョンさま、素的!」
「やっと本気になってもらいましたな!」
「駄目です!」
「げる?」
ヘイトの叫びに、突然、空気が固まった。
「危ないです。どうか僕達にお任せ…。」
「げるるるる!」
「だしかに、今、神はいないですが…。」
「げる!げるるる!」
『地球の神はもう我らの見方でない。こんな時、私が足を抜いたらどうなる。』と、女帝・デリュージョンは言った。神様が裏切ったのは全て自分の所為だって知っていたから、ヘイトは何も言えなかった。
「げるるるる!」
女帝・デリュージョンは銀河の町へのポータルを作り出した。そしてパレードが始まった。闇が幕を開け、踊るように前へ進んだ。
「妄想帝国だ!」
「逃げて!」
「誰か助けて!」
女帝・デリュージョンは歩む。歩んで行くだけで、世界は真っ暗闇に塗られ変わる。走っていた人々は、女帝・デリュージョンを過ぎ去る事でカゲになる。町が、悲鳴に満ちてる。
「マジプロ、マジプロはまだか!」
「それが、三人ども見えていないので…。」
長老や町の人達はマジプロを待ち焦がれていた。だが、彼女らは今、神様との戦いや、滅ぶ世界から抜け出したばかりなので、なんとか山をおりていた。
「くそ、彼奴らだけ信じてたのに…!」
そして、誰かに頼る者の末路は、甘くなかった。
「ど、どうすれば…!」
「隠れろ!誰もいないふりをするんだ!」
長老の声は何処まで届いたか。それを証明するように、デリュージョンが彼らを向いた。空から、目と目があった。
「こっちに向かっています!」
「ちょ、長老!」
「どうしますか?」
でも、もはや長老もパニックになっていた。長老は後じさりする途中、倒れてしまった。怖さが体を遅配して、足が動けなかった。
(もう、終りか…!)
その瞬間、目映き光が煌めいた。美しい金色の輝き。その光に神様も、愛子達も気付いた。
「あれは?!」
神様は腫れてじんじんする傷口を無理やり押した。そしてふらつきながらも一歩、前に出す。神様の目には驚愕と希望が混ぜられていた。
「ストロークの力…?」
神様と愛子達四人が町へ向かう時、長老は開いた口が塞がらなかった。長老を庇ったのは、誰でもない、愛子の母、出来だったのだ。彼女は真っ黒な変身アイテムのカードリーダを手に持っていた。
「あのアイテムは?!」
「真っ黒な色、間違いない!呪われた戦士のカードリーダだ!」
「もう、煩いから!」
愛子の母、出来は歯を食いしばった。
「信じられない。まだ呪いの事言うとは。」
「でも、そのアイテムは…!」
「ぐちゃぐちゃしないで、はやく逃げなさいっ!」
いずれ金色のシールドが壊れ、出来の持っていたアイテムから放たれた光が消えた。
「皆、逃げ…!」
出来が後ろを見た時には、もう誰もいなかった。皆、命が惜しくて、自分だけ生きたくて、何も言えず、逃げてしまったのだ。
建物が崩壊し始めた。でも、出来は彼らを恨まなかった。ただ、自分のやり遂げる使命を果たして、嬉しかっただけ。
(良かった。これで私の罪を、償える…。)
出来を向かい、壁が崩れた。彼女はそっと目を閉じた。涙を一粒だけ、流して。
「お母さん!」
クラッシュが飛んでいたが、届かなかった。目の前で消えてしまう母を見て、クラッシュは引き裂かれるようなわめき声を出した。いくら叫んでも、返事はなかった。
「嘘でしょう…。」
建物のように、クラッシュも崩れた。
「どうしてこんなことに…。」
その場に座り込んだクラッシュは、ショックで変身まで解いた。
「こんなの、いやだよ…!」
愛子は泣き始めた。インターセプトも、エリミネートもどうすることが出来なかった。友達でも慰めない痛みを、今、二人は感じていた。だって、誰もがカゲになって、二人とも、家族さえ探すこと出来なかったから。
「おい、出来!」
「確りするっす!」
「え…?」
愛子が顔を上げた。崩れた建物の中、暗い気配を感じた。
「貴方は!」
そこには妄想帝国の幹部である、ヘイトが、出来を抱いていた。
「お母さん!」
愛子が走ってきたが、ヘイトの濃いオーラが、愛子の前を立ちふさがった。
「お母さんを返して!」
「それはできない。」
ヘイトの笑いは、血の臭いをしていた。
「この方はデリュージョンさまの大事な家族だから。」
「デリュージョンの、家族?」
愛子の瞳が振えた。鼓動が高まり、胸から大きな音が鳴った。
「嘘…でしょう。デリュージョンが、家族なんて…。」
「己れ!」
遅ればせに現れた神様がヘイトを睨んだ。でも、もう出来はヘイトの手の中に…。
「まあ、今日はこれぐらいしておく。」
ヘイトがゲートを開き、その中へ消え去った。
「この人が欲しいなら、来い!妄想帝国へ!」




