第十四話 ▶FUTURE SEVEN。愛子とお父さん、愛は無敵なんだから!◀
やっと、たどり着いた真実。
第十四話 ▶FUTURE SEVEN。愛子とお父さん、愛は無敵なんだから!◀
長老の家から出てきた三人は、変身を解いていた。闇を貫いて町へ戻る三人は深刻な顔をして歩いた。
「明日の夜っすね。」
「ああ。」
「頑張って、覚悟を決めるっす!」
「覚悟なんかで出来るものかな。」
「前向きが大事っす。愛子ちゃんは、どう思うっすか?」
「…。」
「おい、出来!」
「え、え?何?どうかしたの?」
「話、全然聞いてねえし。」
「ご、ごめん。」
「何かあったんすか?」
「なんでも、ない。」
愛子が笑った。その笑いから漏てくる痛みに気付いたウィルヘルミーナは、気遣わしいげに愛子を見た。
「そうは見えないっす。」
「え…?」
「自分、長い苛め生活で、顔色だけは良くうかがうっす。今の愛子ちゃんの顔、心配いっぱいっす。」
「俺、勘が鈍いが、今の空気は読めるんだ。」
「みかさちゃんまで…。」
「お前、何か隠しているんだろう。」
愛子は戸惑った。敵である神様の娘かも知れない。その思いだけで愛子は取られていた。それを言えない愛子は、苦し気に笑って見せた。
「ありがとう、二人とも。」
「出来、お前…。」
ウィルヘルミーナがみかさの一肩を掴んで、顔を振った。ウィルヘルミーナにはわかった。お互い名前で呼びあっても、まだ三人はあったばかり。本当の親友になるには、早すぎた。
「ちぇ!」
みかさはウィルヘルミーナの手を振りきった。ご機嫌斜めのようだった。愛子と背を向けて立ったみかさは、坂をどしんどしんと下った。
「どこ行くっすか?」
「家に決ってんだろう!」
みかさの叫びが響いた。友達と認めた者が自分の秘密を隠す。それが悔しかった。裏切られた気がして堪らなかった。
「あんなやつを達だと信じた俺が阿呆だ!」
「みかさちゃん、違っ、待っ…!」
ウィルヘルミーナが愛子を止めたのは、その時だった。
「ウィルヘルミーナちゃん?」
「時々、一人だけの時間も必要っす。でも、頼りにしてくれないのは、ちょっと寂しいっす。」
「その、ごめん…。」
「平気っす。何時か笑いながら話す日が来るっすね。」
切ない声が、辛そうな顔が、痛みになる。それでも何も話せない自分が馬鹿みたい。胸が苦しくて、声さえ出なくて。
あの夜、愛子と母は喧嘩をした。大声が行き違い、大荒れがあった。流れる時間を盛なくて、涙をこらえなくて愛子は家を飛び出してしまった。突然の家出はなんの準備も出来ないまま行って、愛子は行方を失った。
(どうしよう、金も持ってないし。スマホも部屋にいるし。)
とぼとぼ歩いていた愛子の瞳の中、公衆電話が入った。愛子の頭に浮かぶ一つのアイデア:お泊まり。
(でも、クラスの皆とは仲悪いし。これじゃ、みかさやウィルヘルミーナに頼むしか…。)
愛子は先、腹を立てたみかさを思い出した。かなり怒ってた顔を描くと、どうしても電話出来なかった。残ったのはウィルヘルミーナだけ。愛子は深呼吸して、電話をかけた。
「愛子ちゃん!」
ウィルヘルミーナはすぐ来てくれた。ぎゅっと愛子の手を繋いだウィルヘルミーナはなぜか目を煌めいていた。その上に、コンビニまで立ち寄って、お菓子をいっぱい買った。
「そんなに沢山?」
「平気っす、平気っす!」
(ウィルヘルミーナちゃん、ちょっと浮かれているような…。)
にこにこするウィルヘルミーナを見て、愛子は顔の汗を抜いた。ウィルヘルミーナについて、あちこち連れていかされ、よくよく困っていたのだ。
「ケーキは好きなんすか?」
「いや、その…。」
「じゃ、ステーキはどうっすか?」
「結構です。帰りましょう。」
二人はウィルヘルミーナの家に向かった。そこで愛子はみかさに電話しなかったことを後悔した。
「フッデアボント!ミナンのパパです!」
「ママですよ!」
「ようこそ、我が家へ!」
「え、ええええぇえ?」
目の前に見えるのは大きな垂れ幕。歓迎のプラカードまで持っている二人に愛子は呆れ果てた。
「ウィ、ウィルヘルミーナちゃん…?」
ウィルヘルミーナの両親を止めたくて助けを求めたが、むしろウィルヘルミーナは頬を触ったまま瞬きをしていた。
「実は自分、今まで友達を連れてきたのは始めてっす。」
「え。」
「だからなんでもしてあげたいっす。なんだって出来る気がするっす!愛子ちゃんと一緒なら、今夜、燃え尽きるっす!」
「いやいやいや、そうまでは…。」
「お泊まりの花は、夜もすがらのパジャマパーティー!」
「そんなの聞いてないし、パジャマもないし…。」
「愛子ちゃんのパジャマもよいしたっす!」
愛子は目を逸らしたが、現実は目の前迫って来た。結局パジャマを着た愛子はウィルヘルミーナの部屋へ引っ張られた。
「ミナン、頑張って!」
「コムオプ!応援してるぞ!」
「ヤァ!ダンキュウェル!」
ウィルヘルミーナは両親のファイトをもらって、瞳の中の炎を燃やした。ほとんど諦めた愛子は運命を受け入れることにした。
「愛子ちゃん、お菓子はどうっすか?お茶は?日本人はお茶大好きっすね?」
「いや、満腹だから。」
「残念っす…。」
すぐ落ち込むウィルヘルミーナを見て、愛子は早く話をそらした。
「それより、ミナンって?」
「家族や親しい人だけ呼ぶニックネームっす。」
「愛称なんだ。」
ウィルヘルミーナはいつの日か、みかさや愛子が自分をミナンと呼んでくれるように神様祈った。でもすぐ、その神様が自分の敵だと言う事を思い出した。
「どうかしたの?」
「好きな人と戦うなんて、辛いっす。」
「まだ神様のこと好きなの?」
「はじめて自分をこの町の一員だと認めてくれたっす。嬉しかったっす!」
「へえ。」
「愛子ちゃんは、知ってるっすか?『はじめ』がどのくらい大事なんすか。二度もあるけど、はじめは特別っす。まるで、コロンブスの卵みたいっす。だから、どうしても、忘れられないっす。」
自分の話を長く続けるウィルヘルミーナの声には偽りが一掴みもなかった。自分が感じる全てをそのまま話してくれるウィルヘルミーナに、愛子は何故か罪の意識に苛まれた。だから、悪いことだとわかっていても、寝たふりをしてしまった。
「え、まさか、もう眠りについたっすか?」
愛子は返事しなかった。ただ、息音だけ立てた。愛子をじっと見ていたウィルヘルミーナがちいちゃく微笑んだ。
「お休みっす。」
ウィルヘルミーナも眠りについた後、愛子はこっそり目を覚した。天井には宇宙をイメージした蓄光のステッカーが輝いていた。暗い夜空もキラキラ照らしたい。町の、世界の一員になりたい。そしてこの世界を守りたい。影を排除し、笑顔だけに満たしたい。この小宇宙にはきっと、ウィルヘルミーナの夢が煌めいてる。そう思ったら、何故か安らぎを感じられた。その暖かい温もりの中、愛子はそっと目を閉じた。
次の日、二人は一緒に学校に行った。制服がない愛子のため、ウィルヘルミーナは喜んで自分の制服を貸してくれた。二人が手をつないでウィルヘルミーナの家から出る姿を、みかさは密かに、電柱の後ろから見ていた。
(なんだよ、二人だけべったりして!)
自分の居場所をなくした感じ。何かを失われた無力感が満ちてくる。
「みかさちゃん、おはよう!」
同然、みかさは教室でも二人の挨拶を受けなかった。教室の空気は愛子たちを苛めている。三人だけの世界で、一人がなくなるのは大変で、愛子とウィルヘルミーナは寂しさを感じた。もちろん、みかさもだ。
授業が始まっても三人は絡まれた友情と、今夜の起きる儀式に捕らわれて、考え込んでいた。妄想帝国に反逆の牙を向く三人は何人の大人達に随分嫌われていた。そんな時、今夜の儀式に夢中な愛子たちを見ていると、先生はいらいらしてきた。先生は、誰でもなく、長老の家に攻め入った人の中の一人だった。
「出来さん!」
「は、はいっ!」
「ちゃんと答えなさい。お父さんのお仕事はなんですか?」
「あの、それが…。」
愛子の瞳が揺れた。迷う愛子を見て、先生はため息を吐いた。
「お父さんのこと考えても、どうか賢明な決断をしなさい。」
チャイムがなった。先生は教員室に戻った。愛子は返事もせずに、俯いた。
「賢明な決断って…。」
今度は愛子がため息を吐いた。愛子のその姿をウィルヘルミーナが見つめていた。心配そうな顔が、波のように皺んだ。みかさも愛子をちらちら見ていた。言葉にできなかった心が、口の中で苦く溶ける。
皆が帰った後にも、愛子は一人教室に残った。太陽が沈み、夕日が散り敷く。赤い空を見ながら、愛子は何か独り言を言った。
「…夜まで待つこともない。」
突然拳を握り立ち上がった愛子は後ろで待ってる二人に近寄った。
「ねえ、みかさちゃん、ウィルヘルミーナちゃん。」
三人はまだぎこちない空気を纏っていた。けど、愛子は迷わなかった。これは自分のためではなく、世界のためだから。
「今夜の戦いは誰でもなく、世界のためだわ。だから、今夜だけは私と一緒に戦って欲しい。」
「了解っす!」
「みかさちゃんは?」
「わかってんだから。」
文句を言いたい、と言う顔だったが、みかさは他に何も言えなかった。先、先生が父の話を口にした時の愛子の顔が、網膜に厚く移っていたから。
真っ直ぐに変身した三人は山の天辺を目指した。夕日が曇る時間、山には誰もいなかった。多分まだ、普通の人たちの中でカムフラージュしているはずだった。
「良いっすか?」
エリミネートがクラッシュとインターセプトを振り向いた。
「神様を祭る者たちが集まる前、神社を撃つっす。そうしたらきっと、町中に隠れている信者達が出るはずっす。」
「出たら自分から身の上を明かすこと。出なかったら戦う必要がなくなること。なかなかだな、エリミネート。」
「へへ、ありがとうっす!」
その後、クラッシュ達は神社を壊し始めた。高い祭壇が崩れ、供物を半割りする。敵を掃討するため、努力を惜しまない。
「っ?!」
司祭と共に自分だけの空間にいた神様は、力の源が崩れる感覚に苦しんだ。はやく鏡に銀河の町を映した神様は歯ぎしりをした。
「マジプロ…。また奴等か!」
「マジプロ?」
司祭は最初、首をひねたが、すぐ真面目な顔でクラッシュ達を見た。神様はすぐポータルを作り出して、司祭と共に町へ降りてきた。
「もう止めるんだ!」
司祭が叫んだ瞬間、クラッシュは攻撃を止めた。後ろを振り向いたクラッシュが見たのは真剣な瞳でクラッシュを見ている司祭だった。
「君達、どうしてこんなことをする!」
「そりゃこっちのせりふだぜ!」
「なぜ女帝・デリュージョンのため働くっすか?」
「デリュージョン様は何も悪くない。全ては銀河の町のため…。」
「嘘!」
クラッシュが声を張り上げた。
「デリュージョンの世界はぼろぼろだわ!こんな世界、私が認めない!」
「君達は何も知らない。神様とデリュージョン様はこの町のため働いてる。」
「銀河の町だけ、生き延びれば良いってこと?」
「それは…。」
司祭は何も言えなかった。目を閉じて、現実から目をそらしてしまう司祭の姿を見て、クラッシュが大声で叫んだ。
「嘘つき。」
「今、なんだと…?」
「お父さんの嘘つき!」
「何?!」
「あの人、愛子ちゃんのお父さんっすか?」
インターセプト達が慌ててる時、クラッシュの視線が滲んだ。
「この町のため働くと言ったのに、どうしてこんなことするの?」
過去、愛子は母に問いかけた。『何故お父さんは神を祭る。』と。そうしたら、母はこう答えた。
(どっちも悪くない。神様も、マジプロも。)
(訳わからない…。)
愛子の頭の中が渦巻いた。心の中が沸き上がった。何もかもわからなくなった瞬間、愛子は涙を流した。
(お母さんの馬鹿…。)
(なんですって?)
(お母さんなんか大嫌い!)
(ちょっと、愛子!)
家を飛び出した愛子はそのままウィルヘルミーナに連絡をして、彼女の家に向かった。解決されない感情を胸に抱いたまま。
「どうして妄想帝国の見方になったの?」
「そうしないと、お母さんが傷付いてしまるからさ。」
「お父さんは、お母さんを愛してる?」
「もちろんさ。」
「お母さんが、何か隠していても…?」
後ろに隠した手が振えてきた。もし、お父さんがお母さんを捨てたらどうしよう。そんな心でいっぱいになって、不安で、いらいらして…。
愛子のお父さんはちょっとだけ、何も言わなかった。時間が流れ、やっとたどり着いた未来で、お父さんは口を開いた。
「何もかも、受け入れる。」
「お父さん…!」
父の顔が滴る。優しく笑ってくれる。押さえきれない涙を吹き出してしまう。
「クラッシュ…。」
みかさがクラッシュの名をつぶやいた。その後、拳をぎゅっと握った。
(俺の父ちゃんも生きていたら…。)
みかさは父を思い出した。だが、思いでは少なかった。何時も酔っぱらいになって、母とみかさを殴ったばかり。その他に思いでと呼ばれる物はなかった。
「インターセプト!」
「え?」
「なんかあったんすか?」
「何でもねえ…。」
インターセプトを見つめるエリミネートの瞳が揺れた。やっぱ苛められたら、目端が利くようになる。
「見ていらんねえ。」
家族のお話を聞いていた神様はけっこう怒っていた。計画は狂ったし、司祭まで自分を祭らずにマジプロを味方する今の状況に疳の虫が起った。
「ここで手前ら全員倒してやる!」
神様の拳が愛子のお父さんを狙った。何かにぶつかる感じで笑った神様は、砂煙が消えて現れた少女の姿を見て、驚いた。
「私のお父さんに、手出しはさせない!」
「!」
「家族がいる限り、私は無敵なんだからぁあ!」
クラッシュの拳が神様を狙った。神様は攻撃を防いだが、すぐシールドが破れた。
「くっ!」
神様は歯を悔いしばい、後ろへ退った。
「手前ら、マジプロ!覚えてろよ!」
「待つっす!」
神様が姿を消す前、エリミネートが叫んだが、神様は後ろも見ず逃げてしまった。
「神様…。」
変身を解いたウィルヘルミーナが切なくつぶやいた。それを見ていたみかさはウィルヘルミーナの一肩をつかんで、首を振った。
「な、それよりさ。」
ウィルヘルミーナが落ち着いた時、みかさが愛子に聞いた。
「お前が神の子ではないと、女帝・デリュージョンはいったい誰だ?」
「そういえば…。」
三人が考え込んでいるとき、愛子の父が愛子の手をつないだ。
「お父さん?」
「いずれわかるさ。いずれな…。」




