第十二話 ▶FUTURE SIX。大変!ばらばらの町!◀
真実は何処にあるのか。
第十二話 ▶FUTURE SIX。大変!ばらばらの町!◀
「悪いっす。自分、二人を一人ぼっちにしちゃったっす。」
あの戦いの後、三人は愛子の部屋で夜すがら語り合った。ウィルヘルミーナは、ずっと自分を責めた。自分の所為で皆を苛めにしちゃったと思ったら、顔をあげられなかった。だが、以外にみかさと愛子は平気だった。
「うっせえな。いつまで自分責める気?」
「でも…。」
「ねえ、ウィルヘルミーナちゃんは今、辛い?」
「助かった、と思うっす。」
「なら問題ねえ。あんなやつら、こっちからごめんだ。」
「それに私達、絶対一人ぼっちなんかじゃない。三人だもんね!」
「木村さん、出来さん…。」
「いつまで名字で呼ぶ気?」
「えっ…。」
「みかさで良い。」
「愛子って呼んでくれたら嬉しいな!」
「みかさちゃん、愛子ちゃん…!」
「これから三人で頑張ろう!」
「はいっす…!」
ウィルヘルミーナの笑顔が二人を照らした。その微笑みには更なる微笑みを呼ぶ力があって、二人に元気をくれた。
「いい笑顔だ。力が沸いてくる。」
「だって、ウィルヘルミーナちゃん、可愛いもん!」
「そ、そんなことないっす。」
「色んなアイドルを見てきた俺にはわかる。お前の笑顔はアイドルに次ぐ。いや、アイドルに比べない。」
「照れちゃうっす。止めるっす。」
「何時かこの戦いが終わったら、アイドルやってみないか?」
「アイ…ドル?」
「まあ、妄想帝国に支配されてる今じゃなんにもできねえけどな。」
「そうだね。今は妄想帝国を倒すことに集中する時。」
「自分、二人と一緒なら、何も怖くないっす!」
「ああ、俺もさ。」
「私も!」
見つめる瞳に愛情を込めた。手と手の繋がりに恐れはない。話し合う幸せ、感じ合う優しさに、三人は心強くなった。
「ストローク・プロミネンスすっか?」
「ああ、めちゃ強いマジプロだ。」
「聞いたことないっす。」
「私も。」
「ちょ、お前が知らねえとどうすんだ。お前、この町の原住民じゃん。」
「あ、は、は…。私、原住民だったけ…。」
ぎこちない笑いが小さく響く姿に、ウィルヘルミーナは漏る笑いを我慢出来なかった。みかさもその笑顔に完全に感染して、笑いを堪らなかった。
「いい笑顔だわ。」
「あれ?お母さん!」
母の声を聞いた愛子の顔が一際明るくなった。そこに比べて、みかさの顔は青ざめていく。
「貴方はっ…!」
みかさと愛子の母の目が合った。先に沈黙をやぶったのは愛子の母だった。
「あら、愛子の友達?」
「?!」
優しく笑う愛子の母を見て、みかさは何もいえなかった。
「いらっしゃい。」
「は、はいっす!」
「緊張しないでいいわ。」
「何処いってきたの?」
「お客さんのお迎え。」
「え?誰か来た?」
「もう帰ったわよ。」
「そんな!」
愛子が口を尖らせた。どうやら、誰かを待っていたよう。
「みかさちゃん、何かあったんすか?」
「あの人だ…。」
顔が真っ青になって、みかさが呟いた。
「ストローク、プロミネンス…!」
「!」
愛子もウィルヘルミーナも驚いた。瞬間、愛子の母の顔が暗く閉ざされた。
「どうしてその名を知っているの?」
「貴方が私にそう言いましたから。」
「私が?」
「どうか思い出してください!俺、いや、私を助けたことを!」
笑顔は何処に消えたのか。化石のような表情は、益々固くなった。
「…人間違いだわ。」
「嘘!」
みかさが大声を出した。
「どうして自分を認めないですか?貴方は確にストローク…。」
「この町でその名はタブーだわ。言っては行けない。」
愛子の母は冷たく口封じをした。くるりと向き直る愛子の母を見て、みかさの顔が絶望に染まった。
「夜遅いわね。早く寝なさい。」
三人は階段を下りる背中を、見るしかなかった。
愛子の母が帰った後、部屋の空気は固くて、息苦しいほどだった。誰も声を漏ず、ただ、下だけ向いていた。
「ねえ、みかさちゃん。コンサート、何時だったけ。」
「四日前。」
「…あの日、お母さんと私、病院に掛った。」
「そんなの可笑しいっす!」
ウィルヘルミーナが叫んだ。
「なら、みかさちゃんを助けた人は、誰なんすか?」
「それは…。」
「きっと、お前の母ちゃんだったのよ!どうして信じてくれないんだ!」
「信じるよ!私、みかさちゃんを信じる!」
「じゃ、なんだ!」
「でも私、本当にお母さんといたもん!」
沈黙が舞い落ちた。空気の花びらは、一人一人にある感情をもたせた。それは多分、不信感という、破れた心。
「…寝よう。」
眼差しを伏せるみかさは、一所懸命感情を押していた。
(どう考えても可笑しい。)
眠れない夜、愛子は一人で心の中を漂う。
(お母さんもマジプロなら、この町から追い払われたはず。なのにどうして、皆お母さんに優しくしてくれるんだろう。)
色々考えてみたが、答えにはたどり着けなかった。寝転んだ愛子はすぐ、側にいる仲間達に向き合った。
(起きたのは私だけ、か。)
また、太陽は山を登る。はやく起きて朝を迎ないと、時間が泣いてしまう。その涙が溜ったら、いつの間にか、自分を突き抜ける大きな矢先になる。その矢のなは…。
「『後悔』、か。」
開いた右手を見つめる神様の瞳には、悲しみが吊り下げていた。
「なんだって良い。俺の過ちを取り戻せるのなら…!」
「神様。」
神様は後ろを向いた。そこには、ローブを被った大人達が何人も集まっていた。
「儀式を行う準備を整いました。」
「急げ。マジプロに気付ける前に。」
「はい。」
町は散散だった。ある者は子供達との約束を守るため頑張っている。比べて、ある者は今にも女帝・デリュージョンが支配した昔を懐かしんだ。その理由はただ一つ:見方であった妄想帝国のカゲ達が、銀河の町まで手を伸ばしたから。
「このままなら、町の皆がカブッタカゲになってしまう!」
「そう言っても、子供達との約束を破ることは出来ない!」
「じゃ、どうすんだ!」
「僕にもわからないんだ!」
皆の思いが一つになれないまま日々は過ぎて行く。
「マジプロさえ現れなかったら、大騒ぎになれなかった。」
「すべてこの町に彼女らが、マジプロが生まれた所為だ。」
「マジプロなんか、なんの役にも立たねえ!」
その騒ぎの中で、マジプロ達がいた。誰もが、特に女帝・デリュージョンを懐かしむ人達は、マジプロを憎み、すべて彼女らの所為にした。
「危ねえな。」
「そうっす。このままじゃまた皆、カブッタカゲになるっす。」
「…。」
愛子はあらそう人達から、目を離さなかった。その一言が集まって、愛子を傷付けた。
「おい、愛子!」
「え?なに?」
「聞いてんの?」
「勿論だよ!確にこのままでは駄目だし。何とかしないと!」
「自分、計画があるっす。」
「計画?」
「このまま、デリュージョンに仕える皆を追うっす。すれば、必ずその源に合うっす!」
「いいプランだな。そう思わねえ?」
「そ、そうだね…。」
「愛子ちゃん、様子がへんす。」
「だって、私のお父さんが…。」
「愛子の父ちゃん?」
「…いや、なんでも、ない。はやく変身しよう!」
愛子が先に変身した。桜色の光が愛子を包み込んだ。みかさは青、ウィルヘルミーナは赤の光を放した。皆が放つ光に、カゲ達が逃げ始めた。
「おい、あそこ!」
「マジプロかっ!」
マジプロの色を目にした人達は、急いでその光を追った。でも、行き止まりの道に、三人はいなかった。
「くそ、逃がしたか!」
「次は絶対捕まってやるぞ!」
人々が散らばった後、クラッシュ達はまず一団の大人達を追い掛けた。大人達の動きはどう見ても怪しかった。きょろきょろ辺りを見回す大人達は、大汗をかいていた。まるで悪いことを用意する子供みたいに。
「何処へ行くのかな。」
「俺にわかるか。」
「とにかく追うっす!」
大人達は急な坂を喘ぎながら登った。その先にあるのは、長老の家だった。
「ここは長老の…。」
「静かに!」
インターセプトがクラッシュの口を塞いだ。鳴りを静めて、三人のマジプロはあちこち飛び回った。まるで忍者のように、やくざな音は出せなかった。長老の家に辿り着いた三人は密かに屋根の上を踏んだ。煙突から聞こえてくる大声は、いかりが籠もっていた。
「話が通じねえ!」
おこりがふわふわ煙る。
「後悔するぞ!」
大人達は、怒った顔でドアをばたりと締まった。大人達は、再び町へ戻ってきた。
クラッシュが手まねをすると、インターセプトとエリミネートがうなずいた。三人が煙突の中に飛び込もうと思う瞬間、その中からとろみを付けた声が聞こえてきた。
「もはや姿を暗ます必要はないじゃ。入ってこい、マジプロ達よ。」
「!」
三人は驚いたが、ばれたら仕方無かった。屋根から下りてきた三人は家に入った。木々を重ねて作られた古い家はどう見ても見窄らしかった。いたずらな風が勝手に入ったり、太陽の光で目が眩しくなったりした。
「どうぞ。」
長老は入れたお茶を注いだ。四つの湯飲みを睨んでいたクラッシュが口開いた。
「毒物を、混ぜたですか?」
長老は何も言えず、先にお茶を飲んだ。やっと安心したクラッシュは腰を下ろした。
「ちょ、クラッシュ!」
「敵ではなさそう。」
「ちぇ!」
インターセプトがぶつぶつ言いながら座った。エリミネートもその右に座った。まるで腹を読むように、長老はクラッシュの瞳をじっとみた。
「儂は町を守りたがっただけじゃ。」
「その方法は間違ったけど、ね。」
「汝が現れると知っていたら、こんなことしなかったじゃ。」
「言い訳っす!」
エリミネートがいきどおった。長老は、答えなかった。
「先の人達はなんだ?」
「神様を祭る者じゃ。」
「彼らの目的は?」
「この町の完全なる支配じゃ。」
「そんなの出来るわけないっす。だって、妄想帝国に反旗を翻った人々が溢れてるっす!」
「その心を奪うまでの話じゃ。」
「なんだって!」
「我慢して、インターセプト。これは長老の意見ではない。神様の見方である、大人達の意見だ。」
「くっ…!」
悔しかった。でも、仕方無かった。敵は長老ではなかったから。
「なにが知りたい。」
「ストローク・プロミネンスの事よ。」
「それはいけないんじゃ。汝には真実を受け入れる力がない。」
「真実を受け入れる力…?」
「出鱈目な事喋って、俺達を馬鹿にする気か!」
「お、落ち着けるっす!」
エリミネートがインターセプトを止めた。そのうちにも、クラッシュは質問を続いた。
「なんでもいいよ。ストロークのこと、教えて!」
「ストローク・プロミネンスは、神様の恋人じゃ。」
「!」
沈黙が漂った。インターセプトとエリミネートはクラッシュを見た。クラッシュはかなりのショックを受けた顔をしていた。
「あんた、まさか神様の…。」
「止めて!」
「汝にはその真実も辛い筈。なら、これ以上は無理じゃ。」
「…。」
クラッシュが唇を噛んだ。
「多分、明日の夜、人達を女帝・デリュージョンの下部にする儀式が始まる。儀式が行われると、儂も洗脳されるはず。女帝・デリュージョンの下部になりたくないなら、急ぐんじゃ。」




