第十話 ▶FUTURE FIVE。友達と言う奇跡!エリミネート・プロミネンス!◀
ありえないことを起こすのが、奇跡。
第十話 ▶FUTURE FIVE。友達と言う奇跡!エリミネート・プロミネンス!◀
マジプロの負け。それは彼女らに可成ショックであった。一番落ち込んだのはウィルヘルミーナで、ずっと自分を責め立てた。
(きっと、あの時の戸惑いは許せられないっす。)
「ハースタートさん?」
(自分、あの二人に嫌われた筈っす。)
「ハースタートさん!」
「は、はいっす!」
俯いていたウィルヘルミーナはあたふた頭を擡げた。その所為で、鉛筆や消ゴムが机から落ちた。その姿を見て、クラスメート達は笑い始めた。止めるべきの先生はいらついて、彼女を見下ろした。
「お邪魔でしょう。しっかりしなさい。」
「すまないっす…。」
逃げたい、逃げない、この瞬間が地獄だった。この町で生まれたけど、全然らしくない。それだけでウィルヘルミーナは見物されていた。それを見ていた二人、愛子とみかさは、御機嫌斜めだった。
「休み時間にちょっとお話ししましょう。」
チャイムがなった。休み時間、みかさと愛子は廊下の片隅、先生とウィルヘルミーナの相談を盗み聞きした。
「貴方、いくつですか。」
「え?」
「何年生ですかと聞いている。」
「二、二年生っす。」
「それなのになんでまだ赤ん坊のい振りをするつもりですか?」
「…。」
「皆に迷惑をかけないでください。」
先生は振り向いて階段を降りた。そこで待っていたのは壁に寄り掛かっていたみかさだった。みかさは教員室に行こうとする先生の行く手を遮った。
「なんですか。」
「酷いじゃん、そんな言い方。」
「貴方とは関係のない事。退けなさい。」
「その生意気な態度が気に入らないんだよ!」
「木村さん!」
愛子が早くみかさの手を取った。
「すみません、先生。木村さんこの町にきたばかりだから。」
「転校生は転校生らしく行動しなさい。それじゃ。」
「まだ話は終わっていないんだ!放せ、平!」
「木村さんの気持はわかる。でも、気持だけでは届かないことがあるの!」
みかさの足が止まる。切れた足跡は目指していた夢を忘れ、後ろ振り向くだけ。
「私達、マジプロでもないし、もう何の力もないのよ!」
その言葉が、みかさの心をきつくぶたれた。町の人たち皆ウィルヘルミーナの見方ではなかった。そして、愛子もこの町の人であった。それに気付くまで、長い時間が必要だった。
「わかってくれた?」
愛子は再びみかさの手を取ろうとした。でも、愛子の進めに、みかさは後あとじさりした。
「木村さん?」
「…お前も同じ。黙って、見捨てて、あいつを一人ぼっちにした。」
「え。」
「俺はあいつを掘っておけない。マジプロじゃなくても、何とかする。して見せる!」
「木村さん!まっ…。」
みかさは愛子の手を振りほどいた。何かに追われるように、逃げるように、振り向かず走り出した。みかさがいた場所には、傷だらけの少女だけ残っていた。
ぼうっと、愛子は前をみる。遠さがるみかさの背中をみる。
「マジプロじゃなくても、何とかする…。」
愛子は視線を空へ移した。曇っていたのは空か、自分の瞳か。もう何もわからなくなった愛子は、歯を食いしばった。
ウィルヘルミーナを探していたみかさは、誰もいない場所でウィルヘルミーナを探し出した。廊下の隅子、ウィルヘルミーナは涙を流していた。食わず嫌いをされるのが、切なくて。どこにも見方が見つからなくて。でも、両親には内緒で。叫びたい心を押さえて、泣くことしか出来なくて。
「おい。」
「な、なんすか?」
ウィルヘルミーナはみかさを見て驚いた。捨てられた猫のように、ウィルヘルミーナは身を竦めた。身を振えるウィルヘルミーナを見て、みかさはため息を出した。
「お前、皆が敵に見えるのかい?」
「え…。」
「なら大間違いだ。俺はお前を嫌いじゃない。」
「う、嘘に決まってるっす!この前、自分、あんたに嫌われて…!」
「誰だって邪魔されたくない時があるじゃん?今のお前だって。」
「そ、それは…。」
ウィルヘルミーナは悩んだ。友達になるところだった。もしかして、昨日、迷わずアイテムを掴めたら。でも、過去は変えられないし、今の彼女はマジプロではなかった。残酷な真実にウィルヘルミーナは首を横に振った。
「すまないっす。自分、マジプロになる資格、ないっす。」
「なに言ってんだ。マジプロに資格なんてねえ!」
「わたってる筈っす!自分、情けなくて、とても口下手っす。マジプロって、あり得ないっす!」
「ちょ…!」
「マジプロになれない自分はきっとあんた達に捨てられるっす。すぐ切れる関係なら、始まりたくないっす!」
「ハースタート!」
ウィルヘルミーナはそのまま逃げてしまった。彼女は思った。友達はきっと、使えるもの。そうではないと、すぐ捨てられる。愛子は優しくて、みかさは強い。それに比べて使い道がない自分は、きっと誰にも及ばない。
放課後になるまで、三人はお互いに話しかけなかった。話しかけられなかった。今、三人の心は、バラバラだったから。
帰り道、皆それぞれの事を考えた。けど、答えは出なかった。
みかさは部屋でギターを弾いたが、上手くならなかった。
「くそっ!」
腹が立った。ウィルヘルミーナにも、愛子にも、そして、なにも変えられない自分にも。
ウィルヘルミーナはベッドに横たわった。夜空には星々が輝いていた。目が痛いほど、美しかった。
そして、愛子は…。
「ただいま。」
「おかえり。」
元気なく、愛子は部屋に入った。それに気付いた母はそっと、愛子の部屋へ忍び込んだ。愛子は膝を抱えて、新学期の事を思っていた。
愛子だって、クラスの空気にはじめから乗った訳ではなかった。皆を変えるため頑張ったが、聞いたのは一つの質問。
『お前もあいつ見たいになりたいのか?』
その一言が、愛子の心を手折った。何もできなかった。無力だった。皆の前の一人は、結局、折れるべきだから。
「何かあったの?」
「え、お母さん?」
「元気ないね。今でも泣きそうな顔。」
「私、皆と一緒の色で輝きたい。輝けない。それが怖くて、怖くて…。」
母には子供の心をお見通す能がある。変なこと言っても、すべてわかる。だからこそ、母は愛子をぎゅっと抱きしめてくれた。
「お母さん?」
「愛子には愛子だけの光があるの。きらきら光る、貴方だけの心の色が、ずっと、輝いてる。」
「母さん…。」
「なんでも言ってご覧。お母さんは愛子の見方だから。」
愛子の目回り、涙がにじんだ。その涙には、星が込めていた。きらりと光るただ一つの星が。
「クラスの皆、ハースタートさんを一人ぼっちにしている。私は巻き込まれる事が怖くて、見て見ぬ振りをしていた。」
「そうだったね。」
「今更仲よくなりたいと思っても、偽善者に思われるでしょう?」
「いいえ。」
母はにっこり、愛子に笑ってくれた。
「勇気が目覚めた子だって、きっと思われる。」
「母さん…!」
愛子は悲涙にむせんだ。夜が終わるまで、朝が来るまで。
一方、妄想帝国の幹部達は、神様の行動の意味がわからなくて、語り合っている。彼らにとって裏切り者である神様が、敵であるマジプロの力の源を奪った。それは、大きな驚きであった。
「神がプリキュあのアイテムを奪ったようだ。」
「あいつ、何する心算?」
「もし、クラウンでも渡そうとしているのでは。」
「カゲルルルル!」
クラウン、と言う言葉に女帝・デリュージョンは仰天した。悲鳴が響き渡る、満ちて行く。後じさりする女帝を見る民を不安が包み込む。
「カゲ達の様子が…。」
「危ない、危ないぞ。」
「私が行ってくる。」
女の幹部・フィルムが前に出た。彼女の体は絵の具を混ぜたように赤かった。その姿はまるで怒りに燃えるようで、カゲ達は彼女を恐れた。
「デリュージョン様を守らなくちゃ。」
昨日も今日も明日も、ウィルヘルミーナは一人ぼっち。
一人で休み時間を過ごして、一人で昼飯を取り、一人で準備体操をする。
きっと、普通の教室だった筈の何処か。その中で、誰かは生き残るため奮励努力していた。
「皆さん、マーカーコーンを十個ずつ持ってきてください。」
先生はその話だけ残して運動場に向かった。多分それは、これから起ることをすべて無視したい意志。
「ねえ、ハースタートさん、私の分のマーカーコーンお願い!」
「私も!」
「僕のも!」
体育の時間、一番ウィルヘルミーナが使える時だった。全部ウィルヘルミーナに任せたまま、皆はお喋りの時間を楽しんだ。みかさはその姿が疎ましくてたまらなかった。
「お前ら!自分のコーンは自分が持ってこい!」
「なんだ、木村か。」
「無視、無視。」
「なんだって!」
「へ、平気っす!」
突然、ウィルヘルミーナが叫んだ。いつも静かだったウィルヘルミーナの大声に、皆、驚いたようだった。
「一人でも、大丈夫っす。」
「そんな訳!」
「何もわからないくせに口出しはやめるっす!」
「っ…。」
みかさは悔しそうな顔で、一歩退いた。皆に苦しめてるなら助ける。でも、これが自分の望みなら、仕方なかった。
ウィルヘルミーナは、こんなことまでしても、友達の中で認められたかった。
「早き持ってきてください!」
「は、はいっす。」
先生はウィルヘルミーナに直接話した。先生さえ、ウィルヘルミーナを荷担ぎにしていたのだ。ウィルヘルミーナは先生の元へ急いだ。
(小さいコーンでも、こんなに多いと足下が見えないっす…!)
危険な動きは見てるみかささえぎりぎりさせた。とにかくセーフだと思った瞬間、ウィルヘルミーナが倒れた。それも、先生の所に。
「私のヘアスタイルが!」
「あ、あの、すま…。」
「あんた、なにをするのよ!」
先生は随分怒っていた。生徒よりも自分の身が大切。そんな人だった。
「もう、だからあんたが苛められるのよ!」
「先生!」
みかさは先生と喧嘩し始めた。静かに、愛子はそれを見ていた。心が叫んでいた。このままではだめだって。でも、皆の話を聞いたら、体が動かなかった。
「転校生、生意気。」
「彼奴も苛められたがってるのかい?」
「出来さんはどうしてあんな子と付き合ってるのかしら。」
「まあ、彼奴も可笑しいじゃない。町の外へ出たりして。」
(!)
愛子はやっと感じた。助けられたい願いを。誰か手を伸ばして欲しい気持を。
「おい、止めろ。出来は銀河の町の人じゃない。」
「そうだね。止めようか。」
沈んでいく声達は胸に残っていた。鼓動が耳に鳴り響く。一瞬、一人ぼっちになった恐ろしさが、まだ心臓を突く。
(ど、どうしよう。)
ウィルヘルミーナの気持はわかる。だからもっと助けてあげたい。でも今、ウィルヘルミーナの見方になったら、皆の敵になる。先みたいな事をずっとずっと聞かなくてはならない。
(今、黙っていたら、私、普通に生きられる。皆と仲よく、二人を見ぬふりして…。)
悩みはどんどん大きくなる。いや、それは悩みより、恐ろしさに似ていた。一瞬で皆に捨てられる。すべてが決める。運命が、変わってしまう。
変わってる者はこの町で生き残られない。円の中に入らないと、排除されるから。でも…。
(見捨ていい…訳がない!)
愛子は拳を握って、目を瞑って、大きな声で叫んだ。
「もう、止めなさい!」
愛子は目を開けた。静かなクラスメート達、驚いた先生の視線。すべてが180°変わってしまった世界が広がった。
「こんなこと、もう止めて!ハースタートさんを苛めないで!」
そっと、みかさの顔で笑いが花咲く。誇らしげに、ウィルヘルミーナの手を取る。
「ハースタートさんも皆と同じよ。寂しくて、切なくて、眠れない夜もある。目の色が、髪の色が違うだからって、その感情まで違ったりしない!」
ざわめきが広がる中、愛子はウィルヘルミーナとみかさの手を繋いだ。そして、学校の外へ走り出した。
「ああ、すっきりした!」
風は戦ぎ、蝶々は踊る。愛子は青空を見上げ、体を伸ばした。
「すっきりするわけないっす!自分の見方になったら、苛められるっす!」
「そんなの関係ねえんだ。」
「そう、そう!私達にはお互いがあるでしょう?」
「『達』…。」
はじめてに聞く優しい言葉に、涙が宿る。ときめきが、ハートのビートが、止まらない。
三人が手を繋いだその時、神様はフィルムと話していた。
「貴様、マジプロに力を与えようとしているのではないか。」
「俺は彼奴らから力を奪っただけだ。すべては彼女のためだったんだ。だから頼む!女帝・デリュージョンの元へ、もう一度連れてくれ!」
「ふん、それが本当の気持なら、証明しろ。」
「証明?」
「マジプロ達を排除しろ。」
「!」
衝撃を受けた神様は、何秒、何も言えなかった。
「それが、デリュージョンの意志なのかい…?」
「だとしたら?」
「…わかった。今すぐやっつける。そこで見てろ。」
神様は三人がいる場所をすぐ見つけた。三人はウィルヘルミーナの秘密基地、つまり『焼け家』で語り合っていた。その時だったかな、突然エネルギーの球が三人の前に落ちたのは。
「な、なに?」
驚く余裕なんかない。神様はテレポートを使い、愛子やみかさを次々倒れた。最後の決め技を使おうとする神様に、ウィルヘルミーナが飛び付いた。
「どけ。」
「やだっす。」
自分を抱いて、動きを止めているウィルヘルミーナをみて、神様はため息をもらした。
「マジプロではないお前に用はない。頼むから俺の前から消えろ。」
「止めるっす!この二人は変身出来ないっす!」
「関係ない。俺はあいつらをやっつける。」
「卑怯っす!」
「ああ、俺は彼女の元に戻れるなら、なんでもする。」
神様はウィルヘルミーナにはじめて声をかけてくれた。手を出してくれた。でも、そうだからって、二人を見捨てる訳には行かない。
地獄見たいだった毎日を救ってくれた。やっと出来た友達だった。ウィルヘルミーナには、砂漠のオアシス見たいだった。大切な今が蜃気楼だとしても放したくなかった。
「神様、頼むっす。攻撃を止めるっす!」
神様に祈りを捧げたが、神様は首を横に振った。
「そんな…。」
「どけないと言うのなら…。」
神様がテレポートした。突然いなくなった神様の所為で、ウィルヘルミーナは重心を失って転んだ。神様はそのうち、二人を狙い大きなエネルギーの球を投げた。
「だ、だめっす!」
ウィルヘルミーナは二人の前へ急いだ。よろけながらも、ウィルヘルミーナは止まらなかった。だって、友のいない世界なんて、地獄だったから。生きていても生きていくのではない毎日に、呆れ果てたから、ウィルヘルミーナは迷わず飛び込むことが出来たかも知れない。
願いはただ一つ:あの二人と、もう一度語り合いたい。笑いたい。
強い願いは心に届く。況んや奇跡においておや。神様のポケットのなか、封じられた変身カード読みが、ドラマティックに、ウィルヘルミーナの手に。
「なに?!」
今度のウィルヘルミーナに迷う余裕なんかない。はやくアイテムを握って、変身した。
「マジプロ!時空超越!敵を排除しろ、エリミネート・プロミネンス!」
「更なるマジプロなんて?」
「エリミネート…。」
「プロミネンス!」
エリミネートはすぐ神様の力を消した。驚いた神様に、エリミネートが飛びかかった。
「そうね、強く願えば叶えるものだね。」
「それが、奇跡!」
二人のカード読みも神様の手の内から逃げた。
「マジプロ!時空超越!影の跡を壊せ、クラッシュ・プロミネンス!」
「マジプロ!時空超越!仲間を守れ、インターセプト・プロミネンス!」
木の上で彼女らを見ていたフィルムの目に写るのは、前より何杯も強くなった、マジプロ達の姿。そう、絆と言う奇跡が三人を結んでいた。
「やはり…!」
フィルムは、裏切り者を信じた自分を責めながらポータルの中へ消えた。慌てた神様は、フィルムがいた木の上を振り向いた。
「ちょ、ちょっと待て!」
「神様、すまないっす!」
「!」
その時、神様にエリミネートの攻撃が降り注いだ。神様は身を避けたが、もう襟はぼろぼろだった。神様にダメージを与えた最初の瞬間だった。
「ちぇっ…!」
神様はその一言だけ残し、ポータルの中へ入った。遠さがる神様を見て、エリミネートは辛そうな顔をした。
「神様…。」
エリミネートが神様の名を呟いた。初恋を見る切なさが伝わってきた。
「勝ったね。」
「ああ。」
「信じられない。」
「俺もだ。」
「こんな時には、やっぱりパーティだね!」
「はあ?」
「三人でパーティしようよ!ねえ、みかさちゃん、ウィルヘルミーナちゃん!」
「え…。」
突然、ウィルヘルミーナの目に涙が滲んだ。
「ちょ、どうしたのかい!」
「な、泣いてるの?」
「だ、だって、自分、生まれてから、他人に名前で呼ばれた事、ないっす、だから…。」
ウィルヘルミーナの言葉を聞いた二人は、優しく彼女を抱いてくれた。
「覚悟しなさい。これから沢山呼んであげるから。」
「はいっす…。」
その時、神様はある家の下で座っていた。そんな彼と一緒にいたのは、愛子の母だった。
「仕方無いね。いつも彼女には夢中になって、自分を追い詰めるから。」
愛子の母は、カード読みから出る光で、神様を癒してくれた。
「出来たよ。腕、動ける?」
「…ああ。いつもありがとう、平。」
「そう呼ばれるの久しぶり。」
神様は手を振り、薔薇の花束を作り出した。
「そんなことも出来たかしら。」
「もう、おこちゃま神ではないんだよ。」
じっと愛子の母を見ていた神様は薔薇の花束を彼女に渡した。
「これからは全力で行くつもりだ。平の娘だからって負けてやる考えはない。」「わかってる。」
「本当に良いのかい?」
「大丈夫。あの子なら絶対、乗り越える。」
「残念だが、信じる者は救われない。」
「それはどうかしら。」
愛子の母はそっと笑った。その笑顔を見ていた神様は、静かに目を閉じた。また目を覚ました時、神様の瞳には意志が満ちていた。
「じゃ、またいつか。」
最後まで、愛子の母から目を放さないまま、神様はポータルの中へ消えた。




